ダル

公開日: 不思議な体験

yama

小学校の頃、家族で山に行った時の話。

俺はふとしたことで山道から外れ、迷子になってしまった。

山道に出ようとしたけれど、行けども行けども同じような風景が続く。

そのうち足が動かなくなり、眩暈を感じた。

俺はその場に崩れ落ち、ずるずると倒れ込んでしまった。

何だか、お腹と背中がくっつきそうというのは正にあんな感じで、ひもじくて一歩も動けなかった。

『やべー、どうしよう』と思ったけど、その意識も朦朧としている。

そんな時、ふと視界の隅に映るものがあった。

目だけは動いたから何とかそっちの方を見やると、俺の足の方に誰かが立っていた。

親父かなと思ったけど、違った。

そいつは、真っ黒でボロボロの草履を履いてたんだ。

地元の人かと思ったけど、変なんだ。そいつ、足が宙に浮いてるんだよ。

それに気付いた時、爪先から頭の天辺にかけて、ぶわーっと寒気が走った。

こいつはやばいと思って逃げようとしても、身体が動かない。

そいつの手がぬっと伸びて来て、俺の足をつかもうとしたその時、ガサガサガサッと俺の頭の方から足音が聞こえてきた。

現れたのは、でかい籠を背負ったお婆さんだった。

お婆さんは、持っていたおにぎりを、徐に俺の口の中に突っ込んだ。

『なにすんだ、このばあさん!』と一瞬思ったけど、口の中に広がった米と塩の味がすげえ美味いの。

さっきまでの空腹感なんて吹っ飛んで、俺の身体は動くようになっていた。

飛び起きた俺は足元を見たが、草履のやつは居なくなっていた。

お婆さんは「もう少しでダルに引き摺られるところだった」と言っていた。

その後、お婆さんに連れられて山道に出たら、両親と再会することができた。

あれから、山には行っていない。

ダルとやらに引き摺られたらどうなってたんだろう。

お婆さんが来てくれなかったら、俺、死んでたのかな。

関連記事

ランドセルの女の子

叔母さんのお守り

小学2年生くらいの時から、妙な光の玉を度々見るようになった。 家族にその話をしても嘘つき呼ばわりされるので、今度その光の玉を見た時は証人となる人を連れて来て一緒に見ようと頑張っ…

夜の校舎

あんたがたどこさ

深夜23時。僕と友人のKは、今はもう使われていない、とある山奥の小学校にいた。 校庭のグラウンドには雑草が生え、赤錆びた鉄棒やジャングルジム、シーソーがある。 現在は危険と…

海(フリー写真)

海ボウズ

俺の爺ちゃんの話。 爺ちゃんは物心が付く頃には船に乗っていたという、生粋の漁師だった。 長年海で暮らしてきた爺ちゃんは、海の素晴らしさ、それと同じくらいの怖さを、よく寝物語…

崖

岩壁に残る足跡

10年前の話ですが、私が深く尊敬している先輩の話をします。クライミングを始めたばかりの頃、先輩が私に教えてくれた最初の言葉は忘れられません。 「ペアで登頂中にひとりが転落してし…

電話機

8時半の電話

私の会社に毎朝、電話がかかって来る。 それも朝の8時半、ぴったりに鳴る。 入社したてで電話番をしていた頃は律儀に電話に出ていた。 しかし電話に出ても何も言わず、暫く…

鳥居(フリー素材)

お狐様

これは私が、いや正確には母が半年前から9月の終わり頃までに経験した話です。 今年の7月某日、諸々の事情で私は結婚を前に実家へ一度帰省するため、アパートから引越しすることになりまし…

ひな祭り(フリー写真)

三つ折れ人形

私の実家に、着物の袖が少し焦げ、右の髪が少し短い、一体の日本人形があった。 桐塑で出来た顔には、ちゃんとガラスの目が嵌め込まれていた。 その上に、丁寧に胡粉の塗られた唇のぽ…

幼稚園児(フリー写真)

死期を悟る子

小学校に上がる前の小さな男の子の話です。 その子が通っていた幼稚園で乗り物をテーマに絵を描くことがあり、子供達はそれぞれ船や飛行機、車などの絵を描きました。 小さな子供の…

降りなくていいんですか?

東京の地下鉄乗ったんだよ。 何線かは言わないけど、まぁいつ乗ってもそれなりに人乗ってるよな。 で、東京の地下鉄ってのは2~3分走れば止まるじゃん?駅の距離短いし…。快速とか…

キャンプ(フリー写真)

もし、旅かな?

学生だった頃、週末に一人キャンプに興じていた時期があった。 金曜日から日曜日にかけてどこかの野山に寝泊りする、というだけの面白味も何もないキャンプ。 友達のいない俺は、寂…