桜の木の神様

sakura_010

今は暑いからご無沙汰しているけど、土日になるとよく近所の公園に行く。

住宅地のど真ん中にある、鉄棒とブランコと砂場しかない小さな公園。

子供が遊んでいることは滅多にない。と言うか見たことない。

まあ、だから行くんだけどね。凄く静かだから。

公園の端っこには大きめの桜の木が2本植えられていて、それぞれの木の下にベンチが一つずつ設置されている。

そこに座って缶コーヒーを飲みタバコを吸いながら、だらだら読書するのが俺の目的だった。

その日も桜の木の下で文庫本を読んでいると、いつの間にか7~8才くらいの女の子が二人、目の前に立っていた。

二人とも同じピンク色のワンピースを着て、髪も同じくらいの長さのロングで、同じ顔だった。

『双子かー』と妙な感動を覚えつつ見ていると、「こんにちわ!」と声を揃えて元気よく挨拶してきた。

俺も「こんにちわ」と答える。幼女大好きなので、凄く顔緩んでました。ごめんなさい。

「おじちゃん、よく来るね」と一人が言う。すぐにもう一人が「ここ好き?」と聞いてくる。

「静かだから好きだよ」と答えると、二人は顔を見合わせて「おーっ!」と言った。なんか喜んでる。

そして「わたしも好きだよ!」「好き!」と言って、二人でぴょんぴょんする。

それからは質問攻め。

「本読んでるの?」「なんでタバコ吸うの?」「コーヒー飲んでいい?」

流れで「おじちゃん、何歳?」と聞かれたので、「おじちゃんは3X歳」と答える。

もう一人が「わかいねー!」と言う。

いや、三十路で若いは無いだろうと突っ込んだら、

「わたしはお姉ちゃんだから、おじちゃんは若いの!」と言い張る。

「わたしの方がお姉ちゃんなの!」と、歳を聞いてきた子が反論する。

二人であーだこーだと議論しつつ、一人がベンチを踏み台にして、なぜか俺の背中に乗る。

「何してんの」と聞くと、「おんぶ」と当然のように答えた。

よく理解できないが、さっきの議論の流れの中で俺におんぶされることが決まったらしい。

すると、もう一人が「ずるい」と言い出したので、抱っこしてみた。とりあえず幼女は満足する。

しかし、幼女サンドは危険すぎる。ご近所の人に見られたら通報されかねないレベル。

でも、なんか幼女たちが楽しそうなので、降りなさいとも言いにくい。

子供と遊ぶお父さんの体でいればまあ大丈夫かと考えて、いきなりベンチから立ち上がり、

「おんぶダーッシュ!」と叫んでから公園内をダッシュで一周。

息が切れる。でも幼女たち大喜び。

「おんぶ、気持ちいいね!」

「気持ちいいの?」

「うん」「次、わたしおんぶ!」

俺を挟んで二人で勝手に交渉。

で、おんぶと抱っこを交代したら、俺はまたダッシュ。

日頃の不摂生が祟って息切れ半端ないが、「ほんとだ。気持ちいいね!」「うん、気持ちいいよね!」とキャッキャする幼女。

こんなに喜ばれると、つい調子に乗ってしまう。で、更に2~3回ダッシュ。

もう無理です、体力的に限界です。

降参すると、幼女二人は声をそろえて「えー」と抗議。

でも、素直に降りる幼女たち。俺、ホッとする。

さすがに疲れたので「そろそろ帰るよ」と告げると、幼女二人揃って(´・ω・`)な顔になった。

一人が「ずっと、ここにいたらいいのに」と呟く。するともう一人が「だめ」と窘める。

「天気よかったら、また来週来るけど」と言うと、(・∀・)

「その時、またおんぶダッシュしようか」と言うと、(´・ω・`)

けど、すぐに(・∀・)となって、「おんぶダッシュー」「またねー」と言いながら手を振る。

ちょっと名残惜しさを感じながら公園を出る。

バイバーイと声を掛けられたので振り向く。

幼女たちが居ない。何と言うか、こつ然と消えた感じ。

妙な感じはしたけど、深く考えずに帰宅。

嫁に起こった事を話すと、「ひとりで幼女と遊んでずるい。なぜ自分も呼ばないの」と怒られた。

で、嫁は言う。

「その幼女たちは、桜の木の神様だったのかもしれないね。

今日、たまたま幼女の姿になれる日だったから、あんたに遊んでもらうことができたけど、次に会う時は幼女になれないから、それでしょんぼりしてたんじゃないかな」

次の週の土曜日、今度は嫁と一緒に公園へ行った。嫁の予想通り幼女たちは居なかった。

一応、桜の木の根元にお菓子をお供えして手を合わせる。

俺が「ほんとに神様だったのかな……」と言うと、嫁「ロリコンこじらせて幻見たのかもな(笑)」。

ありそうだから怖い(笑)。

なんか色々台無しだったけど、不思議な体験だった。

関連記事

抽象模様(フリー素材)

魑魅魍魎

今から2年くらい前の夏。 会社が夏休みで、連日ベッドの上でマンガを読みながらゴロゴロ昼寝をする毎日でした。 その日もいつものようにマンガを読んでいる内に眠ってしまった。 …

古民家(フリー写真)

木彫りの仏様

母方の祖母が倒れたという電話があり、家族で帰省した時の話です。 祖母は倒れた日の数日後、うちに遊びに来る予定でした(遠方に住んでいるため滅多に来ません)。 その遊びに来るこ…

アリス(フリーイラスト)

アリス症候群の恐怖

自分は小さい頃から「不思議の国のアリス症候群」の症状があった。 時々遠近感が曖昧になったり、周りの物が大きくなったり小さくなったりする感覚に陥る。 大抵の場合、じっとしてい…

小さな鍾乳洞

少し昔……と言っても15年以上前の話になる。 俺の地元には小さな鍾乳洞がある。 田んぼと山しかないド田舎だったので、町としても鍾乳洞を利用して観光ビジネスを興そうとしたらし…

古いアパート

ワケアリ物件の守護霊

半年前の出来事です。 現在住んでいるアパートは「出る」という噂のある物件で、私は恐怖を感じない0感体質のため、破格の家賃に惹かれて入居しました。 台所の壁には、逆さまに吊…

新聞受けから…

これは俺が2年前の6月14日に体験した本当の話です。俺が前住んでたアパートでの出来事。 その日、俺はバイトで疲れて熟睡していた。 「ガタガタッ」という異様な音で俺が目を覚ま…

階段

日暮里駅の階段

友人との怪談話の中で、ある興味深い話を耳にしました。それは、日暮里駅の改札を出て右手にある階段での話です。友人の知人から聞いたというその話では、「その階段の23段目で振り返ると、面白…

田畑(フリー写真)

尻切れ馬

これは大学生の頃、年末に帰省した時の体験談です。 私の地元はそこそこの田舎で、駅付近こそビルが多く立ち並んでおりますが、少し離れると田畑が多く広がっています。 私の実家も田…

ゲーム機

天国への踊り子

PlayStation Homeを始めた頃の話。 あるお化け屋敷ラウンジに、いつログインしてもずっと踊り続けているアバターが2体いるんだ。仮に「ぶらきゅー」さんと「はぴぴ」さん…

魂(フリー素材)

守護霊の助け

若い頃、友人のBさんと久々に会い、飲みの席で「本格的な占いをお互いしたことが無い」という話で盛り上がったことがありました。 酔った勢いで帰り道、幾つか閉まっていた占い場の中から適…