首刈り地蔵

公開日: 不思議な体験 | 怖い話

Still-Lake-24x30-JIll-van-sickle

小学生の頃、両親が離婚し俺は母親に引き取られ、母の実家へ引っ越すことになった。

母の実家は東北地方のある町でかなり寂れている。家もまばらで町にお店は小さいスーパーが一軒、コンビニもどきが一軒あるだけ。

その町の小学校へ通うことになったが全学年で20人弱同級生は自分を含めて4人しかいなかった。

越してきて1年半ほど経ったある日、一学年上の子にいじめられるようになった。原因はなんだったか思い出せない。まあ、たいしたことじゃないと思う。

とにかくその子のことが大嫌いでいなくなって欲しかった。その時、首刈り地蔵のことを思い出した。

首刈り地蔵のことは越してきたときにじいちゃんに教えてもらった。小さな公園の奥の林の中にある首のない3体のお地蔵様。

絶対にお供え物をしてはいけないと言われた。

理由は教えてくれなかったが、越してきてしばらくして同級生に教えてもらった。

このお地蔵さまにお供え物をして「○○を殺してください」とお願いすると、その相手を殺すことができる。

首刈り地蔵にお願いしよう。そう思った。

週1回のお弁当の日。おにぎり2つを食べないで我慢して学校の帰りに首刈り地蔵にお供えし、お願いした。

その日の夜、寝ていると足音が聞こえた。ガチャ、ガチャと鎧を着て歩いているような音。「足りない」そう聞こえた。

ああ、そうか。お地蔵様は3体だった。おにぎりが1つ足りなかったか。

翌朝、おにぎりを1つ持って登校した。登校途中にある首刈り地蔵のもとへ行くと2つのおにぎりはそのままある。

持ってきたおにぎりをお供えしようとすると「こんのクソガキが!なにやってんだ」と怒鳴り声が聞こえる。

後ろから顔見知りのおじさんが走ってきて、思い切り殴られた。

引きずるように自分の家に連れて行かれ、じいちゃん、ばあちゃんに怒鳴り声で何か言い帰って行った。

夕方になるとたくさんの大人が家へやって来た。じいちゃん、ばあちゃんはとにかく謝っている。

東北弁がきつく、何を言ってるか解らなかったが俺も一緒になって謝った。とにかく大変なことになってしまったらしい。

何日か話し合いがされ、うちは村八分ということになった。首刈り地蔵にお供え物をした一家は村八分。昔からそうらしい。

実際、村八分がどういうものか知らないけど、それ以上だったかもしれない。

うちの人間とは一切会話が禁止され、スーパー・コンビニで何も売ってもらえなくなり、母は町の病院で看護師をしていたが解雇され、俺は学校に通わせてもらえなくなった。

母と一緒に町役場に抗議しに行ったが話を聞いてもらえない。どうにもならない。ここではとても生きていけない。

東京にでも引っ越そうと話したがじいちゃん、ばあちゃんはここを離れたくないという。

生まれてからずっとこの町で過ごしてきた。死ぬ時もこの町で死にたいと。自分たちは大丈夫だから二人で東京へ行きなさいと。

母はかなり心配していたが、ここにいては俺は学校へ通えないし母も働くところがない。生活がまともに出来ない。母と俺は東京へ引っ越すことにした。

実家にはまめに電話をし食品など荷物を送っていたが、しばらくして電話線を切られたらしく電話が通じなくなった。

町に買い物に出たときに公衆電話でこっちにかけてくる以外は手紙が連絡手段になってしまった。

帰省した時電話線を直そうといったが、じいちゃん達はこのままでいいという。たぶん他にも何かされていたと思うけど、何かすべてをあきらめているというか受け入れているというかそんな感じだった。

それから何年か経ち俺は高校に入学した。高校生になってもあの町のことが頭にあった。

とんでもないことをしてしまったとか、じいちゃん達に悪いことをしたとかいう理由ではなく、あれ以来あの足音と声が未だに聞こえるからだ。

別に何か起こるわけじゃない。ただ聞こえるだけ。それでもやはり不気味でいい気分じゃない。

ある日、運送会社から電話がかかってきた。実家に荷物を送ったが何度行っても留守だと。嫌な予感がした。というよりも半分ぐらいそうなんじゃないかと思っていた。

何かあれば電話をしてくるはずなのに何度行っても留守。すぐに実家に行くことになった。

家に着いたのは夜遅くなのに、家に明かりはない。玄関を叩くが応答がない。玄関は引き戸で簡単に外すことができる。

ドアを外し一歩家に足を踏み入れた瞬間に確信した。ものすごい腐臭がする。母を見ると少し嗚咽を漏らし震えていた。

中に入り明かりをつける。どこだろう。寝室かな? 玄関を入り右へ進んだ突き当たりが寝室だ。

寝室へ行く途中の左の部屋のふすまが開いていた。仏間だ。ちらっと見るとばあちゃんが浮いていた。首を吊っている。

じいちゃんは同じ部屋で布団の中で死んでいた。母は子供のように泣いた。

とりあえず外に出ようと言っても動こうとしない。警察を呼ぼうとしたが、まだ携帯が普及し始めた頃で、そこは圏外だったので最寄りの交番まで歩いて行った。

じいちゃんは病死、ばあちゃんは自殺と警察から説明された。じいちゃんの後を追ってばあちゃんが自殺をした。そういうことらしい。

葬儀はしないこととし、お坊さんを霊安室に呼んでお経を上げてもらい火葬した。

家に帰る日、写真などを持って帰りたいから実家に寄ってから帰ることにした。 財産はこの家以外に何もないから相続しないらしい。

この町に来るのはこれで最後。母が色々やっている間、俺は懐かしい道を歩いた。学校へ登校する道。公園でブランコに乗りながら考えた。

どうしようか。もうこの町と一片の関わりも持ちたくない。このまま帰った方が良いか。でもあの足音と声がある。そうすることこそがこの町との関わりをなくすことなんじゃないかと思った。

林の中へ入り、首刈り地蔵へ持ってきたおにぎりを1つお供えした。何を願おう。誰を。すぐに思いつく名前はなかった。俺は誰を殺したいんだろう。

『この町の人間全員を殺してください』

そう願った。

公園の方を向くと5、6人の人がこっちを見ていた。見知った顔もある。向こうも俺が誰だかすぐに判ったと思う。

俺が近づいて行くと目を逸らし誰も何も言ってこなかった。俺も何も言わず無言ですれ違った。

足音と声は聞こえなくなった。あの町の人達がどうなったのかは判らない。

関連記事

旅館での一夜

甲府方面にある旅館に泊まった時の話。 俺と彼女が付き合い始めて1年ちょっと経った時に、記念にと思い電車で旅行をした時の事。 特に目的地も決めておらず、ぶらり旅気分で泊まる所…

時間

時を超えた電話

高校の時に母から、 「昨日、お前から電話がかかってきた。○○(住んでいるところ)にもうすぐ到着するという電話だった。声は確かにお前だった」 と言われた事があった。 そ…

十和田湖(フリー写真)

十和田湖の竜神様

十和田湖をご存知ですか? 十和田湖周辺は大きなオオクワガタが採れる事で有名で、初夏にワクワクしながら一人、自炊車泊旅行に向かった。 湖はとても透明度が高く、暑かったから湖…

不思議な森(フリー写真)

異界への石碑と未知の世界

私の名前はリョウです。 私が高校時代に経験した、忘れられない恐ろしい体験を話します。 当時高校生だった頃、私たちはよく学校の裏山で遊んでいました。 その山は古い神社…

廃墟でサバゲー

夏の終わりの頃の話。 その日は会社の夏休み最終日ということもあり、仲の良い8人を集め地元の廃墟でサバゲーをすることにしたんだ。 午前中に集まって、とことんゲームをしようと決…

北海道の海(フリー素材)

イセポ・テレケ

十年以上も昔の話。会社の先輩と中学以来の友人と俺の三人で、盆休みに有給を足して十一日間の北海道旅行へ出掛けた。 車一台にバイク一台の、むさ苦しい野郎だけの貧乏旅行だったが、それは…

ポラロイド写真

不可解な写真

最近、バイト先の店長から聞いた話。その店長の兄が10年ぐらい前に経験した話です。 その兄は当時、とある中小企業に勤めていたんだけど、まだ2月の寒いある日、後輩の女の子が無断欠勤し…

窓ガラス(フリー写真)

お通夜を覗く女性

15年程前、不思議な体験をしました。 当時は福井の田舎に住んでおり、高校生の僕は、友人の母親のお通夜へ行きました。 崖崩れか何かの急な事故で亡くなったとのことでした。 …

アンテナ鉄塔の異変

私はドコモ関連の設備管理の仕事をしている者ですが、昨年の年末にちょっと信じられない体験をしました。 これまで幽霊とか妖怪とか、そういうものは信じていませんでしたし、そういった現象…

夕日

回転する毛の塊

中学生の頃、家が近いということもあり、毎日のように学校から一緒に帰る友人がいた。 私は女で、その友人も同じく女の子。名前はユキ。小さな頃からの幼馴染だった。 中学校から自…