成仏した女の子

公開日: 心霊ちょっと良い話

天使のはしご(フリー写真)

私の母がまだ独身だった25年程前の話です。

交差点を渡ろうとした時、前に10歳くらいの女の子が歩いていて、その子が目の前で左折しようとしたトラックの後輪に巻き込まれてしまった。

当然その場はパニック。

女の子はその場に居た男性にトラックの下から引き出されたが、…もう…惨いとしか言えない状態だったそうだ。

そして残酷な事に、その少女はその惨い状態でまだ生きていて、虚ろな目で

「痛い…痛いよう…」

と呟いていて、聞いている方は堪らなかったらしい。

母はあまりの事に、その場から逃げる事も目を背ける事も出来ず、最前列で呆然とその情景を見ていたのだが、ふとその女の子が母に視線を合わせると、

「…お母さん…怖いよう…」

と言います。

母は何かに押されるように女の子が横たわっている側へ行き、手を握りながら

「大丈夫よ。お母さんがずーっと一緒に居るからね」

と我知らず言うと、女の子は嬉しそうに頷いた。

結局、その女の子は救急車が来る前に、母に手を握られたまま息を引き取ってしまった。

母は少しも怖いとは思わず、本当にその子の最期を一人ぼっちで迎えさせたくないという思いだった。

しかし全ての処理が終わって家に戻ってから、普通ではない自分のやった事や事故のショックで、何日も寝られず食べ物も口に入らない日が続いていた。

でもある日、用事があって家の玄関から外に出ると、少し離れた所にあの女の子と、その横に別の知らない大人の女性が並んで立っていた。

二人は母を見るとニッコリ笑ってお辞儀をしたかと思うと、もう消えていたらしい。

一瞬だったし幻かもしれないけど、母はそれを見て、

「あの子はあの世で一人ぼっちではないし、成仏してくれたんんだ」

と感じ、それから急に心身の体調が回復して行った。

挨拶に見えられた女の子のご両親に、その横に居た女の人の話をした。

心当たりはないようだったが、悲しい中にも何だかホッとされていたそうだ。

関連記事

愛猫の最後の挨拶

うちの両親が体験した話。 もう20年も前の夏のことです。 私達兄弟が夏休みを利用して祖父母の家に泊まりに行っていた夜、当時とても可愛がっていた猫がいつまで経っても帰ってこな…

着物の少女

毎年夏、俺は両親に連れられて祖母の家に遊びに行っていた。 俺の祖母の家のある町は、今でこそ都心に通う人のベッドタウンとしてそれなりに発展しているが、二十年ほど前は、隣の家との間隔…

古いアパート

おっちゃんの幽霊

半年程前に起きた出来事。 今住んでいるアパートは所謂『出る』という噂のある訳あり物件。 しかし私は自他共に認める0感体質。恐怖より破格の家賃に惹かれ、一年前に入居した。 …

松葉杖

九十九神

皆さんは、九十九神というものをご存知でしょうか? 長い間使用されている物に宿るとされる妖怪のような存在です。 私は詳しいことは知りませんが、特注の松葉杖には、この九十九神…

雨(フリー写真)

涙雨

親父の葬式の時の話。 告別式の最中、心の中で親父に語りかけていた。 『親父、まだ上には行ってないだろ。側に居るなら蝋燭を揺らしてみてくれ』 すると壇上の蝋燭が激しく…

合格祈願の絵馬(フリー写真)

母の四十九日まで

私が中学生の時の話です。 受験の真っ只中の時期に、母がくも膜下出血で入院。そのまま亡くなってしまいました。 その日の夜、 「最後に家族みんなで一緒に寝よう」 と…

お婆ちゃんの手(フリー素材)

牛の貯金箱

小学生の頃、両親が共働きで鍵っ子だった俺は、学校から帰ると近所のおばあちゃんの家に入り浸っていた。 血縁者ではないが、一人暮らしのばあちゃんは俺にとても良くしてくれたのを覚えてい…

小島(フリー写真)

海女さんの心霊体験

私は23歳で、海女歴2年のあまちゃんです。 泳ぐのが好き、結構儲かる、という理由でこの仕事をしていますが、不思議な体験をした事があります。 ※ 海女になりたての頃、自分に付い…

中学校の教室(フリー写真)

このまま行くところ

小学5年生の頃に転校して来た友達と仲良くなって、中学時代も変わらず仲良しだった。 でも彼は中学2年の昼休み中に意識を失い、二度と学校には来なかった。 原因は白血病で、よく…

田舎の風景(フリー写真)

氷を買いに来る若者

これはうちのじいちゃん(既に逝去)に聞いた話。 じいちゃんは、鉄工所を経営する腕利きの職人だった。 じいちゃんが若い頃(戦後間もなくだと思う)、仕事の得意先に製氷所があった…