親父の予言

抽象的(フリー素材)

数年前、親父が死んだ。食道静脈瘤破裂で血を吐いて。

最後の数日は血を止めるため、チューブ付きのゴム風船を鼻から食道まで通して膨らませていた。

親父は意識が朦朧としていたが、その風船が酷く苦しそうだった。

その親父が掠れた声で「鼻を入れ替えろ、鼻の名前を入れ替えろ」と言った。

名前…? 俺や家族は、「チューブを通す鼻の穴を入れ替えろ」という意味だと思ったのだが、『名前』というフレーズの意味が解らない。

結局「意識も混濁しているようだから、言い間違えくらいあるだろう」という結論になった。

親父はその次の日に亡くなった。慌しく葬式の用意を始めた。

お袋が用意中に献花の配置がおかしい事に気付いた。

遠縁の親戚からの花が真ん中にあって、親父の勤めていた会社の社長からの花が端っこに追いやられていたのよ。そして葬儀屋に言った訳だ。

「すみません、あの二つの花を入れ替えてください。大変でしたら、花に付いている名前を入れ替えてください」

その時、俺と祖母が同時に気付いた。「お袋…今、何て言った?」

「『鼻』の名前を入れ替えろ」

ではなく、

「『花』の名前を入れ替えろ」

親父はこの事を言いたかったのだろうか?

お世話になった会社の社長に失礼を働くのが嫌で、こんな予言を残したのだろうか? もう真実は判らない。

その社長はとても良い人で、母子家庭になった我が家を助けてくれた訳だが、それはまた別の話。

関連記事

黒田君

僕が彼に出会ったのは、高校1年生の時の事です。一応政令指定都市ですが、都心ではありません。家から歩いて3分以内に何軒かコンビニはありますが、全部ローソンです。小洒落た雑…

黄泉の国の体験

同窓会の案内が来て、中学生だった当時を懐かしんでいたら思い出したことがある。この間の夜、ふと目が覚めると目の前に血を流した女の人がいた。寝ぼけていたし起こされてムカつい…

存在しない駅

当時学生だった自分は大学の仲間と大学の近くの店で酒を飲んでいた。結局終電間近まで遊んでて、駅に着いたらちょうど終電の急行が出るところだったので慌てて乗った。仲間内で電車…

山(フリー写真)

山に棲む大伯父

もう100年は前の事。父方の祖母には2歳離れた兄(俺の大伯父)が居た。その大伯父が山一つ越えた集落に居る親戚の家に、両親に頼まれ届け物をしに行った。山一つと言っても、子…

登校する小学生(フリー写真)

モウキカナイデネ

この話を誰かに話す時、「確かにその話、滅茶苦茶怖いけど、本当かよ?」と言われる事がある。霊が出て来るような話の方が、余程現実味があるからだ。これは俺が実…

行軍

爺ちゃんの従軍時代の話

子供の頃に爺ちゃんに聞いた話を一つ。私の爺ちゃんは若い時、軍属として中国大陸を北へ南へと鉄砲とばらした速射砲を持って動き回ってました。当時の行軍の話を聞くと、本当に辛か…

葬列

ある日、AさんがBさんの家で飲み会をし帰りがすっかり遅くなってしまいました。夜道を歩いていると向こうから何やら行列が見えます。その行列の人たちは喪服を着ており葬式だということが…

祖母のしたこと

私の一番古い記憶は3歳。木枯らしの吹く夕方、一人でブランコを漕いでいるところ。手も足もかじかんで、とても冷たい。でも今帰れば母に叱られる。祖母に迎えに来て欲しい、ここはいつも来…

昔の電話機(フリー画像)

申し申し

家は昔、質屋だった。と言ってもじいちゃんが17歳の頃までだから私は話でしか知らないのだけど、結構面白い話を聞けた。田舎なのもあるけど、じいちゃんが小学生の頃は幽霊はもちろん神様…

前世を詳細に語る幼児

「前世」というものの概念すらないであろう幼い子が、突然それを語り始めて親を驚かせたという話が稀にある。米国では今、オハイオ州の幼い男の子が自分の前世を語り、それが1993年に起…