ヨウコウ

eetoko_ikitai_0401

俺の爺ちゃんは猟師なんだけど、昔その爺ちゃんに付いて行って体験した実話。

田舎の爺ちゃんの所に遊びに行くと、爺ちゃんは必ず俺を猟に連れて行ってくれた。

本命は猪なんだけど、タヌキや鳥も撃ってた。

その日も爺ちゃんは鉄砲を肩に背負って、俺と山道を歩きながら、

「今日はうんまいボタン鍋くわしちゃるからの!」

と言っていた(実際撃ったばかりの猪は食わないが)。

そのうち、何か動物がいるような物音がした。ガサガサって感じで。

俺は危ないからすぐ爺ちゃんの後ろに隠れるように言われて、すぐ爺ちゃんの後ろに回って見てたんだけど、爺ちゃんは一向に撃つ気配がない。

いつもなら俺を放っておくくらいの勢いで

「待てー!」

と行ってしまうのだが、鉄砲を中途半端に構えて固まってしまっている。

俺はその頃は背が低くて茂みの向こうにいる動物であろうものはよく見えなかった。

俺は気になって爺ちゃんに

「何?猪?タヌキ?」

って聞いた。

しかし、爺ちゃんはしばらく黙っていて、茂みの向こうをじっ…と見ていた。

「あれは…」

と爺ちゃんが口を開いた瞬間、急に茂みがガサガサと音を立てた。

「やめれ!」

と言い放ち、爺ちゃんはその茂みに一回発砲した。

そして俺を抱えて猛ダッシュで逃げ出した。

俺は何がなんだか分からず、ひたすら怖くて今にも泣きそうになっていたが、爺ちゃんが撃ったのは何なのか気になり後ろを振り返った。

すると、遠目に毛のない赤い猿のような動物がこちらに向かって走っている。

爺ちゃんは俺を抱えて走りながらも鉄砲に必死で弾を込めていた。

弾を込め終わると爺ちゃんは俺を抱えたまま振り向きざまに発砲した。

すぐ隣で発砲されたので、俺は耳が「キーン」ってなって、色んな音が遠く聞こえた。

爺ちゃんは走りながらまた新しい弾を込めている。俺は怖くてもう振り返ることはできなかった。

後ろで

「ケタタタタ!ケタタタタタタ!」

というその動物の鳴き声らしい声が聞こえ、爺ちゃんが小声で

「助けてくれ…助けてくれ…この子だけでも…」

と呟いていた。

山を降り切っても爺ちゃんは止まらなかった。俺を抱えてひたすら家まで走った。

家に着くなり、爺ちゃんは婆ちゃんに

「ヨウコウじゃ!!」

と叫んだ。

婆ちゃんは真っ青な顔で台所に飛んで行き、塩と酒を持って来て、俺と爺ちゃんにまるで力士が塩を撒くように塩をかけ、優勝した球団がビールかけをやっているみたいに酒を頭から浴びせた。

その後、それについて爺ちゃんも婆ちゃんも何も話してくれなかった。

間もなくして爺ちゃんは亡くなってしまい、その時婆ちゃんが俺に「ヨウコウ」について話してくれた。

「○○ちゃんが見たのはのー、あれはいわば山の神さんなんよ。

わしらにとってええ神さんじゃないがの。爺ちゃんはあんたのかわりに死んだんじゃ。

お前は頼むから幸せに生きておくれよ」

爺ちゃんが死んでから、婆ちゃんも後を追うように亡くなってしまい、俺は20代後半でピンピンしている。

俺が見たのは、村で言い伝えられる妖怪の類だったのかもしれないけど、今でも親戚の人にこの話をするとしかめっ面をされる。

福井県の某村の話。

関連記事

廃屋の窓(フリー写真)

半分の家

じいちゃんから聞いた話。 従軍中、幾つか怪談を聞いたそうだ。その中の一つの話で、真偽は不明。 ※ 大陸でのこと。 ある部隊が野営することになった。 宿営地から少し…

心霊スポット巡り

今から約10年くらい前の話だ。 当時俺は大学2年で、夏休みに田舎に帰省していたんだ。俺の田舎は観光地ではあったが、地元民向けの遊びスポットって少なかったんだよね。 夜に遊ぶ…

黒目

幼い頃の不可解な体験を書きます。 幼稚園に通っていたから4~6才の頃の記憶です。 小学校半ばまで住んでいたのは長屋みたいな建物で、小さな階段のある玄関が横並びに並んでました…

夜の海(フリー素材)

ばあちゃんのまじない

部活の合宿で、他の学校の奴も相部屋で寝ていた時の事。 ある奴が急に魘され、布団の上でのた打ち回り始めた。起こそうとしても全然起きない。そのまま魘され続ける。 起きている奴等…

食卓(フリー写真)

一つ足りない

何年か前に両親が仕事の関係で出張に行っていて、叔父さんの家に預けられた事がある。 叔母さんと中学3年生の従兄弟も歓迎してくれたし、家も広くて一緒にゲームしたりと楽しく過ごしてい…

クリスマス(フリー写真)

塾のクリスマス企画

俺が小学生だった頃の話。 近所の小さな珠算塾(ソロバン塾)に通っていた俺は、毎年クリスマスの日の塾を楽しみにしていた。 クリスマスの日だけはあまり授業をやらずに、先生が子供…

メールの送信履歴

当時、息子がまだ1才くらいの頃。 のほほんとした平日の昼間、私はテレビを見ながら息子に携帯を触らせていた。 私の携帯には家族以外に親友1人と、近所のママ友くらいしか登録して…

三回転

私の体験です。 まだ私が3歳ぐらいの頃、父と2人で遊園地に行ったときです。 父と乗り物にのるために順番待ちをしてた時、私は退屈からかその場で目をつぶったまま三回転ほどくるく…

とある物件

今から8年くらい前のITバブルと呼ばれていた頃の話です。私が学校を卒業し、新卒でとある自称IT関係という会社Aに就職いたしました。 当時私は就職活動を適当にしていたため、3月くら…

目の不自由な女性

就職して田舎から出てきて、一人暮らしを始めたばかりの頃。会社の新人歓迎会で、深夜2時過ぎに帰宅中の時の話。 その当時住んでいたマンションは住宅地の中にあり、深夜だとかなり暗く、ま…