眼鏡の思い出

眼鏡

祖父が生前、私たち家族には常に厳しい人でありながら、時折見せる優しさとともに存在感を放っていました。

彼が亡くなった後、家族として彼を失った悲しみが心の隅に深く残っていました。

祖父が亡くなって3日後の夜、異変が起こりました。

家の中には、祖父らしき人影がうろつくようになったのです。

最初は目の錯覚や、心の中の祖父の存在を感じ取ったものと思い込み、気にしないようにしていました。

しかし、次第にその現象は顕著となり、家族の間で話題となりました。

特に真夜中の静かな時間帯に、その人影の存在を強く感じることが増えたのです。

ある夜、叔父が廊下を歩いていると、その人影とばったりと遭遇しました。

驚きの中でも、どこか懐かしさを感じ取った叔父は、思わずその人影に話しかけました。

「オヤジ、なにしてるんだ?」

すると、人影は祖父の口調そのもので答えました。

「おう、カツヒト(叔父)、オレのメガネ知らんか?」

祖父の存在を強く感じながらも、叔父は冗談交じりに返答しました。

「オヤジ、頭の上にメガネのってるぞ。」

すると、祖父の声で「あ、ほんとだ」と返ってきました。

その後、人影は静かに消えていったのです。

家族全員でこの出来事を聞いた際、誰もが驚きと安堵の混ざった表情をしていました。

事実、その人影はぼんやりとしており、詳細な顔立ちや、実際にメガネをかけているのかどうかははっきりと見えませんでした。

しかし、その声、そして言葉には確かに祖父の存在を感じ取ることができました。

その日を境に、祖父らしき人影を見ることはなくなりました。

しかし家族はこの体験を忘れることはありませんでした。

仏壇の隅には、今も祖父のメガネが大切に置かれています。

それは、祖父の思い出とともに、私たち家族の心の中に永遠に刻まれている証となっています。

関連記事

自動ドアが認識しない人間

大学二年の夏休みに入る少し前からだったかな…。 コンビニやらスーパーやらの入り口、とにかく全ての自動ドアが俺に反応しなくなった事があった。 それまでは普通に入ることの出来て…

ビル(フリー写真)

お迎え

二ヶ月前、以前在籍していた会社の社長が亡くなった。 就職の決まらなかった私を拾ってくれて、生まれて初めての『回らない寿司』を食べさせてくれた。 癌で入院しているのは知って…

ポラロイド写真

不可解な写真

最近、バイト先の店長から聞いた話。その店長の兄が10年ぐらい前に経験した話です。 その兄は当時、とある中小企業に勤めていたんだけど、まだ2月の寒いある日、後輩の女の子が無断欠勤し…

田舎の田園風景(フリー写真)

ノウケン様

ついこの間までお盆の行事だと思い込んでいた実家の風習を書いてみる。 実家と言うか、正確には母方祖母の実家の風習だけど。 母方祖母の田舎は山奥で、大昔は水不足で苦労した土地…

版画(フリー素材)

婆ちゃんの戦時中の話

昔、婆ちゃんから聞いた戦時中の話を一つ。 第二次世界大戦中、うちの婆ちゃん(サノ)が10歳の頃の話です。 ※ 婆ちゃんはお姉さんと避難のために親元を離れ、田舎の遠い親戚の家に…

千仏供養(長編)

大学一回生の春。僕は思いもよらないアウトドアな日々を送っていた。それは僕を連れ回した人が、家でじっとしてられない性質だったからに他ならない。 中でも特に山にはよく入った。うんざり…

イタチの仕業

祖母の葬式の晩の事。 田舎の古い屋敷で壁3面ガラス張りの小さな和室に1人だった。長い廊下の突き当たりの座敷には祖母が安置されていた。 裏の山には江戸時代からの一族の墓が並び、近くの公園…

ソックリさん

近所のツタヤに行って今日レンタル開始のDVDが借りられるか聞いてきたら、「今日の朝10時からですよ」って言われてがっかりして帰ろうとしたのね。 そしたら自動ドアで入って来た人とぶ…

帰り道

足が欲しい

大学時代、一つ上の先輩から聞いた話。 小学4年生の頃、学校からの帰り道にいつも脇道から出てくる中年の男性がいた。 しかも常に彼女がその脇道を通りかかる時に出てきて、ぼんやり…

抽象画(フリー素材)

同じ夢を見る

小学校3年生の頃、夢の中でこれは夢だと気が付いた。 何度か経験していたので、自分の場合は首に力を入れるイメージをすると夢から覚められると知っていた。 しかしその時は何となく…