足が欲しい

帰り道

大学時代、一つ上の先輩から聞いた話。

小学4年生の頃、学校からの帰り道にいつも脇道から出てくる中年の男性がいた。

しかも常に彼女がその脇道を通りかかる時に出てきて、ぼんやりと立っていたという。

幼心ながら不気味に思っていた先輩はそのことを母親に相談したところ、暫く車で送り迎えをすることになった。

1ヶ月ほど車で送り迎えを行った後、もうそろそろ良いだろうということになり、再び徒歩での登下校になった。

そして実際、それから暫くは何も無かった。

しかし、その男は再び現れた。

彼女がいつものように帰り道を歩き、例の脇道に差し掛かった時だった。

ぬっと誰かが脇道から出てきた。あの中年の男だった。

そしていつも黙って立っているだけだった男は、彼女の方を見てこう言った。

「足が欲しい」

気が付くと彼女は自宅の前にいた。

しかし、その間の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっていた。

それ以降、その男には一度も会っていないという。

「そういえば、そのおっさんの腰から下がどんな風だったか、全然思い出せないんだって」

と先輩は話の最後にそう語った。

同じ先輩がやはり小学生の頃に体験した話。

その日は風邪気味で学校を休んでおり、自宅の2階にある自室で布団にくるまっていた。

ぼんやり外を眺めていると、家の前の道に喪服のような黒い服と帽子を纏った髪の長い女性が、俯いて立っていることに気が付いた。

なぜかその女性のことが気になり、彼女はベランダに出て行った(なぜそのようなことを考えたのか、後になって振り返ってみてもよく解らないという)。

すると彼女がベランダに出ると同時に、その女性がふっと顔を上げた。

その顔は雪のように白かった。比喩ではなく本当に肌が真っ白だったのだ。

そして呟いた。その呟きは離れているはずの彼女にもはっきり聞こえたという。

「足が欲しい」

気が付くと彼女はベランダで倒れていた。

時計を見ると、気を失った時から2時間ほど経っていた。

ちなみに、その先輩は今でも五体満足で生活している。

また二十数年の人生の中で、手足を失うような病気や事故が起きたこともないという。

彼女が幼い頃に遭遇したものが何だったのかは、未だに判らないそうだ。

関連記事

ゲラゲラ(長編)

去年の4月に大学を卒業して、マンションに引っ越した。 そのマンションの真ん中が中庭になっていて、俺は左端に住んでいる。 6階建てのマンションで、右側にマンションの玄関があり…

目の不自由な女性

就職して田舎から出てきて、一人暮らしを始めたばかりの頃。会社の新人歓迎会で、深夜2時過ぎに帰宅中の時の話。 その当時住んでいたマンションは住宅地の中にあり、深夜だとかなり暗く、ま…

行軍

爺ちゃんの従軍時代の話

子供の頃に爺ちゃんに聞いた話を一つ。 私の爺ちゃんは若い時、軍属として中国大陸を北へ南へと鉄砲とばらした速射砲を持って動き回ってました。 当時の行軍の話を聞くと、本当に辛か…

トンネル(フリー写真)

旧生駒トンネル

大阪と奈良を結ぶ近鉄奈良線。 その間に生駒山が立ちはだかり、電車は長いトンネルを通ります。 現在使われているのは「新生駒トンネル」。 しかし昭和30年代に掘削された…

んーーーー

現在も住んでいる自宅での話。 今私が住んでいる場所は特にいわくも無く、昔から我が家系が住んでいる土地なので、この家に住んでいれば恐怖体験は自分には起こらないと思っていました。 …

ベランダの女

俺が小学4年生の時の実体験。 俺が初めて学校をサボった時の話です。親にばれると怒られるのは目に見えていたから、学校に行くふりをして家の近くで時間を潰した。 姉貴と両親が出か…

ホテルの看板(フリー素材)

海外の幽霊ホテル

この前、ニュージーランドをバイクで旅したんだ。 南島にダニーデンという町があって、そこのユースホステルは幽霊が出ることで有名なんだ。 そこの建物は50年前まで病院だったらし…

棲家

9歳の時引っ越した私の家には何かが居た。 主に私の部屋で、金縛りはしょっちゅう起きるし、色んな人の声もする。 壁の中からだったり、寝ている自分の上や枕元、ベッドの下からなど…

谷川岳(フリー写真)

谷川岳の救難無線

大学のワンゲル時代の話。 部室で無線機をチェック中に、 「どうしても『SOS』としか聞こえない電波がFMに入るんだけど、どう?」 と部員が聞いて来た。 その場に…

犬(フリーイラスト)

じじ犬との会話

ウチのじじ犬オンリーだけど、俺は夢で犬と会話できるっぽい。 じじ犬と同じ部屋で寝ていると、大抵じじ犬と喋っている気がする。 「若いの、女はまだ出来んのか?」 「うるさ…