息子を迎えに来ますからね
知人のおばあさんは我が強くて恐い人だけど、自分の母親の話をする時だけは顔つきが穏やかになる。その人から聞いた昔話が原因の出来事。
※
そのおばあさんの母親(仮にAさんとする)は、おばあさんを含め6人の子どもを産んだ。
6人目の男の子どもが2歳の頃に、Aさんの実母が病弱で、危篤を報せる電報が来たそうな。
けれど直ぐには実家に帰ることが出来ず、実家に帰ることが出来た時には、実母は亡くなっていたらしい。
Aさんは元来気が強く、性格もきつい人だったらしいが、実母の死に目に立ち会えなかったことが悲しくて、夢でも良いから会いたいと願っていたそうだ。
※
そんなある日、願いが叶って母親が夢に出てきた。
ところが、夢に出てきたのは実母ではなく、旦那の母親、つまり義母(姑)に当たる人。
しかしこの義母は、旦那が14歳の頃に既に亡くなっていて、Aさんは写真でしか知らない。
その義母が夢に出てきてこう言った。
「49歳になったら息子を迎えに来ますからね」
当時Aさんは40代前半で、旦那さんは47歳だったとのこと。
子どもが6人居て、一番下の子がまだ2歳だったAさんは、
『まだ主人を連れて行かれては困ります。
どうか下の子が一人前になるまで迎えに来るのを待ってください。
私はその為なら、不足を言いません。
これからは人に尽くして生きます』
と誓いを立て、毎日仏壇に手を合わせながら祈り続けた。
自分の幸せなんて顧みず、時には訪問販売などの詐欺に遭ったりしても、人に蔑まれたり厭がらせを受けたりしても、
『人を恨んだらその分、自分に返ってくるかも知れない。
私の所為で主人の寿命が縮まるかも知れない』
と思い、それまでの気の強さが嘘のように慎ましく生きたらしい。
※
当時、子どもが一人前になるというのは、成人するということではなく、結婚して家庭を持つということ。
それから20年後、22歳の春に結婚した下の子どもを祝った年の秋口に、突然何の前触れもなく、旦那さんは亡くなったという。
つまり、67歳まで生きた訳だ。
旦那さんが亡くなったのは悲しいことだったが、義母が祈りを聞き届けてくれたのかと思ったAさんは、それからも自分の生き方を変えることもなく、90歳くらいまで生きたらしい。
※
そんな話を突然聞かされ、訳が分からないまま自分は、
「はあ、そうですか、凄い話ですね」
と相槌を打っていただけなんだけど、ぶっちゃけどうでも良かった。
そして、話を聞いたその後、友人(仮にBとする)の家にそのままの足で行った。
友人Bの家は、お婆ちゃんが昔お祓いする人だったとかで、客間兼仏間には物凄く大きな仏壇があるんだけど、いつお邪魔しても何だか仏壇が大きすぎて緊張し落ち着かない。
友人Bの母親は気質の優しい人で、霊とかそういうものが目で見える訳じゃないけど、何かが居るとか気配で敏感に感じる人だという。
いつものように友人の家に行き、客間(仏間)に勝手知ったるで入って行った時、その和室の敷居を跨いだ瞬間に身体から力が抜け落ちてしまって、何故かその場に座り込んでしまった。
『何だこれ?』と疑問に思ったし、意味が分からないし、でも立ち上がる気力も無いしで戸惑っていたら、Bの母親が部屋に入って来て、
「○○(私)ちゃん、うちに来てホッとしたでしょう。何処からか沢山引き連れて来てた。
全部お婆ちゃんが落としてくれたわよ」
と言う。
そしておばさんに肩を叩かれた後、いきなり身体が軽くなって立ち上がることが出来た。
そう言えば知人のおばあさんと別れた後から、何だか身体が重いなと思っていたことに気付いたんだ。
しかし、Bのお婆ちゃんはもう亡くなっているんだけどな。まさか仏間に居るの?
自分は霊感とか一切無いので、何だか不思議な体験でした。