代弁者

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

公園

今年の秋頃かな。二条城の周りを走っていた時の話です。

トイレがあるんですけどね、そこに三つほど腰掛けやすい石があるんです。

そこで走った後の興奮を抑えるために、ぼんやりと座っていたんです。

そしたら、ジャージを着たおじいさんがいつの間にか他の石に座っていました。

おじいさんが「最近寒くなってきましたなぁ」と話しかけてきたので、私は「ですなぁ~」と。

不思議と話しやすいおじいさんで、どんな会話をしていたのかは忘れましたが、いつの間にやら進路の悩みなども打ち明けていました。

おじいさんはしっかり相談に乗ってくれました。

私、大学は環境系の学部に進みたいと思っていたのですが、その時にやけにマジマジと理由を聞かれたんです。

「なんでその学部行きたいんや?」

私は地球温暖化現象とか森林伐採とか、そういったものを例に挙げ、「それをなんとか止めたいと思ってます」と言いました。

するとおじいさんは、「若い子もそういう事に興味もっとるんやねぇ」と言い、話はいつの間にか環境破壊の話になっていました。

おじいさんはこう言っていました。

「わしはな、環境破壊は止めんでええと思うわ。わしらがおるんやから環境が悪くなるんは当然やろう。

寧ろそんな風に中途半端に地球を大事にするんやったら、何もせんほうがええんと違うやろか?

それより大事なんは、人間が地球を壊しても、人間が生きて行けるようにならんとあかんのちゃうかな」

そう言った後、「環境系を目指してる子に言う事ちゃうな」と言って苦笑いをしていました。

そして、またくだらない事を話して、そろそろ帰らなければいけなくなりました。

去り際におじいさんが言った言葉というのが、

「子供は親を食いつぶして育つもの。

子供がしっかり育てば親は嬉しいものだ。それで死んでも親は喜ぶ。わしだってそう。

だから、人はしっかりわしを食いつぶしてな」

普通に変な事を言っているなあと聞き流したのですが、横断歩道を渡る間に考えてみると、なんで『わし』を食いつぶすのかと。聞き違いではないと思います。

トイレの方を見たら、もう誰も居ませんでした。

結局、私は光工学科に進路変更して提出しました。あのおじいさんの言う事も考えてみた結果です。

ぶっちゃけあのおじいさんが誰であっても良いから、また喋りたいなあと思う。

でも、あれから何回走りに行っても会えない。時間帯も合わせているんだけど。

オカルト系のサイトで聞いてみると、「地球の意思ってやつと話したと違うか?」と言われました。

確かにそうかもしれないと思いました。

なんとなく、子供の頃に一週間くらいの間だけ神社で一緒に遊んでいた姉妹を思い出しました。

近くにそんな子は居なかったのに、遊びに行ったらいつも居た子。

急に来ないようになったのでばあちゃんに聞いたら、「お稲荷さんに遊んでもろてたんやねぇ」と言われました。

ふとそんな出来事を思い出しました。

関連記事

女性のシルエット(フリー素材)

赤の他人

俺は物心付いた時から片親で、父親の詳細は判らないままだった。 俺は幼少期に母親から虐待を受けていて、いつも夕方の17時から夜の21時まで家の前でしゃがみ込み、母親が風呂に入って寝…

義理堅い稲荷様(宮大工9)

晩秋の頃。 山奥の村の畑の畦に建つ社の建替えを請け負った。 親方は他の大きな現場で忙しく、他の弟子も親方の手伝いで手が離せない。 結局、俺はその仕事を一人で行うように…

京都のお寺(フリー写真)

ミルクキャラメル

小学1年生の頃、よく自分の家のお墓があるお寺で一人遊んでいた。 池の鯉を見たり、お寺に飼われていた猫のミケと遊ぶのが楽しかった。 じいちゃんのお墓参りをして、周りに生えて…

アマヒメ様

その山村には、奇妙な言い伝えがあった。 寛政年間(18世紀終盤)のある年、雲一つ無いよく晴れ渡った空から、にわかに雨が降った。 おかしな事もあるものだと村人が空を見上げてい…

田舎(フリー写真)

魚のおっちゃん

曾祖母さんから聞いた話。 曾祖母さんが子供の頃、実家近くの山に変なやつが居た。 目がギョロッと大きく、眉も睫も髪も無い。 太っているのだがブヨブヨしている訳でもなく、…

人形釣った

俺は東京で働いていて家庭を持ってたんだが、2年前からちょっとキツイ病気になって、入退院を繰り返した挙句会社をクビにされた。 これが主な原因なんだが、その他にもあれこれあって女房と…

日記帳(フリー写真)

祖父母の祈り

私が15歳の一月。 受験を目の前にして、深夜から朝まで受験勉強をしていた時、机の上に置いてあった参考書が触っていないのに急に落ちた。 溜息を吐いてそれを拾いに机の下に潜った…

生贄様

数十年前、曾爺さんから聞いた大正末期の頃の話。 私の故郷の村には生贄様という風習があった。 生贄様というのは神様に捧げられる神様の事で、家畜の中から選ばれる。 月曜日…

小綺麗な老紳士

駅構内の喫煙スペースで私はタバコを吸っていました。 喫煙スペースと言っても田舎の駅なので、ホームの端っこにぽつんと灰皿が設置してあるだけの簡易的なものでした。 すると小綺麗…

昭和のような町並みの異世界

田舎の高校に通っていた高1の夏休みの時の話をします。 部活が20時に終わり、その後23時くらいまで部室で怖い話をしていた。 さすがに遅くなったから帰るかという事になり、家が…