小さな祠と石

公開日: 心霊ちょっと良い話

山間の田んぼ(フリー写真)

うちの兄は10年ほど前に亡くなりました。

亡くなる前々日、いつもは帰ってすぐ部屋に入ってしまう兄が、珍しく私にPCの使い方を教えてくれました。

その事を思い出すと、今でも涙が出てきます。

その翌日、兄は会社を無断欠席し、家にも帰らず、翌々日に遠い地方のホテルで遺書もないまま自殺をしてしまいました。

当たり前かもしれませんが、その話はあまり人にはしていなかったんですよ。

特にネット繋がりの友人とかだと、兄がいる事すら話していませんでした。

その後、暫くしてあるイベントのために私は友人と某県に出掛けました。

イベントは楽しく終了し、ネット仲間で飲み会をする事にしていましたので、時間までゲームセンターで時間を潰していました。

その時に、友人(私の兄の事も知っている)が不意に、

「そう言えば、そのうち私もお兄さんにお線香あげにいかなきゃ」

とポツリと呟いたのです。

突然の台詞に『何言ってんだ?』と思ったのですが、

「ありがと」

と返しておきました。

すると、同じく飲み会に参加するグループの一人の女の人が突然、

「すいません、そのお兄さんってもしかして黒髪短髪で、ここにこう言う風にほくろのある人?」

と言ってきたのです。

彼女とは面識がなかったのですが、確かに兄は黒髪短髪、その女性が示した所に特徴的なほくろがありました。

驚いて頷くと、

「今、お友達さんがお兄さんにって言ったら、あなたの後ろにどっかの風景が映って、その男の人があなたの頭を撫でてたの」

と言われました。

彼女はちょっとばかり霊感があり、占いをしている方だそうで。

兄が何か告げたいようなので見てあげると言われました。

半信半疑でお願いすると、

「あなたのお兄さんは、あなたのお父さんの血の人が運んだ水を守るために、お父さんの田舎にいて土地を守っている。

そこは(以下、とある所から見た風景)な所で、小さな祠と石がある。その石にお兄さんはずっと座っている」

と言われました。

私はその風景がなぜかふわりと頭に浮かびましたが、そんな場所も祠も心当たりがなかったので、取り敢えず心に留めるだけで、本気では信じていませんでした。

それから、私は彼女に会う事もなく1年ほど経ちました。

ある時、久しぶりに父親の田舎(本家が住んでいる。うちは分家)に行く事になり、何となく両親より一日早く一人でそこを訪れました。

その時、何となく本家のばーちゃん(祖母の姉)に、

「ここら辺に水に関係のある祠とかってあるの?」

と聞くと、ばーちゃんはちょっと驚いた顔をして、

「そんなのあんたに話したっけ?」

と言いました。

そして連れて行かれたのは、本家の家から10分ほど歩いた杉山に続く林道。

その途中の獣道みたいな坂をちょっと登った所に、小さな祠がありました。

そして、その脇に60センチ角の白い石が。

ばーちゃん曰く、その祠は祖母とばーちゃんの父親(私の曾祖父)がこの集落が水不足だった時に、ある水が綺麗とされる山から、龍神を勧請するために持って来た石が祀ってあるとの事。

そして、この白い石はいつのまにかここにあったとの事。

この祠のお陰か、近所の井戸はもう濁っているのに、うちの井戸だけは何故か水が綺麗で、普通に飲める事を聞きました。

そして、

「ちょっと前まで井戸が枯れかかったんだけど、あんたのお兄ちゃんが亡くなった四十九日が過ぎたら、また水が出るようになった」

と言うのです。

私はそれを聞きながらも半信半疑。偶然だろうと思っていたのですが。

祠から林道に降りようと振り向いた途端に目に飛び込んだ景色は、あの時彼女に聞いたままの景色だったのです。

山の間に広がる田んぼ、(砂利で)白い道、被さるような緑に赤い実(桑が植わっていました)。

彼女の言葉が頭の中に蘇り、私は思わずその場で泣き伏してしまいました。

ばーちゃんはいきなり泣き出した私にびっくりしましたが、訳を話すと、

「おにぃは山神か龍神の使いになったんだねえ」

と泣きながら笑いました。

翌日、一日遅れでやって来た両親にもその事を話すと、

「もっと早く教えろ」

と少し怒られましたが、そのまま偶然遊びに来ていた親戚の土木屋さんに頼んで祠の周辺を整備し、坂には階段を作ってもらいました。

亡くなった兄に関する話しはこれのみで、誰の夢枕にも立ってはくれませんが、まあ元気でやっているのでしょう。そう思う事にしています。

因みに祠を整備して以来、田舎に行く時は必ず晴天です。

関連記事

トタンのアパート(フリー写真)

訳あり物件のおっちゃん

半年ほど前に体験した話。 今のアパートは所謂『出る』という噂のある訳あり物件。 だが私は自他共に認める0感体質、恐怖より破格の家賃に惹かれ、一年前に入居した。 ※ この…

満タンのお菓子

私の家は親がギャンブル好きのため、根っからの貧乏でした。 学校の給食費なども毎回遅れてしまい、恥ずかしい思いをしていました。 そんな家庭だったので、親がギャンブルに打ち込ん…

月の虹(フリー写真)

夢枕に立つ友人

五年前、幼稚園時代からの幼馴染だった親友のNが肺炎で死んでしまった。 そいつはよく冗談交じりに、 「死んだらお前の枕元に絶対に立ってやるからな」 と言っていた。 …

手を繋ぐ(フリー写真)

おじいちゃんの短歌

高校の時、大好きなおじいちゃんが亡くなった。 幼い頃からずっと可愛がってくれて、いつも一緒に居てくれたおじいちゃんだった。 足を悪くし、中学の頃に入院してから数ヶ月、一度も…

ひよこ(フリー写真)

変り種の相棒

12年前、近所の社の祭でヒヨコを釣ったんだわ。体が歪んでいて、少し変わった形をしていた。 それでも懸命に俺の後を付いて来る姿がいじらしくて、散々甘やかし、可愛がって育てた。 …

松葉杖

九十九神

皆さんは、九十九神というものをご存知でしょうか? 長い間使用されている物に宿るとされる妖怪のような存在です。 私は詳しいことは知りませんが、特注の松葉杖には、この九十九神…

将棋盤(フリー写真)

角の頭に歩を打て

先週、親父と将棋を指した。 欲しい本代を賭けての勝負だけに、負けられない一戦だった。 俺は親父から将棋を教わった。 当然親父の方が強い。実力にはかなりの差がある。 …

家(フリー写真)

下に誰か来ている

うちの家は親父が製麺業を経営していて、親父は仕事上、朝の4時になると家を出て行く。 両親の部屋は1階、俺の部屋は2階にあった。 俺が中学生だった時のある日のこと。 …

癒しの手

不思議なおっさん

自分が小学生の頃、近所で割と有名なおっさんがいた。 いつもぶつぶつ何か呟きながら町を徘徊していた人だった。 両親も含めて、奇妙な人だから近寄らない方が良いと誰もが言っていた…

薔薇の咲く庭(フリー写真)

母が伝えたかったこと

母が二月に亡くなったんだよね。 でもなかなか俺の夢には出て来てくれないんだ。こんなに逢いたいのに…。 ※ 母が病気になってさ、本当は近くに居てやらないといけないのに、自分で希…