親父の予言

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

抽象的(フリー素材)

数年前、親父が死んだ。食道静脈瘤破裂で血を吐いて。

最後の数日は血を止めるため、チューブ付きのゴム風船を鼻から食道まで通して膨らませていた。

親父は意識が朦朧としていたが、その風船が酷く苦しそうだった。

その親父が掠れた声で「鼻を入れ替えろ、鼻の名前を入れ替えろ」と言った。

名前…? 俺や家族は、「チューブを通す鼻の穴を入れ替えろ」という意味だと思ったのだが、『名前』というフレーズの意味が解らない。

結局「意識も混濁しているようだから、言い間違えくらいあるだろう」という結論になった。

親父はその次の日に亡くなった。慌しく葬式の用意を始めた。

お袋が用意中に献花の配置がおかしい事に気付いた。

遠縁の親戚からの花が真ん中にあって、親父の勤めていた会社の社長からの花が端っこに追いやられていたのよ。そして葬儀屋に言った訳だ。

「すみません、あの二つの花を入れ替えてください。大変でしたら、花に付いている名前を入れ替えてください」

その時、俺と祖母が同時に気付いた。「お袋…今、何て言った?」

「『鼻』の名前を入れ替えろ」

ではなく、

「『花』の名前を入れ替えろ」

親父はこの事を言いたかったのだろうか?

お世話になった会社の社長に失礼を働くのが嫌で、こんな予言を残したのだろうか? もう真実は判らない。

その社長はとても良い人で、母子家庭になった我が家を助けてくれた訳だが、それはまた別の話。

関連記事

霧の立ち込める山(フリー写真)

鷹ノ巣山の霧

大学2年の6月に不思議な体験をしました。 当時、私は大学の野生生物研究会に入っていました。 研究会のフィールドは奥多摩の鷹ノ巣山で、山頂付近の避難小屋を拠点にデータの収集を…

8周目

俺には、幼馴染の女の子がいた。家も近くて親同士の仲も良く、俺とその子も同い年ってこともあって小さい頃から一緒に遊んでた。 まあ、大体そういう関係ってのは、歳を取るにつれて男の側が…

義理堅い稲荷様(宮大工9)

晩秋の頃。 山奥の村の畑の畦に建つ社の建替えを請け負った。 親方は他の大きな現場で忙しく、他の弟子も親方の手伝いで手が離せない。 結局、俺はその仕事を一人で行うように…

集合住宅(フリー素材)

知らない部屋

私が小学校に上がる前の話。 当時、私は同じ外観の小さな棟が幾つも立ち並ぶ集合団地に住んでいました。 ※ ある日、遊び疲れて家に帰ろうと「ただいまー」と言いながら自分の部屋の戸…

神社の思い出

小学生の時、家の近くの神社でよく遊んでた。 ある日、いつも通り友達みんなで走り回ったりして遊んでいると、知らない子が混ざってた。 混ざってたというか、子供の頃は誰彼かまわず…

タクシー(フリー写真)

黄色いパジャマの子供

去年の暮れの事。 池袋のとあるレストランで会社の忘年会があった。 二次会は部署内で、三次会は仲間内での飲み会になった。 家路につこうとする頃には終電も過ぎ、タクシー…

雨の音

その日は雨が強く降っていた。 現場に着き、トンネルの手前で車を脇に寄せて一時停車。 その手の感覚は鈍いほうだが、不気味な雰囲気は感じた。 恐い場所だという先行イメージ…

山

山に住む神様

学生時代、週末に一人でキャンプを楽しむことがありました。 金曜日から日曜日にかけて、山や野原で寝泊まりするだけの単純なキャンプです。友達のいない私は、寂しさを自然の中に紛れ込ま…

セブンイレブン

未来のお店

俺が6歳の頃の話。当時の俺は悪戯好きで、よく親に怒られていた。 怒られたら泣きながら「こんな家出てってやるー」と言って家出し、夕御飯には帰って来るということがよくあった。 …

砂時計

書き換えられた解答

昔、高校受験の勉強中に起こった不可解な出来事を思い出す。 市販の問題集で勉強していた時、答え合わせをしていると、一問だけどうしても正解が理解できない問題がありました。 私…