赤いランドセルの少女

公開日: 心霊体験 | 本当にあった怖い話

自動販売機

私の大学は結構な田舎でして、羽根を伸ばす場所がこれと言ってありません。

そういう事情に加え、学生の多くが車を所有していることもあり、必然と連れ立ってドライブに行くことが遊びの一つになっていました。

その夜も、私の仲間たちは隣町の峠道まで出かけたそうです。

私自身はバイトがあったので参加しませんでした。

別に峠を攻める訳でもなく、頂上で夜景を楽しみながら一杯飲もうというのが目的だったらしいです。

峠道や頂上では何も無かったのですが、問題は帰り道のことでした。

自動販売機を見つけた彼らは、飲み物が底をついていたこともあり、缶コーヒーを買うために車を路肩に停めたのです。

その時、少し先の道端に何か置いてあるのに気付きました。外灯もろくに無く、暗くてよく見えません。

近付いてみると、それは花束とジュースの缶でした。

「ありゃ」

「来る時は目に入らなかったのにね」

取り敢えずみんなで手を合わせておいたそうです。一人を除いて。

車が発進した後、中で交わされた会話は――。

「君ら、よくあんな不気味な物の近くに立ってられるな。呆れるわ」

「不気味ってのは非道くないかい?」

「そうそう、花が捧げてあるくらいいいじゃないか」

「花はいいんだよ、花は。俺が言ってるのはランドセルのことだ」

「ランドセルだって?」

「ほら、花のそばに置いてあっただろう? 一つだけポツンと。女の子用の赤いのが」

彼以外の者は、誰もそれを見ていなかったのだそうです。

「おい、冗談言うなよ。しっかりと置いてあったじゃないか」

「そっちこそ変なこと言うなよな。他には何もなかったって」

「お前ってそういうのが見える人だったっけか?」

「もし俺が見える人だとしたら、幽霊なんてこの世にいないってことだ」

その場の全員がみんな霊など見たことがない人ばかりでした。

「その俺に見えたんだから、霊関係じゃないって」

「でもお前以外のヤツには何も見えなかったじゃないか」

雰囲気が気まずくなり、みんな黙り込んでしまったそうです。

とにかく帰ろうということで意見が一致したので、即行で帰っていつも溜まり場にしている部屋で飲み直そうと相成りました。

この時点では、みんなこのランドセルの話題はこれで終わりだと思っていたのですが…。

車が溜まり場にしているアパートに近付くにつれ、みんな元気を取り戻し、年頃の大学生らしくHな話題などで盛り上がっていました。

しかしなぜかドライバーはアパートの駐車場に入らずに、そのまま通り過ぎてしまったのです。

「おいおい、何やってんだよ、お前の家を通り過ぎちゃったぜ」

「…ダメだ、ダメだよ、俺ん家じゃダメだ…」

「ああ? 何言ってんだよ、いったい」

「ランドセルだよ」

「…何だって?」

「ランドセル背負った女の子が駐車場にいたんだ」

さすがにみんな冷水を浴びせられたような気がしました。

運転手君の話によると、駐車場の一番奥の外灯下に、赤いランドセルを背負ったおかっぱ頭の後姿が、じっと佇んでいたのだそうです。

奇妙なことに、運転手と先程ランドセルを見た友人は別人でした。今回ランドセルの女の子が見えたのは、運転手だけなのです。

「気のせいじゃないのか。今度は俺には何も見えなかったで」

「お前はまだいい。ランドセルだけだったろ。俺は女の子付きなんだ!」

「もう一回、確認してみない? 当ても無くウロウロ出来ないし」

そこで引き返して駐車場を覗いてみることにしたのですが…。

「…ダメ。まだいる。同じ所であっち向いて俯いてる」

やはり他の友人には見えないのですが、そう言われたら気持ちが悪くて車から降りる気にはなれませんでした。

「仕方ない、狭いけど俺の家に行こうや」

「あ…なんか振り向きそう…」

「早く車出せ!」

ここから彼らの眠れぬ夜が始まりました。そう、行く先々でランドセルの女の子が待っていたのです。

それも、彼らの内の誰か一人にだけ見えるという奇妙な形で。

彼らの家には一歩も入ることができませんでした。

まだ深夜営業のファミレスが地元にできる前の話です。こんな夜遅くに学生がたむろできる場所などありませんでした。

大学の研究室に行って過ごすかという案も出たのですが、

「もしエレベーターの扉が開いた中に、ランドセルが見えたらどうする?」

という一言で行けなくなったそうです。

みんなパニックの一歩手前みたいな状態だったと後で言っていました。

そんな彼らが最終的に選んだ避難場所は、なんと私の家でした。

バイトが終わる時間を見計らって、私を拾いに来たのです。

事情も分からずに「徹夜で麻雀しよう」と強引に家に連れて帰られました。

駐車場の入り口で、しつこく確認されます。

「なあ、お前の家の駐車場、何か変わったモノは見えないか? 例えば、赤いランドセルとか…」

「車以外に何もないけど?」

「よかったあ」と口々に言いながら、みんな私の部屋へ転がり込みました。

トイレがすぐ隣なので、それも彼らにはありがたかったようです。

一人になるのを嫌がっているのが明白なので、さすがに私も不思議に思い、何があったのかを聞きました。

麻雀牌をかき混ぜながら、彼らは私に事情を説明してくれました。

麻雀しながらもみんなが怖がっているのは分かりました。

私も説明を受けてからは、結構ビビっていました。

「お前さんは拝んでいないから、多分大丈夫だと思うんだけど…」

多分という言葉が余計です。本当に迷惑です。

しかし、赤いランドセルは私の家には姿を現しませんでした。

夜が明け朝が来ると、みんなくたびれ果てて眠ってしまいました。恐らく精神的に疲れていたのでしょうね。

真面目に学校に行ったのは私だけです。彼らは午後からバラバラと授業に出てきました。

日が昇ってようやく家に帰れたのだそうです。

しかし、一人だけ来ない者がいました。それは最初にランドセルを見た彼でした。

心配しましたが、携帯電話が普及する前なので連絡がつきません。

その日、最後のコマが終わると、そいつの部屋にみんなで行くことにしました。

部屋に着き呼び鈴を鳴らすと、憔悴した彼の顔が出てきました。

学校に行く準備をしている時に、駐車場から見上げるランドセル姿に気付き、外に出られなくなったのだそうです。

今は見えなくなっているが、一人で外に出る気になれないと彼は言いました。

いきなり私たちの内の一人が奇妙な声を上げました。

その様子から、私たちはランドセルの少女がまだここにいることを知ったのです。

みんなそのままゆっくりと中を見ずに外に出て、鍵をかけました。

車に乗り込んだ後で尋ねると、部屋の隅にランドセルがあるのに突然気付いたとのことでした。

私を含め、みんな泣きそうになりました。

暫くしてみんなで御祓いに行ったらしいのですが、何も憑いていない様子だと言われたのだとか。

彼らはその後もランドセルを度々見ていたのですが、別に害は無かったようで、二ヶ月もすると何も見えなくなったそうです。

果たして事故に遭ったのは本当に小学生女子だったのかも不明です。

もしそうだったなら、何かを伝えたかったのか、単に寂しかっただけなのか。

可哀相だったのは例の最初に目撃した彼で、かなりの間おどおどしていました。

暫くの間は、通学中の小学生の姿が本気で怖かったそうです。

私は結局、何も見えなかったのですが。

途中から集団ヒステリーじゃないのかとも思いました。口にこそ出しませんでしたけどね。

私の周りで起こった、奇妙で少し怖いお話でした。

関連記事

今の死んだ人だよな

この4月の第3土曜日のことなんだが、自分は中学校に勤めていて、その日は部活動の指導があって学校に出ていた。 その後、午後から職員室で仕事をしていた。その時は男の同僚がもう二人来て…

古民家(フリー写真)

木彫りの仏様

母方の祖母が倒れたという電話があり、家族で帰省した時の話です。 祖母は倒れた日の数日後、うちに遊びに来る予定でした(遠方に住んでいるため滅多に来ません)。 その遊びに来るこ…

白い人影

高校生の時に某飲食チェーンでバイトしてたんだけど、その時の社員さんに聞いた話。 その社員さん(Aさん)は、中学生の時に親戚の叔父さんが経営する倉庫で、夏休みを利用してバイトするこ…

だ~れだ?

今から2年程前のことです。とあるアパートに彼女と同棲していました。 その日はバイトが早めに終わり、一人でテレビを見ながら彼女の帰りを待っていると、「だ~れだ?」という声と共に目隠…

さまようおっさん

オレは結構、日常的に金縛りに遭うんだよね。あと、変なもん、いわゆる幽霊って奴の姿もたまに見る。『あ、出るな』って時の感覚も、敏感に感じちゃうわけ。 ある日の朝、オレはいつものよう…

民宿の部屋

白無垢の花嫁

私が小学校低学年の頃、夏休みには家族で田舎を訪れることが恒例でした。 そこには、私たちが毎回宿泊する古びた民宿がありました。 各部屋の入り口は襖で、玄関はすりガラスの引き…

ある蕎麦屋の話

JRがまだ国鉄と呼ばれていた頃の話。 地元の駅に蕎麦屋が一軒あった。いわゆる駅そば。 チェーン店ではなく、駅の外のあるお蕎麦屋さんが契約していた店舗で、『旨い、安い、でも種…

廃墟でサバゲー

夏の終わりの頃の話。 その日は会社の夏休み最終日ということもあり、仲の良い8人を集め地元の廃墟でサバゲーをすることにしたんだ。 午前中に集まって、とことんゲームをしようと決…

マンション(フリー写真)

縦に並んだ顔

自動車事故に遭い鞭打ち症になったAさんは、仕事も出来なさそうなので会社を一週間ほど休むことにした。 Aさんは結婚しているが、奥さんは働いているため昼間は一人だった。 最初の…

雑居ビルの怪

今からもう14年くらい前の、中学2年の時の話です。 日曜日に仲の良い友人達と3人で映画を観に行こうという話になりました。友人達を仮にAとBとします。 私の住んでいる町は小さ…