幽霊と酒

公開日: ほんのり怖い話

朝日(フリー写真)

母の同僚のおじさんが釣りに行った時のこと。

朝早く車で出掛けて行き、朝日が昇るまで車の中で焼酎を飲んで暖まっていた。

いつもは待ち時間用の小屋みたいな所で過ごすのだけど、その日は何となく車に居たらしい。

すると向こうからバイクがスーッと寄って来て、車の脇に停まった。

そのバイクに乗っていた20代くらいの若者は、ヘルメットを取って車の中を覗き込んだ。

おじさんは何事かと疑問に思いつつも窓を開け、その若者と会話した。

その場所は凄く田舎で、夜になると車通りが殆ど無くなるので『こんな時間にどうしたのだろう』と思って話しかけたのだそうな。

おじさんは若者を車に招き入れ、焼酎を振る舞った。

酒を酌み交わしながら、おじさんが

「こんな夜中にどうしたの?」

と聞くと、若者は

「ちょっと事故って…」

と言った。

よく見ると若者の頭には血が付いていた。

おじさんは若者の頭にバンソウコを貼ってあげた。

若者が帰る時、おじさんは若者がバイクで来たということを思い出し、

「スマン、酔っぱらい運転だなぁ」

と言うと、若者は

「バイク壊れてるんで」

と言い、おじさんの目の前でバイクを押して帰って行った。

その時おじさんは酔っていたので、バイクを押して歩いているにしてはやけにスピードが速いというか、殆どバイクに乗っているようなスピードで帰って行ったことを、さほど気に留めなかった。

さて、朝日が昇り、釣り舟が到着した。

おじさんは船長にその若者の話をした。

すると船長は少し言い淀んだ後、

「その若者はアレだよ」

と言った。

何でも、釣り人の待ち時間に使われる小屋には、若い男の幽霊が現れるということで有名なんだそうな。

酒飲みのおじさんは、母に

「幽霊と酒飲んじゃったよー」

と嬉し気に語った。

おじさん曰く、

「酒を飲み合ったら誰でもトモダチ。あいつはユウレイにしては良い若者だった。

あいつの話は面白かったなぁ。また飲みたい」

私はおじさんほど肝が座っていないので、ほんのり怖くなりました。

関連記事

湖(フリー素材)

白き龍神様(宮大工13)

俺が中学を卒業し、本格的に修行を始めた頃。 親方の補助として少し離れた山の頂上にある、湖の畔に立つ社の修繕に出かけた。 湖の周りには温泉もあり、俺達は温泉宿に泊まっての仕事…

恐怖のスイカ蹴り

俺の爺ちゃんの終戦直後の体験談。 終戦直後のある夏の夜の出来事、仕事で遅くなった爺ちゃんは帰宅途中の踏切にさしかかる。 当時は大都市と言っても終戦直後のため、夜になれば街灯…

天井(フリー写真)

遊びに来る友達

私が中学生の頃に住んでいた家での話。 私には四つ年上の兄が居る。兄には当時付き合っていた同い年の彼女が居て、家にもよく来ていた。 その彼女が来る予定の日、確か土曜日だった…

エレベーター

ワープする部長

会社でのぬるい話をひとつ。 コンサル部の部長は時々ワープするらしい。 打ち合わせ中に他の場所で目撃されたり、出張中なのにかかってきた電話に出ていたりと、「瞬間移動できる」ま…

古民家(フリー写真)

三階のトシ子ちゃん

春というのは若い人達にとっては希望に満ちた、新しい生命の息吹を感じる季節だろう。 しかし私くらいの年になると、何かざわざわと落ち着かない、それでいて妙に静かな眠りを誘う季節であ…

優しい抽象模様(フリー素材)

ともだち

最近、何故か思い出した。子供の頃の妙な「ともだち」。 当時の自分は両親共働きで鍵っ子だった。とは言っても託児所のような所で遊んで帰るので、家に一人で居るのは一時間程度。 そ…

アパート

黒い同居人

ある日を境に、私の部屋に“黒い人影”のような存在が棲みつくようになりました。 おそらく、どこかで拾ってきてしまったのか、それとも偶然入り込んでしまったのか――とにかく、それは静…

抽象画

お還りなさい(宮大工14)

俺が初めてオオカミ様のお社を修繕してから永い時が経過した。 時代も、世情も変わり、年号も変わった。 日本も、日本人も変わったと言われる。 しかし俺を取り巻く世界はそれ…

優しさを大切に

俺が小学校1年生ぐらいの時の話。 その頃、俺はおとなしくて気の弱い方で、遊ぶのも大体おとなしい気の合う子達とばっかり遊んでいた。 でも何がきっかけだか忘れたけど、ある時に番…

足音

これは母から聞いた話なんですが。 結婚前勤めていた会計事務所で、母は窓に面した机で仕事していました。 目の前を毎朝御近所のおじいさんが通り、お互い挨拶を交わしていました。 …