犬の気持ち

犬(フリー素材)

俺が生まれる前に親父が体験した話。

親父がまだ若かった頃、家では犬を飼っていた。

散歩は親父の仕事で、毎日決まった時間に決まったルートを通っていたそうだ。

犬は決まって親父の左側を歩き、決して右側を歩く事はしなかったそうだ。

これは親父が躾けた訳じゃなく、いつの間にかそうなっていたらしい。

犬の左側に回り込んで犬が右側に来るようにしてみたらしいが、何故か左側に戻って来る。

それが可愛くて、犬はそれ以降ずっと親父の左側を歩いていた。

ところがある日、犬が右側に来た。

驚いたし違和感もあったので、何度か左側に来るようにしてみたが、やはり右側へ。

不思議に思ったけど散歩に出掛け、最初の路地を右へ曲がろうとした時、右から来た車に犬が撥ねられ即死。

親父は咄嗟に、俺の身代りになるために右側に来たのだと思ったそうだ。

口から血を流して死んでいる犬を、世間の目も憚らず、抱きかかえながら号泣したそうだ。

子供の頃に聞いた話だが、聞いた時は大泣きした覚えがある。

それ以降、我が家に犬が居なかった事は一度も無い。

何か守られていると言うか、優しくなれると言うか…。動物は不思議だよな。

関連記事

将棋盤(フリー写真)

角の頭に歩を打て

先週、親父と将棋を指した。 欲しい本代を賭けての勝負だけに、負けられない一戦だった。 俺は親父から将棋を教わった。 当然親父の方が強い。実力にはかなりの差がある。 …

枝に積もる雪(フリー写真)

おじいさんの足音

母から聞いた話です。 結婚前に勤めていた会計事務所で、母は窓に面した机で仕事をしていました。 目の前を毎朝、ご近所のおじいさんが通り、お互い挨拶を交わしていました。 …

地厄(じんやく)

今から25年前の小学3年生だった頃の話。 C村っていう所に住んでたんだけど、Tちゃんっていう同い年の女の子が引っ越してきたんだ。 凄く明るくて元気一杯な女の子だったんで、こ…

赤ちゃんの手(フリー写真)

亡くなったはずの両親

私が12歳の時、両親が他界した。 私には三つ年下の弟が居たのだが、それぞれ別々の親戚に引き取られた。 一ヶ月も経たないうちに親戚の私に対する態度は冷たくなり、私は高校進学を…

森

山の神さん

これは私が8歳の頃に経験した実話です。話の内容は直接見聞きしたことではなく、祖父から聞いた話や自分の記憶で補った部分もありますので、その点をご了承ください。 私の祖父は猟師で、…

父と娘

お馬の親子

父と妹の話です。 4年程前、父が肺がんで亡くなりました。 過労やストレスなどもあり、余命半年のところが2か月で亡くなりました。 父はとても子煩悩で、遅くできた末妹を…

夜の住宅街

山に棲む蛇

20年前、山を切り開いた地に出来た新興住宅地に引っ越した。 その住宅地に引っ越して来たのは私の家が一番最初で、周りにはまだ家は一軒もなく、夜は道路の街灯だけで真っ暗だった。 …

桜の木の神様

今は暑いからご無沙汰しているけど、土日になるとよく近所の公園に行く。 住宅地のど真ん中にある、鉄棒とブランコと砂場しかない小さな公園。 子供が遊んでいることは滅多にない。と…

河川敷

人形と祈り

私は東京で働き、家庭を持っていた。 しかし二年前、重い病を患い、入退院を繰り返す中で、ついに会社を解雇された。 それが主な原因となり、ほかにも様々な事情が重なって、妻とは…

秘密基地

サイキック少年

今から16年前、僕が小学4年生の頃の話です。 昔、秘密基地とか作りませんでしたか? 僕も友達(けんちゃん、としちゃん)と秘密基地を作り、学校帰りにいつもそこで遊んでいました…