石屋のバイト

空(フリー写真)

私は二十歳の頃、石屋でバイトをしていました。

ある日、お墓へ工事に行くと、隣の墓地に自分の母親くらいのおばさんが居ました。

なぜかその人は、私の働く姿を見守るような目で見ているのです。

その人のお墓は最近の仏さんだな、というのは雰囲気で解っていました。

少し話を聞くと、最近バイク事故で息子さんを亡くされたとか…。

「同じくらいの年頃の子を見るとどうしても…」

そのおばさんの心情は、馬鹿な私にも痛いほど解ります。

おばさんは帰りに、

「これ息子に供えたのだけど、良かったらおやつに…。

親よか先に死んだら駄目だよ」

「はい、気ぃ落とさず元気で…」

帰って行くそのおばさんの後ろ姿を、今でも憶えています。

三時の休憩にそのおやつを食べようとすると、離れた所で働いていた隣県の同業の親方が近付いて来ました。

「今、そこに地蔵さんが手を繋いで降りて来てるから…。

墓所の向こうに六地蔵があるから、それをそこへ…」

と言い残し、戻って行きました。

私はそんなことないだろうと自分の親方に言うと、

「いや、あの人は大病の死に際から生還して以来、視えるらしいから。言われた通りにしろ」

と言いました。

私はその頂いたおやつを、お地蔵さんの所へ供えました。

石屋のバイト時代の話をもう一つ…。

その日の現場(墓地)工事を終え、翌日の段取りに会社に帰ると、

「明日はここへ行ってくれ」

と、図面と製品の墓石を案内されました。

石の裏に刻まれた名前は、二年前に事故で亡くなった友達です。

この仕事をしていれば、こんなこともあって不思議はありませんが、この時はそう思いたくはありませんでした。

すかさず私は社長に言いました。

「これ、俺の友達だから最後まで担当させて下さい」

「そうか、良い仕事しろよ!」

工程上、最低日を除き三回は行くので、担当が代わる可能性があったのです。

当日はあいつの好きだった銘柄の煙草とコーラを買いました。

あいつを思い出し、コーラを飲み、煙草を吸いながら心の中で、

「おう、待ってろよ、立派なの作ってやるからよ」

などと言いながら仕事をしました。

数日後、完成。

納骨が終えた頃を見計らい訪れると、花が飾られています。

更に数日後、あいつの夢を見ました。

前歯の無い顔で笑いながらエ○本をくれる夢…そんな奴でした(笑)。私の思念が見させた夢かもしれません。

大きな事故だったので今でも色々な噂はあるようですが、私はあの夢であいつの成仏を信じたいです。

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