ポコさん

Art-Doll-N14-mood-4

私の住んでいた家の近くの公園には、いつもポコさんという大道芸人みたいなおじさんが週に3回来ていた。

顔は白粉か何かで白く塗り、眉毛は太く塗り、ピエロの様な格好でいつもニコニコしていた。

ある日は紙芝居をしたり、また別の日にはジャグリングをしたり、風船で動物を作ったりと多才な人だった。

ポコさんが来る時には、いつも決まってラッパの様な笛で「ポーポー」と音を鳴らしながら、空いている手で小太鼓を叩く。

「だからポコさんって呼ばれてまーす」と本人が言っていた。

そのポーポーコンコンの音を合図に近所の子供は勿論の事、中学生や子連れのママさん達も集まる程に人気だった。

それがある日、急にぱったりと来なくなった。

楽しみにしていた子供達は、今日こそは、今日こそはと待つも、とうとう4ヶ月経ってもポコさんは来なかった。

それから更に4ヵ月後、ポコさんの笛の音と太鼓の音が公園から聞こえた。

ワイワイガヤガヤと子供達が集まって行く。

私も同様に友人達とそこへ向かった。

すると公園の中央で笑い声とも叫びともつかぬざわめきが聞こえてきた。

私達がそこに着く頃には16人ぐらいの子供達がポコさんの前で座っていたが、何故か子連れのママさん達は皆帰って行った。

そしていつもなら「ポコさーん」と声を掛け合っている子供の集団も不安げに静まり返っていた。

それらの違和感の正体はポコさんの顔を見てすぐ分かった。

事もあろうに、ポコさんは白塗りの顔に赤い血を目や口から出しているペイントをして、髪の毛を白髪にしていたのだ。

ポーポーコンコンの音を鳴らしながら、見開かれた目は血走っていた。

しかし、それも演出の一つなんだろうという思いから、私や友人もみんなの輪に入り、座って演目の開始を待った。

それから数分後、紙芝居が用意された。

いつも通りの明るい声で

「さーて、始まるよー。今日の紙芝居はー」

と捲った瞬間、子供達は悲鳴を上げた。

『最愛(さいあい)の死(し)』と題された赤い手書きの文字。

そして正真正銘の死体の写真(グロでは無く死装束で棺おけに入っているもの)が紙芝居には掲げられていた。

子供達のあまりの悲鳴に大人が何人か来て、その写真を見つけ

「おいおい、ポコさんこれはあまりにもひどいよ…」

と言うのを無視してポコさんは話を進める。

さらに捲られた一枚には血まみれの死体のグロ写真が。

流石に子供達は散散と逃げ回り、2人の大人がポコさんを止めにかかったが、

「お、おーまーえーか!!!」

と大声を上げながら、持っていた太鼓の鉢や笛で叩いて錯乱状態。

取り押さえられて、連絡を受けた警察に連れて行かれた。

どうやら紙芝居の中身は大人が吐く程のものだったらしく、片付けを手伝ったママさんの一人がもどし、伝播したおじさんの一人も吐いた。

後で聞いた話では、ポコさんの身内で不幸があったとの事だった。

町内の噂では、ポコさんの目の前で起きた轢き逃げ事故だったらしい。

犯人は捕まったものの、やりきれない思いから壊れたのだろう…との事だった。

この話には続きがある。

ある朝の5時頃にポーポーコンコンという音を聞いた。

8時頃になって学校へ行くため外へ出たら、公園の方向が騒がしく、向かうとビニールシートで囲まれていた。

いつもの格好のままポコさんは自殺したらしい。

それからというもの、誰もいない公園から笛と太鼓の音が聞こえたとか、朝家の前の道を誰かがポーコン鳴らしながら歩いていたという噂が後を絶たない。

私も何度か体験しているが、それはなんだか悲しい音色でした。

ポコさん、それだけ奥さんを愛していたんだろうね。

関連記事

不思議の国のアリス症候群

『不思議の国のアリス症候群』という病気を耳にした事があるだろうか。 これは得体の知れない悪夢に魘されるという症状で、人によっては毎晩のように発生する。 その悪夢とは常人の想…

千仏供養(長編)

大学一回生の春。僕は思いもよらないアウトドアな日々を送っていた。それは僕を連れ回した人が、家でじっとしてられない性質だったからに他ならない。 中でも特に山にはよく入った。うんざり…

エスカレーターの中の母娘

とあるヨーロッパの国に留学してた時の話を。 まあ言葉もままならない頃、よく日本人の友達を家に呼んで飲んでたんだが。俺の家は屋根裏で、大き目の丸窓から地下鉄の出口が見える。 …

モノクロ部屋

鏡に映った予兆

これは、私の知り合いの女性が体験した、決して笑い話にはならない恐ろしい出来事です。いくつかの詳細は変更してありますが、その核心は実際に起こったことです。 その女性、24歳の彼女…

山

ヤマノタミ

俺の父方の祖先は九州の山奥の領主だった。 これは父が自分の祖父から聞いた話(つまり俺にとっての曽祖父。以下曽祖父)。 ※ 曽祖父の両親は田舎の名家ということもあって、かなり厳…

運が良いね

今から話すお話は3年前、僕がまだ高校2年生だった時の話です。 その頃、僕はとあるコンビニでバイトをしていました。そのバイト先には同い年の女の子と、50過ぎくらいの店長、あと4人程…

竹林(フリー写真)

有刺鉄線の向こう側

小学生の時の記憶。 私の育った町には昔、林があった。 ただその林は少し変わっていて、林の中に入って途中まで行くと、ある部分を境に突然竹林に変わっている部分があった。 …

山(フリー写真)

テンポポ様

俺の地元には奇妙な風習がある。 その行事の行われる山は標高こそ200メートル程度と低いが、一本の腐った締め縄のようなものでお山をぐるりと囲んであった。 女は勿論、例え男であ…

夜の山(フリー写真)

山へのいざない

母の家系は某山と良からぬ因縁があるらしく、祖母より決してそこへ行ってはいけないと固く言われていた。 「あの山に行ってはいかん。絶対にいかんよ。行ったら帰って来れんようになるよ」 …

インターホン

俺が5才の頃の出来事。 実家が田舎で鍵をかける習慣がないので、玄関に入って「○○さーん!」と呼ぶのが来客の常識なんだが、インターホン鳴らしまくって「どうぞー」って言っても入ってこ…