禁忌の人喰い儀式

cannibals_23232

俺の親父の田舎は、60年代初頭まで人喰いの風習があったという土地だ。

とは言っても、生贄だとか飢饉で仕方なくとかそういうものではなく、ある種の供養だったらしい。

鳥葬ならぬ人葬かな。それは小さな神社で行われていたとのこと。

そこの神主さんが、亡くなった人の脳だとか脊椎だとかを啜り、その人の魂を受け継ぐらしい。

それでイタコの真似事をして、残された家族に故人からの言葉を送るという流れ。

気味が悪いように聞こえるけど、それほど殺伐としたものではなかったみたい。

しかし、先に言ったように、大体60年代を過ぎる頃になると、流石にそのような風習も廃れてきた。

その頃は、その神社の神主を息子さんが受け持つようになっていたし、法律とかそういう問題もあったから、ちょうど世代交代の時期だったのかもしれない。

だがそれでも村の爺さん婆さん連中は、ご先祖様と同じように逝きたいと、この葬送を希望していた。

そのため、新しい神主さんも嫌々ながらそれを引き受け、数年の間、死体の脳を啜ったらしい。

多分これがいけなかった。

それから20年ほど経った頃、その神主さんに突然異変が起こった。

数日高熱にうなされた後、顔がパンパンに膨れ上がり、目玉が半分飛び出した恐ろしい容貌になって、常に汗水をだらだらと流し続ける体質になったらしいのだ。

常に水を飲まずにはいられないほど汗を流し続け、渇きに苦しむ姿は、まるで本物の呪いのようだったらしい。

当然、神主の家族も心配して神主を病院に連れて行ったのだが、原因は判らずに終わり、結局その半年ほど後に、目と鼻と耳から変な汁を噴き出して狂い死にしたらしい。

そして、解剖の結果判ったのは、生きたまま脳が腐っていたのが原因との事。

当時、風習を捨てた神主への呪いだのと囃し立てられたが、特に新聞に載ることはなかったみたい。

そして時は流れ、2000年を少し過ぎた頃。

今度はその神主の子供が似たような症状を発症した。

慌てて病院に駆け込んだが、結局治療法などは当時の医学でも判らなかった。

医者も色々と調べてくれたが、はんとう病とかそういう病気に似てるが、実際はよく判らないとの事。

ただその原因は断定はできないものの、可能性は推測できたみたい。

それは、『先祖が人の脳を食っていたこと』によるもの。

同じ人間を食べると、蛋白質が突然変異を起こし、脳がスポンジ状になるプリオン病というものがあるらしい。

その上、一度そういう病が発症すると、それは血筋で受け継がれる可能性があり、日本にも代々プリオン病が発症する家系が少数ながらあるとの事。

大抵は身体機能障害や痴呆で終わるのだが、中には一生眠れず狂い死にしたり、人肉を食べたくなって仕方なくなる症状もあるみたい。

発汗し続けるというのも負けず劣らず凄いものだが、人食のタブーを侵したカルマというのは存在するんだなと、それを聞いた当時は思ったね。

結局その息子も、脱水症状でショック死してしまった。

体は荼毘に付したが、今もどこかの病院に脳だけは保管されていると思う。

さて、ここまで読んでなんとなく察した人もいるかもしれないけど、これは親戚内での話です。

最初に発症したのが伯父で、その息子が従兄。

前半部分は親父からの伝聞で、医者の話はうろ覚えだから、細部は間違ってるかもしれません。

親父も幸い何も発症していないし、一応大丈夫だとは思うけれど、俺も人喰いの血は引いているので、もしかしたら発症するかもと怯えながら過ごしています。

一部の医者は、こんな症状は有り得ないと言っていたし、本当に呪いかもしれませんしね。

関連記事

養鶏場(フリー素材)

ヒギョウさま

今はもう廃業していますが、私の母方の実家は島根で養鶏場をしていました。 毎年夏休みになると、母親と姉、弟、私の4人で帰省していました。父は仕事が休めず、毎年家に残っていました。 …

神秘的な山道

おまつり

俺の生まれ育った村は、田舎の中でも超田舎。もう随分前に市町村統合でただの一地区に成り下がってしまった。 これは、まだその故郷が○○村だった時の話。俺が小学6年生の夏のことだった。…

変な長靴

俺は大学生時代、田舎寄りの場所にアパートを借りて一人暮らしをしていた。 大学が地方で、更に学校自体が山の中にあるような所だから交通の便は悪くて、毎日自転車で20分くらいかけて山を…

目の不自由な女性

就職して田舎から出てきて、一人暮らしを始めたばかりの頃。会社の新人歓迎会で、深夜2時過ぎに帰宅中の時の話。 その当時住んでいたマンションは住宅地の中にあり、深夜だとかなり暗く、ま…

滝壺(ゆんフリー素材)

好きだった叔父さん

小学生の頃、家に叔父さんが居候していた。 叔父さんは工場の仕事をクビになり、家賃も払えなくなってアパートを追い出され、毎日やることも無く俺んちでゴロゴロしていた。 収入も無…

硫黄島の星条旗(フリー写真)

硫黄島の心霊体験

私が二年前、自衛隊基地の施設建設の為、硫黄島へ半年赴いた時の話。 数ヶ月も島に閉じ込められると、自然と顔見知りの隊員さんが出来る。 色々と話すうちに、よく硫黄島にまつわる…

青い花(フリー写真)

人が増える霊園

大学時代の友人が事故で亡くなって4年経つ。 先週、サークル仲間で集まって墓参りに行ったんだ。 田舎の小さな霊園だから、休日の昼間なのにお参りしてる人はあまり居なかった。 …

脱落者の烙印

上京してきた友人に聞いた話です。 友人は山奥の集落みたいな村に住んでたそうです。 その村ではいわゆる大地主一家が権力者で、一部の人は「様」付けで呼ぶほどの崇拝染みた扱いを受…

U字溝

実家のある地域では、毎月一回くらい集まって地区の道路の掃除とか酒飲んだりする日がある。 んで、その日は昔からありすぎてもう何を奉ってるかも分からない神社だかお寺を掃除する日だった…

公園のベンチ(フリー写真)

不可解な風景画

私の友人にM君という結構霊感のある者がいるのですが、そいつから聞いたとても不思議な話です。 僕たちの住んでいる駅前には大きな団地が並んでおり、M君は駅を利用する行き帰りは、いつも…