おかんの夢

公開日: 心霊ちょっと良い話

椅子(フリー写真)

おかんが癌で亡くなって6年になる。

癌を見つけた時にはもう余命一年の宣告。

親父と相談の上、おかんには告知しなかった。一年間、騙し続けた。

私はその時、二番目の子供を妊娠中。大きな腹でおかんの病室に通った。

ある日、おかんが私の腹を撫でて、まだ見ぬ孫の名をつけて呼んだ。

おかんの死後、ちょうど一ヶ月の日に娘は生まれた。

母がが呼んでくれた名前を娘につけた。凄く愛しそうに呼んでくれた名前だから、迷わなかった。

母は夢に出て来ることも姿を見せることもなかった。妹のところにも。

私は母を騙し続けたことに、とても罪悪感を感じていた。

例えモルヒネが処方されて、

「お姉ちゃん(母は私をこう呼んでた)、この薬は何?」

と聞かれても、

「ただの鎮痛剤じゃない?」

と言って誤魔化していた。

一日ずつ命が減って行く母に、それを悟られまいと必死で嘘をついていた。

母は私を恨んでいる。何の心の準備も出来ず、亡くなったのは私のせいだ。

親父は母の闘病中から娘より若い愛人を作って母のことは全部私に任せていたので、余計責任を感じていた。

私のところに出て来なくても当たり前だよな、そう思っていた。

先週、娘とお風呂に入っていると、娘がこう言った。

「ママ、私の名前はママのおばあちゃんがつけたんだよね」

ああ、話したことあったかな…と思って、

「そうだよ」

と答えた。

「私、この名前大好きって言ったら、おばあちゃんが嬉しいって言ってたよ」

驚いた。

「いつおばあちゃんに会ったの?」

と聞くと、

「いっつもいるよ。ミルちゃんって白いネコさんとお庭とかに」

ミルちゃんは母の死後すぐに死んだ、母の可愛がっていた飼い猫。

写真も家には残っていないし、娘が知る筈もない。

思わず娘に聞いてしまった。

「おばあちゃん、ママのこと怒ってるでしょ」

そしたら娘は、

「明日聞いてあげるね」

と答えた。

娘には見えるけど、私に見えないのが何よりの証拠。

娘のところには出て、私のところには夢にすら出ない。

嬉しいけど、悲しかった。

でもその夜、夢を見た。おかんだった。

実家の両親の部屋で、生前使っていた椅子に座っていた。膝にはミルちゃん。

夢の中で、私は母に謝った。

ごめん。騙しててごめん。号泣した。

「……ごめんねぇ、お姉ちゃんつらかったよねぇ。

お母さん怒ったりしてないよ? 毎日病室で色々笑わせてくれて、楽しかったよ」

母が手を握ってくれた。温かかった。一層泣けてきて、自分の泣き声で目が覚めた。

起きても母の手の感触が、体温が手に残っていた。

朝起きて来た娘が言った。

「おばあちゃん、ママとお話したんでしょ? おばあちゃんが言ってたよ。良かったねママ」

今も娘は母が見えるらしいけど、私には見えないまま。

でもそれでもいい。母が傍にいることが解ったから。

もうすぐ母の命日が来る。

お墓と仏壇を掃除して、母が大好きだった作家の新刊でも供えてあげようと思う。

関連記事

渓流(フリー写真)

川辺で会ったおじさん

小学5年生の頃、隣のクラスに関西からの転校生S君が来た。ある日の昼休み、体育館の片隅でS君がクラスの野球部数名から小突かれたりして虐められているのを発見した。俺は当時、…

ろうそく(フリー写真)

評判の良い降霊師

実家は俺の父親が継いでいるが、実は本来の長男が居た。俺の伯父に当たる訳だが、戦前に幼くして亡くなったのだ。今で言うインフルエンザに罹ったと聞いたように記憶しているが、と…

雪景色(フリー素材)

もどり雪

一月の終わり、山守りのハルさんは、山の見廻りを終えて山を下っていた。左側の谷から、強烈な北風に舞い上がった粉雪が吹き付けてくる。ちょっとした吹雪のような、『もどり雪』だ…

河原(フリー写真)

猫のみーちゃん

私がまだ小学生の頃、可愛がっていた猫が亡くなりました。真っ白で、毛並みが綺麗な可愛い猫でした。誰よりも私に懐いていて、何処に行くにも私の足元に絡み付きながら付いて回り、寝る時も…

猫(フリー写真)

親猫の導き

アパートで一人暮らしを始めた頃、アパート周辺を猫の親子がうろついていた。親猫と仔猫四匹。私はどういう訳か親子に懐かれた。アパートでは飼えないので下手に餌をやるのは避け…

横断歩道(フリー写真)

守護

週末、飲み会で泥酔して帰った時の事。家の前には深夜でも交通量が多く、事故の多い国道があるのだけど…。普段は危ないから絶対に斜め横断なんてしないのに、酔った勢いでつい魔…

消防車の玩具(フリー写真)

おもちゃの消防車

この話を知っている方も多いかと思いますが、投稿します。これは毎日新聞の記者さんが実際に聞き、掲載したお話です。ある日の雨の降る夜、会社から家路を急いでいたAさんが、田…

枝に積もる雪(フリー写真)

おじいさんの足音

母から聞いた話です。結婚前に勤めていた会計事務所で、母は窓に面した机で仕事をしていました。目の前を毎朝、ご近所のおじいさんが通り、お互い挨拶を交わしていました。…

庭に咲く花(フリー写真)

光る玉

私の母は私を産む前に二度流産しており、三度目(私)の時も、何度か駄目になりかけていたそうです。妊娠4ヶ月頃の時も、やはり体調を崩して流産しかけたらしいのですが、その時、庭で二人…

癒しの手

不思議なおっさん

自分が小学生の頃、近所で割と有名なおっさんがいた。いつもぶつぶつ何か呟きながら町を徘徊していた人だった。両親も含めて、奇妙な人だから近寄らない方が良いと誰もが言っていた…