苦労かけるな

住宅(フリー写真)

夜に2階の自室で、一人で本を読んでいた時のこと。

実家は建てた場所が悪かったのか、ラップ現象が絶えなかった。

自分は単に家鳴りだと思っていたのだが、その日はポスターから音が鳴ったのでおかしいなと思っていた。

そのうち外で階段を上って来る足音がして、兄貴が帰って来たのだと思った。

しかし階段の足音がいつまで経っても止まない。

流石に3分も経たないうちに不振に思って、ドアを開け外に顔を出した。

階段には、困った顔をした見知らぬお姉さんが立っていた。

「あ、○○さん(兄貴)居ますか?」

自分は咄嗟に、ああ兄貴の彼女かなと思って、

「まだ帰ってないですよ」

と告げた。

「そうなんですか」

と、途端にお姉さんはしょんぼりした顔になって、階段を引き返して行った。

兄貴は変な人と付き合ってるなあ…と部屋に引き返したのだが、ふと気付いた。

兄貴は出張中で、帰って来るのは二週間も先なんだよ。

彼女だったらそれくらい知っているはずじゃないか?

どうして自分は、それまで兄貴が出張なのを忘れていたんだ?

「帰って来るまで、待たせてもらってもいいですか?」

背後から声がして、気付いたら朝だった。

目が覚めてから、あれは夢だったのかな…と思っていたら、携帯に兄貴から連絡があった。

電話に出たら、

「幼馴染が亡くなったから、焼香だけでも代わりに行ってくれないか」

という連絡だった。

今思うと変な話だと分かるんだけど、仕方なく制服を着て、頼まれた住所に行った。

普通は、お通夜のある家の近くまで来ると看板などが立っているはずなのに、それが無いのでおかしいなと思った。

住所の家まで来ても受付も何も無く、兄貴が住所を間違えたんだと思い携帯を出したところで、玄関から出て来たおばさんに声を掛けられた。

「○○(兄貴の名前)くん?」

「あ、○○の弟です」

と答えると、

「○○くんはもう学生じゃないものね」

と笑って、おばさんは家に招き入れてくれた。

聞くと、亡くなった幼馴染の家には違い無いのだが、亡くなってもう5年経っていて、葬式には兄貴も参列したという。

仏壇に手を合わさせてもらったけど、写真は見たこともない男の人だった。

兄貴にどういうことか電話を掛けようと思いながら、おばさんと少し話をしていたら、母親から電話が入った。

兄貴が出張先で事故に巻き込まれた、という連絡だった。

おばさんに挨拶そこそこに飛び出して、母親との待ち合わせ場所の駅で落ち合い、そのまま兄貴の出張先へ向かった。

兄貴は乗用車の中に閉じ込められて救出が遅れたらしく、生死の境を彷徨っていた。

医者にも覚悟してくださいと言われた。

母親を支えながら廊下のベンチに座っている間、何か変な足音に気付いた。

まだ明るいうちだったし病院の待合室には人が沢山居るから、足音なんて普通に聞こえるはずなのだけど、何故かその足音だけ変なんだよ。

そのうち、聞き慣れた音だからだと気付いた。実家の階段を上る音だと…。

目の前に、家で見たお姉さんが居た。

「まだかなまだかなまだかな」

と繰り返し呟くお姉さんを見て、こいつが原因だと咄嗟に思った。

自分はそいつを睨み付けて、

「どっか行け!」

と心で呟いた。

そしたら声が止み、女の目だけがぐるんと動いてこちらを見た。

顔が全然動いていないのに、眼球だけ、ぐるん、と。

流石にここでとんでもない相手だと気付いて、背筋が凍った。

どうしたら良いのか分からず、暫く女と睨み合っていた。

そしたらまた、とんとんとん、という別の足音がして、そちらに視線を向けた。

次に女に視線を戻した時には、女の姿は無かった。

どうしたんだろうと思ったら、今度は目の前に兄貴と同じ年くらいの男の人が立っていた。

「あいつに『苦労かけるな馬鹿野郎』って言っといて」

と俺に告げると、コブシでとんとんと二回、自分の頭をこついて消えた。

亡くなった兄貴の同級生の顔だった。

兄貴は無事、目を覚ました。

後で聞いたら、兄貴は自分に電話をしていなかった。

着信履歴を見たら、兄貴から電話があった履歴も無くなっていた。

自分が体験した不思議なことを話したら、兄貴は泣いた。

関連記事

玄関

霊感チェック

霊感の有無を自覚していない人は意外に多いかもしれません。あなたも、もしかすると霊感があるのかもしれませんね。今回は、自分自身の霊感をチェックする簡単な方法を紹介します。 まず、…

坂道

時間が止まる坂

この話は私が小学2年生の時のことです。 クラスで仲の良かった友人が、興奮気味に「すごい場所があるんだよ!今日行こうぜ!」と誘ってきた。 その友人は普段から「宇宙人を見た」…

北海道の海(フリー素材)

イセポ・テレケ

十年以上も昔の話。会社の先輩と中学以来の友人と俺の三人で、盆休みに有給を足して十一日間の北海道旅行へ出掛けた。 車一台にバイク一台の、むさ苦しい野郎だけの貧乏旅行だったが、それは…

アリス(フリーイラスト)

アリス症候群の恐怖

自分は小さい頃から「不思議の国のアリス症候群」の症状があった。 時々遠近感が曖昧になったり、周りの物が大きくなったり小さくなったりする感覚に陥る。 大抵の場合、じっとしてい…

アカエ様

俺が小学校低学年の頃の話。と言っても、もう30年以上前になるけどな。 東北のA県にある海沿いの町で育った俺らにとって、当然海岸近くは絶好の遊び場だった。 海辺の生き物を探し…

犬(フリー写真)

お爺さんとの絆

向かいの家の犬が息を引き取った。 ちょうど飼い主だったお爺さんの一周忌の日だった。 お爺さんは犬の散歩の途中、曲がり角で倒れ込み、そのまま帰らぬ人となった。脳出血だったら…

腕時計と街(フリー写真)

四十九日の夢

俺が大学生だった頃の話です。 念願の志望校に入学したものの自分の道が見い出せず、毎日バイトに明け暮れ、授業など全然受けていなかった。 そんなある日、本屋で立ち読みをしている…

良い心霊写真

写真店のご主人から聞いた話ですが、現像した写真におかしなものが写り込む事は珍しくなく、そういったものは職人技で修正してお客さんへ渡すそうです。 このご主人ですが、一度だけ修正せず…

カップル(フリー素材)

恋人との思い出

怖いと言うより、私にとっては切ない話になります…。 私が高校生の時、友達のKとゲーセンでレースゲームの対戦をして遊んでいました(4人対戦の筐体)。 その時、隣に二人の女の子…

砂場(フリー写真)

サヨちゃん

俺は小学校に入るまで広島の田舎の方に住んでいた。 その時に知り合った『サヨちゃん』の話をしよう。 ※ 俺の母方の実家は見渡す限り畑ばかりのド田舎で、幼稚園も保育園も無い。 …