葛籠(つづら)

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

910

俺は幼稚園児だった頃、かなりボーッとした子供だったんで、母親は俺をアパートの留守番に置いて、買い物に行ったり小さな仕事を取りに行ったりと出かけていた。

ある日、いつものように一人でボーッとしていたら、誰もいないはずの台所でガタガタ音がするのに気がついた。

『誰もいないはずだよね~』と襖を少し開けて見てみたら、見知らぬ兄ちゃんが二人、台所のあちこちの引き出しを開けて荒らしていた。

『泥棒だ!』と驚いて、流石に怖くなって押し入れに隠れようとした。窓から大声を出して助けを求めた方が良いとは気がつかなかった。

押し入れの襖を開けると、漆みたいな色をしている大きな箱があったので、そこに隠れた。

しばらくして台所方面の襖を開ける音がして、ボンボンと足音が聞こえてくる。

そりゃ、泥棒もすぐ押し入れのでかい箱に気がつくよな。部屋の真ん中に引き摺られる感触がして、蓋を開けようとしているが…開かない。

別に中から俺が何かしてる訳でもないし、すぐ外から力の入った「ん!ん!」って声も聞こえているけど、蓋が開かない。

もう一人の小さな声が聞こえて、ちょっとだけ開けようという力を感じたんだけど、すぐ静かになった。

ベテランの泥棒って3分とか5分とか時間を決めて、盗れるものだけ盗って、あとは諦めるんだってな。

それを知らないからずーっと息を潜めていたら、しばらくして母親の驚く声が聞こえた。

警察を呼んでも結局泥棒は見つからなかったんだけど、なぜ俺が無事だったのかみんな不思議がってた。

大分経ってから母親から、その箱は “葛籠(つづら)” というものであり、俺の婆ちゃんが爺ちゃんの家に嫁いだ時に嫁入り道具を入れていたもんだって聞いた。

俺は爺ちゃんと婆ちゃんが守ってくれたのかもしれないなんて思っている。

関連記事

自動ドアが認識しない人間

大学二年の夏休みに入る少し前からだったかな…。 コンビニやらスーパーやらの入り口、とにかく全ての自動ドアが俺に反応しなくなった事があった。 それまでは普通に入ることの出来て…

寝室(フリー背景素材)

ムシリ

私の家系の男は全員『ムシリ』という妖怪が見える。 正確には、思春期頃に一度だけ会うものらしい。 おじいさんの話だと、夜寝ていると枕元に現れ、家系の男の髪の毛を毟り、食べるの…

材木(フリー写真)

木こりの不思議な話

朝、林道を車で走って現場へ向かう途中の出来事。 前を歩いていた登山者が道の脇によけてくれたから、窓越しに会釈をした。 運転していた相方は「お前、何してるんだ」と言い、 …

横断歩道(フリー写真)

恩人との再会

小学5年生の時、通学路の交差点を渡っていると、右折車が横断中の俺をめがけて突っ込んで来た。 催眠術にかかったように体が動かず、突っ込んで来る車を呆然と見ていたら(あらぬ方向を見て…

階段(フリー写真)

ソマコ

学生の時に体験した話。 授業後にサークル仲間4人とクラブハウスでダベっていたのだが、夏だったせいかいつの間にか怪談話になっていた。 ただどれもこれも有り触れた持ちネタばかり…

隣の女子大生

貧相なアパートに暮らす彼の唯一の楽しみは、隣に住む美女と語らうひとときだった。 ただ、一つだけ腑に落ちない点が…。 当時、彼の住むアパートは、築30年の6畳一間で、おんぼろ…

星空

異次元のチャネリング体験

多くの人には信じられないかもしれないが、この話は異次元との接触を描いた創作物として楽しんでもらえれば幸いだ。 私の体験は、ある日、インターネットで見つけた「チャネリング」という…

インフルエンザウィルス(フリー素材)

高熱とアリス症候群

去年の年末、俺がインフルエンザで倒れていた時の話。 42度という人生最高の体温で、意識もあるのか無いのか分からない状態で俺は寝ていたのだが、尿意に襲われてふらふらと立ち上がった。…

ソックリさん

近所のツタヤに行って今日レンタル開始のDVDが借りられるか聞いてきたら、「今日の朝10時からですよ」って言われてがっかりして帰ろうとしたのね。 そしたら自動ドアで入って来た人とぶ…

銀杏の木(フリー写真)

止まった時間

私が小学校3年生か4年生の時のことです。 友人5人と神社の境内で『ダルマさんが転んだ』をやっていました。 小学校の帰りに道草をくって、そこいらにランドセルを放って遊んでいま…