5センチ

1

親が道警勤務なので、事件事故の場合は親父の出動の方がニュース速報よりも早い。

だから道内の事件事故の速報は、恐怖よりも『親父の仕事』のイメージが強かったりする。

でも、豊浜トンネルの崩落の時はちょっと違った。

緊急出動を受けて、スーツに着替える親父の顔が妙に暗いのだ。

着替え途中の親父に「今回は何? 事件か何か?」と聞くと、普段は「言えん」とか、「あんたに話す必要ない」といって、決して出動内容を話さない父親が「事故」とだけポツリと言った。

そして母親に「今回は多分、しばらく帰って来れないわ。長引く」と言い出て行った。

親父が出て行ってしばらくした後、ニュース速報が来て、現場の中継を見た瞬間に、親父のあの表情の理由が判った。

多分、最も初期の時点で既に生存が絶望的だった、そんな事故だったんだろう。

親父は4日間帰って来なかった。

5日目の夕方、着替えを取りに戻ってきた親父に状況を聞くと「直撃してる。バスは真下だ。方法が見つからん。殆どの家族が諦めてる」と言った。

その後「スコープからの映像は見たの? 中はどんな感じなの」と質問した。

「5センチ」

「何が?」

「スコープで確認できた遺体の身長だ」

数日が経ち、ニュースで『現場復帰作業が進み、バスの厚さは約30センチ程度になっています』と報道されていました。

つまり、そこまで圧縮されてしまったのでしょう。

関連記事

水溜り(フリー素材)

かえるのうた

ある年末の事です。会社の先輩からこんな誘いを受けました。「年末年始は実家に帰るんだけど、良かったらうちで一緒に年越ししない? おもしろい行事があるのよ。一回見せてあげたいなあと…

てるてる坊主(フリー素材)

いもうと

俺の家には昔、いもうとが居た。いもうとと言っても人間ではなく、赤ん坊くらいの大きさの照る照る坊主みたいな奴だった。下の方のスカートみたいな部分を丸く結んだ感じ。まあつま…

下心

これは7年ぐらい前の話です。高校卒業後、就職して初めての一人暮らし。実家から徒歩30分程度の所で、まったく土地勘がない場所じゃなかった。一人暮らしを始めて3ヶ月…

きさらぎ駅

98 :名無し:01/08 23:14 気のせいかも知れませんがよろしいですか?99 :名無し:01/08 23:16 取りあえずどうぞ100 :名無し:01/08…

鎌爺

小学生の頃、田舎に住んでいた時の話。その村には鎌爺という有名な爺さんがいた。その爺さんは身内の人が面倒を見ているらしいが痴呆症らしく、いつも同じ道端に座っていてボーとしている人…

養鶏場(フリー素材)

ヒギョウさま

今はもう廃業していますが、私の母方の実家は島根で養鶏場をしていました。毎年夏休みになると、母親と姉、弟、私の4人で帰省していました。父は仕事が休めず、毎年家に残っていました。 …

台風の夜

私が友人と4人でキャンプに出かけた時のことです。ちょうど台風が日本に近づいている時でしたが、日本上陸はしないと天気予報は報じていたので、キャンプを強行したのでした。しか…

小さな猫のぬいぐるみ

先日、成人式後の同窓会で聞いた話。T君はお父さんを小学生の頃に事故で亡くし、それからずっと母子家庭。T君自身はそんな環境どこ吹く風と言った感じで、学級委員をやったりサッ…

小学校の廊下

←ココ

この間、小学校の同窓会があった。その時に当然の如く話題に上がった、俺たちの間では有名な事件の話を一つ。 ※ 俺が通っていた小学校は少し変わっていて、3階建ての校舎のうち、最上階の3…

ごうち(長編)

ある新興住宅地で起こった出来事です。そこはバブル期初期に計画が出来、既存の鉄道路線に新駅を作り広大な農地を住宅地へと作り変えて、駅の近辺には高層マンションやショッピングモールな…