警察官の無念

公開日: 本当にあった怖い話

IMG_6637_s

年末、某県のフェリー乗り場で船の時間待ちをしていた。寒空の下、ベンチに座って海を眺めていたら、駐車場で妙な動きをしている軽四に気が付いた。

区画に入れたと思えばすぐに出たり、駐車場内をグルグル回ったり。何してるんだろうとボンヤリ見てると、俺の側まで来て停まり、中年の痩せた女が出てきた。

続けて、娘と思われる小学校低学年位の女の子と、もう少し年長の女の子が出てきて、中年女にジュースを買って貰っていた。自販機を探してたのかと思い、俺はそれきり興味を無くしていた。

しばらくして、パトカーが駐車場に入ってきた。フェリーの建物に横付けして停め、中から年寄りの警察官と、若い20代前半位の警察官が降りてきた。

のんびりとした様子で、事件とかいう感じじゃなく、ゆっくりと建物に入っていった。年末だったんで、歳末警戒とかいうやつだろう。

俺もそろそろ中に入ろうかなと思っていると、駐車場の方からタイヤが擦れる「キキーッ」という音が聞こえた。

とっさに振り返ってみると、さっきの軽四が急発進していた。海に向かって。

スローモーションみたいに、軽四がゆっくりと岸壁から離れ、アっと思っている間に、頭から海中に飛び込んだ。

俺はしばらくの間呆然としていたが、誰かの「車が海に落ちたぞ!」という叫び声で我に返った。辺りにいた数人と、岸壁まで駆け寄る。

軽四はケツを水面に出して、プカプカ浮いていた。俺はどうしようと思ったが、何も出来る訳がなく、波間にユラユラ揺れる白い軽四を見ているだけだった。

しばらくしてフェリーの建物から、従業員と先程の警察官二人が走って来た。

しかし、彼等にしたところで何が出来る訳でもなく、岸壁まで来て呆然と立ち尽くした。

重苦しい緊張が場を支配する。やがて意を決したように、若い警察官が上着と拳銃などを吊したベルトを年配の警察官に渡すと、一気に海に飛び込んだ。

海面に浮き上がった警察官は、徐々に沖に流されつつある軽四に向かって泳ぎ出した。

「頑張れ!」

周囲から警察官に向かって声援が飛ぶ。

俺も我知らず叫んでいた。

その警察官はあまり泳ぎが得意ではないらしく、浮き沈みしながらも何とか軽四まで辿り着いた。そして車体に手をかけ、リアウィンドウの上によじ登る。

軽四は警察官が乗っても、まだプカプカ浮いていた。岸壁から大きな歓声が上がる。

警察官は窓越しに何か叫び、バックドアを開けようと取っ手を動かしていたが、ドアは開かない。

車体が浮いているからには、中はまだ空気がある筈だが……。

そう思っていると、いきなり警察官が窓に拳を叩き付けた。何度も何度も。

「…はなし…やれ。……まき……に……な」

途切れ途切れに、警察官が怒鳴っているのが聞こえた。

振り上げる警察官の拳が、遠目にも赤く出血しているのが見える。それでも拳を叩きつけるが、窓はなかなか破れない。

その時、ようやくこの状況に気付いたのか、沖で操業していた漁船が猛スピードで近付いて来た。漁船が軽四のすぐ近くまで来て、これで助かる!

皆がそう思った瞬間、慌てたためか、なんと漁船が軽四に衝突した。海に投げ出される警察官。

しかもバランスが崩れたためか、軽四が急速に沈みだした。岸壁から見る大勢の人の前であっという間に軽四は波間に消えてしまった。

出てきた者はいなかった。

しばらくして、漁船に救助された警察官が岸に連れられて来た。歩くこともできないほど憔悴した若い警察官に、皆が拍手した。俺も手が痛いくらい拍手した。

助けられなかったけど、十分頑張ったと。すると警察官は、地面に突っ伏して大声で泣き出した。

そして、

「母親が、どうしても子供を離さんかった。子供が泣きながら手を伸ばしてたのに……」

鳴咽と一緒に洩れた言葉にゾッとした。

クリスマス(フリー写真)

塾のクリスマス企画

俺が小学生だった頃の話。 近所の小さな珠算塾(ソロバン塾)に通っていた俺は、毎年クリスマスの日の塾を楽しみにしていた。 クリスマスの日だけはあまり授業をやらずに、先生が子供…

ホテルの部屋(フリー写真)

有名な幽霊ホテル

知り合いの女性から聞いた話。 道後温泉の奥手にあるO道後温泉。幽霊が出るホテルがあることで、とても有名な場所。 そこのK館の50X号室に、彼女ともう一人の女性が泊まることに…

さまようおっさん

オレは結構、日常的に金縛りに遭うんだよね。あと、変なもん、いわゆる幽霊って奴の姿もたまに見る。『あ、出るな』って時の感覚も、敏感に感じちゃうわけ。 ある日の朝、オレはいつものよう…

白い女の子

先日、祖母の葬式のために生まれ故郷を訪れた。そこは山と畑しかないような、いわゆる寂れた山村だ。 私が小学生の時に両親と市内に引っ越したために足が遠のき、さらに大学に通うのに東京に…

木の杭

俺はド田舎で兼業農家をやってるんだが、農作業をやってる時にふと気になったことがあって、それをウチの爺さんに訊ねてみたんだ。 農作業でビニールシートを固定したりする時などに、木の杭…

ジャングルジム(フリー素材)

不幸の言葉

下駄箱に手紙が入っていたことがあります。 不幸の手紙です。 「この手紙を24時間の内に同じ文で5人に送らなければ、お前に不幸が訪れる」 と書いてあったので、家にあるコ…

ミンキーモモ

10年程前の話です。当時学生だった私は、友人とドライブに出かけました。昼間にも関わらず「横須賀の心霊スポットを見に行こう」というものでした。 場所は、ご存知の方はマニアと呼ばれる…

刑ドロ

小さい頃から柔道をやっていたのだが、そこで起きた話。 その道場では毎年12月の初め頃に「鏡開き」をやっていた。 夕方18時から夜の22時くらいまで、道場がぜんざいやおせちを…

メールの送信履歴

当時、息子がまだ1才くらいの頃。 のほほんとした平日の昼間、私はテレビを見ながら息子に携帯を触らせていた。 私の携帯には家族以外に親友1人と、近所のママ友くらいしか登録して…

コンサートホール

某コンサートホール

以前、某コンサートホールでバイトをしていました。その時の体験を話そうと思います。 初めに気が付いたのは、来客総数を試算するチケット・チェックの場所でした。 私たちはもぎった…