十時坊主

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

天井(フリー素材)

ある日、バイト先に群馬生まれの男が入って来た。

そこでの俺は勤務年数が長かったので、入って来るバイトに仕事の振り分けや作業指導などの仕切りをやっていた。

仕事を共にして行く内、休憩時間に群馬から流れて来た男の身の上話を聞くようになった。

実家が養蚕をやっていた大きな農家だった事、暮らし向きが思わしくなく、家族が散々になってしまった事などだ。

そして東京に来て部屋を見つけ、浮き草のようなバイト暮らし。

俺は家族の居ない不安などを聞いてやっていた。

そんな彼は幼い頃、夜寝る前に母親から十時坊主の話を聞かされていたという。

群馬の片田舎の農村は夜寝るのが早いらしい。

夜間には何もすることが無いからだそうだ。

そんな時、何時までも寝ないでいると母親に注意されたという。

「十時になったら十時坊主が出るよ」

他愛もない威し文句は、いつまでも効果を持続し得なかったのだろう。

その夜は遅くまで布団に潜って起きていた。

古い柱時計の振り子の音が十時を告げた時だった。

真っ暗な部屋の天井板の一枚がカタリと開き、真っ黒な男がスルスルと柱を伝って降りて来た。

そして布団の中の彼にこう言った。

「十時になりやしたが、如何致しやしょう?」

びっくりした彼は、布団の中で恐怖に震えていたそうだ。

そうしている内に男はまたスルスルと柱を昇ると、ポッカリ開いた天井板の闇の中に消えて行ったそうだ。

翌朝、彼は昨夜の恐怖体験を母に尋ねてみたが、

「だから見なさい。寝ない子を天井に連れて行くんだよ」

と言ったきり、多くを話してくれなかったそうだ。

それから彼は早く寝るようになったのだが、暫くするとあの怪物の正体が何だったのか知りたくて仕方がなくなってきた。

事ある事に母や祖母に尋ねるのだが、口篭り、一向に要領を得ない。

とうとうその夜、彼は十時坊主に再遭遇するため、寝ずに目を開けていた。

やがて柱時計が十時を告げた。

あの天井の一角をじっと睨んで見ていると、カタリと羽目板が開いた。

するとやはり、十時坊主が柱を伝いスルスルと降りて来た。

そして間違いなく彼を目がけて近付いて来るとこう言った。

「十時になりやしたが、如何致しやしょう?」

そこで彼は試しにこう言った。

「寿司が食べたい」

すると十時坊主は、何もせずに再び柱を伝い天井へ帰って行った。

翌日不意の来客があり、彼も夕刻には出前の寿司にありついたという…。

関連記事

爺ちゃんとの秘密

俺は物心ついた時から霊感が強かったらしく、話せるようになってからは、いつも他の人には見えない者と遊んだりしていた。 正直生きている者とこの世の者ではないものとの区別が全くつかなか…

透視

超能力者の苦悩

友人はあるネトゲのギルドに属していたんだが、なかなか人気があり、そこそこの地位を得ていたらしい。 そんな友人はネトゲ内での友人達も多かったのだが、ひと際異彩を放つプレイヤーがいた…

無人駅

高九奈駅

今でも忘れられない、とても怖くて不思議な体験をしたのは、私がまだOLをしていた1年半前のことです。 毎日、会社でのデスクワークに疲れて、帰りの電車で眠るのが日課でした。混んでい…

夜の海(フリー写真)

夜の闇と黒い海面

かなり昔のことになります。 当時、小学低学年だった弟は、父に連れられて夜釣りに行きました。 切り立つような崖の先端近くに父と並んで座り、暗い海面に釣り糸を垂れていた弟は、…

古民家(フリー写真)

木彫りの仏様

母方の祖母が倒れたという電話があり、家族で帰省した時の話です。 祖母は倒れた日の数日後、うちに遊びに来る予定でした(遠方に住んでいるため滅多に来ません)。 その遊びに来るこ…

夜の海

夏の夜の謎

海岸線に位置する親族の家で過ごした夏の夜の出来事です。 夏の季節にもかかわらず、家の子どもが喘息を持っていたため、蚊取り線香は避け、私のために蚊帳が用意されました。 深夜…

新聞(フリー素材)

リアル恐怖新聞

私は46歳の鎌倉富士夫似の男性です。菓子工場で副工場長をしております。 趣味はドライブです。好きなタイプは長谷川京子ですが、妻は天地真理似(現在の)です まあ、それは良いと…

山道(フリー素材)

上位の存在

厳密に言うと、この話は俺が「洒落にならない程怖い」と思った体験ではない。 俺の嫁が「洒落にならない程怖い」と思ったであろう話である。 俺の嫁は俗に言う視える人で、俺は全くの…

ワームホール

ワームホール

14年前、多摩川の河原から栃木の山中にワープした。 草むらに見つけた穴を5メートルほど進んで行ったら、なぜか板壁に突き当たった。 その隙間から這い出てみると、森の中の腐りか…

綺麗な少女

夏が近くなると思い出すことがある。 中学生の時、ある夏の日のことだ。俺は不思議な体験をした。 夏休みを迎えて、同世代の多くは友達と遊んだり宿題をやったりしていただろう。 …