文字化けメール
公開日: 本当にあった怖い話 | 死ぬ程洒落にならない怖い話
去年の3月の事。俺は高校を卒業し、大学へ通うようになるまでの数週間、暇を持て余してひたすら遊び歩いていた。
そんなある日の夕方、友人(A)から「暇だからドライブ行こうぜ!」という電話がかかってきた。
俺は「野郎2人で夜中にドライブとかアホか(笑)」と答えると、Aは「まあいいから、取り敢えず来い」と言う。
断ってもどちらにしろする事がない俺は、取り敢えずAとの待ち合わせ場所へ向かう事にした。
待ち合わせの場所に着くと、Aが親から借りたらしい車に乗っていたのだが、なんとAは一人ではなく車内に女の子が2人いる。
2人ともどこかで見た事があるなと思ったら、俺達と同じ高校の隣のクラスの生徒だった。
事情を聞くと、Aがダメ元でメールして誘ったら、意外な事にあっさりドライブへ行くのをOKしてくれたらしい(女の子2人は、仮にB美とC子としておく)。
4人でファミレスへ行き少し早めの飯を食い、どこへ行くかという話になったのだが…。
こんな田舎に遊びに行けるような場所も無く、意味もなく「海を見に行こう」という話になった。
車を走らせ車内でわいわいやっていると、C子が自分の携帯をみながら半笑いで「ちょっとやめてよー、誰こういうことするの」と言いながら、自分の携帯画面を見せてきた。
そこにはメール画面が映し出されており、
「ぅ繧¶ソ√次の信号のある交差点を右?¶???≫? ̄?μ??¢??・!!!」
と、文字化けした記号の中に文章がある。
差出人を見ると「通知不能」と表示されており訳が解らない。
俺はメールなんてしていないし、Aは運転中でできる訳がない。B美はそもそもC子の隣に座っていたのでメールをすればすぐに判る。
しかし、当時の俺はそこまで頭が回らず、誰かが悪戯したんだろうと思い「面白そうだから指示どうりにしてみね?」とふざけ半分に提案した。
多分この時、みんながみんな「3人のうち誰かが悪戯しているんだろうと思っていたのだろう。
するとAもB美もC子も面白そうだからと同意した。
暫らくすると、信号のある交差点に差し掛かり、指示通り右へと曲がった。
そのまま道なりに進みながら、俺達は「誰だよー(笑)」などと笑いながら “犯人探し” をしていたのだが、5分程するとまたC子の携帯が鳴りメールが届いた。
そこにはやはり通知不能の差出人で、
「ケΤ鏤ア次の信号を左、縺・励さ繝¶そのまま直進∵悽代阪k縺ョ」
と書かれている。
そしてさっきと同じように指示通り進んだ。
暫らく進むと、B美が面白半分に「○○君(俺)が犯人じゃないのー?」と、俺を疑い始めた。
確かに、C子とB美は後部座席で隣り合って座っているので、メールするのを見逃すとも思えない。
Aは運転中なのでメールするのは無理そうだし、前を向いているので俺が見えない。
助手席にいる俺は3人の死角にいることになる。確かに一番疑われて当然かもしれない。
当然俺はやっていない。そもそもC子のメアドを知らないのにできる訳がない。
俺は「いや、違うって(笑)。ほんと俺じゃねーし」と弁解し、
「じゃあ全員携帯を見える場所に出そうぜ。それでメールが来るかどうか確認しよう」
「まあ、俺達以外の外部の誰かが悪戯でやってたとしたらそれでもメール来るがなー」
と提案した。
誰が犯人であれ、これで少なくとも外部のやつか3人のうち誰かかは解るはずと、その時の俺は思った。
※
全員がドリンクホルダーのところに携帯を置き、暫らく車を進めていると…、メールは来た。
しかし、今度はC子ではなくAの携帯にだった。
そこには、
「∋縺′○○書店の怜#喧/交差点を左?/」
やけに指示が具体的だ…。
だが、俺は皆に俺の予想を説明した。
「これ、俺達の知り合いの誰かが悪戯でやってるんだよ。その場にはいなくても、ルートを指定していたのはこのメールなんだし、どこを曲がれば次に何があるかなんて解ってて当然だろ?」と。
そして「こうなったら最終的にどこにつくのか確認してやろうぜ(笑)」と、女の子の手前強がって見せた。
Aも「だよなー(笑)」とノリノリで答えたし、B美とC子も「でも怖いー」とか言いながらもノリノリだった。
しかし、当時の俺は気付かなかったが、この説には致命的な欠陥がある。
そもそも「最初のメール時にどこを走っていたのか」が分かる訳がないので、遠隔地から具体的指示など出せるはずがないのだ。
しかも、実は最初にメールが来てから交差点をいくつか通り過ぎていたので、一応Uターンしてメールが来た場所らしい交差点まで戻って曲がったのだが、うろ覚えなのでそこが本当に指示通りの交差点だったかどうか分からず、完全に指示通り来ていたかどうかも怪しい。
自説の欠陥に気付くこともなく、その後も俺達はメールの指示通りに進み、とうとう人気も明かりも無い山道へと入って行ってしまった。
途中、トイレ休憩ということでドライブインに寄った時、俺はAにこっそりとこう聞いてみた。
「で、誰にメールするよう指示したんだ?」と。
俺はAが “そういう演出” をしているんだと思っていた訳だ。
するとAは、「いや、俺じゃねーし、お前が誰かにやらせてるんじゃなかったのか?」と言ってきた。
結局、どちらも犯人ではない事が判り、じゃあB美かC子が誰かに指示してるんだなという結論になったので、後で聞いてみる事にした。
車に戻り2人に事情を話したのだが、2人とも俺かAが指示していたのだと思っていたと言う。
嘘を吐いている様子もないし、寧ろ俺達が犯人じゃない事に驚いているようだった。
なんとなくそれで車内の空気が微妙になってしまったのだが、気を遣ったAが「まあゴールしてみれば解るだろうし進もうぜ!」とみんなを励ました。
※
それからも人気の無い山道を差出人不明の怪しいメールの指示通り進んでいると、今度は俺の携帯にメールが届いた。
「ぅ繧¶次のY字路を左鞁臣?」
道を進んで行くと確かにY字路はあった。
しかし、俺達は進むのを躊躇して車を止めた。
指定された道は舗装もされていない真っ暗な林道で、道幅も狭く一度入ればUターンすることすらできなさそうだ。
しかも、正規の道ではないのかカーナビにも道が映っていない。
ついでにその道の入り口の脇には上半身部分が欠けてなくなった道祖神のような石像があり、更に不気味さを演出している。
B美が不安そうに「…ほんとに進むの?」と聞いてきた。
俺も流石に不安になり「これはちょっと…ヤバくね?」と言った直後、突然Aが車を発進させ問題の横道へと車を進めて行く。
俺は慌てて「おいA!ちょっと待てって!一度車止めろよ!」と肩をゆすったのだが、Aはそれを気にもせずどんどん脇道へと入って行く。
B美もC子も軽くパニックになり、「ちょっとふざけるのはやめて!」と怒り気味に言っている。
俺はAの顔を覗き込んだのだが、Aの様子が何かおかしい。
目はうつろで表情もなく、これだけ周囲で大騒ぎしているのに、そのことを気にする様子すらない。
何かがおかしい。そう思った俺は咄嗟に体を乗り出し、クラクションを押しながら思い切りサイドブレーキを引っ張った。
車がガクンと揺れて止まり、「ビーーー!」というけたたましいクラクションの音が真っ暗な山道に鳴り響いた。
すると、Aが突然「うおっ?」と言い、正気に戻ったのかあたりをキョロキョロしながら「ちょ…なんでこの道に入ってんの???」と言い出した。
車は舗装された道から20メートル程進んだところで止まっている。
俺とB美とC子は、Aに何考えているんだと、悪ふざけにも程があると言ったのだが、A本人は自分が車を動かしたという自覚すら無いのか、「えっ? …えっ? …どうなってんの?」ときょとんとした顔で言っており、会話が全く噛み合わない。
するとその時、まだドリンクホルダーのところに置きっ放しだった全員の携帯が一斉に鳴り出した。
各々が携帯を確認すると全員同じ文章のメールが届いていた。
「¶???そのまま披 ケΤちょくしん、いそげ縺ッ縺・・」
4人でメールを確認し合い沈黙していると、C子が「これ…どうなってんの…」と頭を抱えて泣き出してしまった。
B美は耐えているようだが、明らかに涙声だ。
するとまた全員の携帯に一斉にメールが届いた。
「k縺ョ・溘こっちにこい、∪縺・!!はやくしろ」
もう何がなんだか解らなくなった俺は、Aに「取り敢えずもと来た道に戻ろう」と言った。
Aも「だよな、なんかこれは流石にやべーよ」と車をバックさせようとしたのだが、「ガリガリ!ギィィ」と音がして、クラッチを踏まずにギアを入れようとしたような変な音がするばかりで、一向に車が後ろに進まない。
Aが「あれ? おかしいな、どうなってんだ???」と不安そうな顔で必死でシフトレバーをバックに入れようとしているのだが、どうしてもシフトレバーがバックに入らないらしい。
そうこうしていると、曲がりくねった道の先から何か音が微かに聞こえてきた。
俺はAに「ちょっと静かにしてみてくれ」と言い、窓を開けて耳を澄ましたのだが、確かに何か聞こえる。
遠すぎてはっきりとしないが、微かに「シャン…シャン…」と鈴を鳴らすような音と、複数の人が枯葉を踏んで歩く音が聞こえてきた。
何かがこちらに近付いて来ている?
B美が俺に「どうしたの? 何か聞こえるの?」と不安そうに聞いてきた。
俺は「解らないけど、何か鈴の音みたいなのと足音みたいなのが聞こえてくる」と正直に答えた。
隠すと逆に余計不安にさせてしまうんじゃないかと思ったからだ。
B美はそれ以上追求せず、まだ泣いているC子を慰めていた。
俺はもう一度Aに「まだバックできそうにない?」と聞いた。
Aは「無理っぽい。どうなってんだよ…」と答えた。
この時、3人からは判らなかったようだが、俺は完全にパニック状態になってしまっていた。
そして、何を思ったのか「音の正体を確かめてくる」と言って、3人の制止を全く聞かずに1人で車を降りて走り出した。
パニックになると人は意味不明の行動を取る時があるというけれど、この時の俺はまさにそれだった。
※
暫らく真っ暗な道を走っていると、鈴の音と足音が大きくなってきた。
そして、更に進むと10メートルくらい先に人影が見えてきた。
俺は「なんだ、人じゃん」と思い、声をかけようとしたが踏み止まった。
理由は解らない、解らないのだが、その人影を見たときに異常に背筋が寒くなると言うか、今まで感じた事の無いような悪寒と恐怖心を感じたからだった。
その人影は白っぽい服を着た集団で、棒のようなものの先に沢山の鈴が付いたものを持っていて、それが歩く度に鳴っているらしい。人数は10人くらいだった。
ただそれだけなのだが、俺はそれを見た時に「あれはヤバイ」「近付いてはいけない」「早く逃げないと」と心の底から感じていた。
今から考えると、外見上の何かからそう感じたのではなく、その集団の雰囲気というか気配というか、そういうものが俺にそう感じさせていたんだと思う。理屈ではなかった。
とにかく俺は「ここから早く逃げないと」と後ろを振り返ると、全力で来た道を走り出した。
車まで戻ると、俺はAに「シフトをニュートラルに入れて外にでて俺と一緒に車を押せ!」と伝えた。
B美には「運転席に乗ってハンドル持っててくれ!」「理由は後で話すから2人とも早くしてくれ!」と錯乱気味に言うと、俺もAと一緒に車を押した。
AとB美は、後から聞くと俺の物凄い取り乱した状態に圧され、理由を聞く余裕なんてなかったらしい。
車がゆっくりと動き出した。後ろからは鈴の音が徐々に近付いて来る。
鈴の音が近付く度に、俺はどんどん焦ってきて「もっと押せ、早く!」と怒鳴り声を上げていた。
※
車が10メートルくらい進んだ頃、車内からC子の悲鳴とB美の「何か良く解らないけど早くして!」という絶叫が聞こえてきた。
どうも車の中に置きっ放しの俺達の携帯がさっきからずーっと鳴りっ放しでメールを受信し続けているらしい。
更に車を押し続け、もう少しで元来た道に出るところまで来た時、クラクションが大きく鳴らされた。
俺とAがふと運転席のほうを見ると、B美がボロボロと涙を流しながら道の奥の方を必死で指差している。
俺とAが後ろを振り返ると、さっきの人影がもうすぐ側まで来ていた。距離としては7~8メートルくらいだろうか。
全身の毛が総毛立つとはこの事を言うのだと思う。俺もAもB美もC子も今まで感じた事のないような恐怖心を感じていた。
俺とAは汗だくになりながら全力で車を元来た道に押し出すと、大急ぎで後ろを振り返ることもなく車に乗り込んだ。
そして、B美がそのまま物凄い勢いで車を走らせ、その場から逃げ出した。
車はさっき寄ったドライブインに辿り着いた。
俺もAもB美もC子も、何かが吹っ切れてしまったように放心状態で車内で黙り込んでいた。
ふと俺は自分の携帯が目に留まり画面を見てみた。
メールが37件も溜まっている。
中身を見てみると全てあの文字化けしたメールだった。
そして、最後のメールにはこう書かれていた。
「ゆるさア#・障/ない」
背筋がまた寒くなった。
俺は3人にメールの内容を見ないでそのまま消すように言うと、朝になったら近くの神社で御祓いしてもらおうと提案した。
その後、街中に戻りファミレスで朝まで時間を潰し、俺達は近くの神社で御払いをしてもらった。
結局、あの集団の正体は判らない。そもそもなぜあんなメールが来たのか、何故俺達なのか、あの集団が俺達に何をしようとしたのか、全てが何も判らない。
御祓いの時、全ての事情をありのままに話したのだが、神社の神主さんもこんな話は聞いた事がないと首を捻っていた。
ただ御祓いが効いたのか、その後俺達には何も起きていない。