逆恨み

面接

これは私の知り合いが体験した話です。

今から話す出来事の起きた町では当時、物騒なことに『連続放火事件』が発生していました。

死人は今のところなく、全てがぼやで済んでいたものの、危険なことに変わりありません。

火を点けられる家は、一般家庭だったり会社だったり空き地だったりと節操がないものでした。

その前提の元で読んでいただければ幸いです。

その知り合いは小さな会社を経営しておりまして(従業員50人弱)、当時は従業員を募集中でした。

募集していたのは、即戦力が欲しかったため経験者です。

ある日、その会社にとある人が「雇ってくれ」と言ってやって来ました。

後日面接をするということにして、面接の日取りを決めたそうです。

そして面接の時に履歴書を見てみると、その入社希望の方はスキル経験等は問題なかったのですが、困ったことに以前いた会社が取引先の会社でした。

「雇いたいのはやまやまなんだけど、こういう状態で雇うと、取引先に『おまえの会社が引き抜いた』と言われかねない。申し訳ないが雇えない」

と言って断ったそうです。

入社希望の方も納得したらしく、帰って行ったそうです。

そのこともすっかり忘れた数ヶ月後、会社に刑事さん達がやって来ました。

「○○という人を知りませんか」

忘れもしない、それは数ヶ月前に面接をした人の名前です。

「知ってます、知ってます」と事情を説明すると、刑事さん達はこう言いました。

「実は彼はここのところ続いてる連続放火犯だったんです。

彼は自分に恨みがある会社や、知り合いなどの家に放火をしていました。

カモフラージュのために関係ない場所も織り交ぜながら。

彼が面接に言って断られた会社も、放火の被害に遭っています」

しかしその社長さんの場合、断る理由が『彼の人となり』とかそういうものではなく、

「前の会社が取引先だから」

という彼にとっても納得できる理由だったから、放火されなかったとのことです。

彼が面接に行った他の会社はほぼ全て放火されていたそうです。

もしあの時、他の理由で断っていたら、下手をすると社長家族は死んでいたかもしれない、とも告げられました。

それと言うのも、彼の会社は同じアパート内に自宅もあったからです。

その上、その会社の隣には、プロパンなどが沢山ある小さな町工場もありました。

もし引火していたら、爆発も免れなかったそうです。

社長さん曰く「全然、放火魔なんかには見えなかった」とのことです。

関連記事

日本人形(フリー画像)

ばあちゃんの人形

母から聞いた本当にあった話。肉親の話だから嘘ではないと思う。 母の昔の記憶だから、多少曖昧なところはあるかもしれないけど。 ※ 母がまだ子供の頃、遊んで家に帰って来たら居間の…

田舎の夕焼け(フリー素材)

辰眼童(シマナオ)さま

もう8年前になるかな…。 当時はまだ高校生で、夏休みの時期でした。 6年ぶりに遠くに住んでる祖父母に会うと父が言いました。 俺は夏休みもそろそろ終わりで、遊ぶ金も使い…

早死一族

うちの爺さんの親父だか爺さんだか、つまり俺の曾祖父さんだか、ちょっとはっきりしないんだけど、その辺りの人が体験したという話。 自分が子供の頃、爺さんから聞いた話。もう爺さんも死ん…

ツーリング

ツーリング

その昔、10歳くらい年上の従兄に聞いた話。 従兄が学生だった頃、バイク仲間数人とツーリングに出かけたらしい。 当時はヘルメットの着用が義務付けられていなかったので、まともに…

千寿江(長編)

もう色々済んだから、書かせてくれ。かなり長い。 父親には妹がいたらしい。俺にとっては叔母に当たるが、叔母は生まれて数ヶ月で突然死んだ。原因は不明。 待望の娘が死んでしまい、…

盗んだ傘

心霊話じゃないけど…ある大学でずっと前に起きた話。 A君は大学の野球部のレギュラー投手でした。 体格は良く、身長は180cmを超える大柄な青年です。 テストの時期が迫…

一つの村が消えた話をする

俺はある山奥の村で生まれ育った。 人口は百人程度、村に学校は無かったから、町の小中学校まで通って行っていた。 村人の殆どは中年の大人や高齢の方で、一部の高校生や大学生の人達…

ヒサユキという男

この話は私にとって本当に怖ろしい体験で、その為に長い間精神を病んでいました。 最近になってようやく落ち着いてきたので、自分の体験をまとめてみました。 読み直してみると何だか…

踏切(フリー素材)

留守電に残された声

偶にニュースで取り上げられる、『携帯電話に夢中で、踏切を気付かずに越えて電車に轢かれてしまう』という事故があるじゃないですか。 巻き込まれた本人もさる事ながら、電話の相手も大変で…

富士川(フリー写真)

お下がり

俺の家は昔とても貧乏で、欲しい物なんか何一つ買ってもらえなかった。 着ている服は近所の子供のお下がりだったし、おやつは氷砂糖だけだった。 そんな俺でも、義務教育だけはちゃん…