ミンキーモモ

img_0

10年程前の話です。当時学生だった私は、友人とドライブに出かけました。昼間にも関わらず「横須賀の心霊スポットを見に行こう」というものでした。

場所は、ご存知の方はマニアと呼ばれる『旧○部倉トンネル』。

当時、横浜・横須賀道路は開通していたものの、完全竣工までは至っておりませんでした。

車ではトンネル跡までたどり着けなかったため、車を降りて徒歩で坂を登って行った記憶があります。

トンネル跡まであと少しという所で、私と友人はほぼ同時に急にある方向を見つめました。何故って? それは得体の知れない臭いが漂ってきたからです。

何かが腐って強烈な臭いを発している様な…。

ここで帰れば良かったのですが、余計な好奇心が後に最悪の事態を招く事を、当時のバカ2人組は全く予測しておりませんでした。

さて、無用心にも臭いのする方へ近づいていったバカ2人組。あまりの臭いに「もう止めるか。こりゃ」と思っていたところ、6~7メートル先に黒い物がある事に気がついた。

「なんだありゃあ? しっかし、くせーなぁ。何かの死骸か?」

辺りは背の低い草むらで、私が事もあろうにズカズカと近づいたところ、

「ブオオオオオオオォォォォォォンンンンン!!」

と、ものすごい音が。

なんと、無数のハエが飛び立ったのであった。今まで生きてきて『蚊柱』は何度も見たことがあるが『ハエ柱』にお目にかかったのはこれが初めてだった。

かなりおっかなびっくりになった2人組にさらに追い討ちが!

「おい…これ…人の形してねぇか」

「なぬ? ンゲェェェェェェェ!!」

皆さん。焼死体なるものを見た事がありますか? 当然、私は初めてでした。

まともに死体と目が合ってしまった。一目散に逃げようとしたその時、友人が「四方八方に何か散らばってるが、ありゃ何だ?」と言いました。

「何、のん気な事言ってんだよ。アホ!」と私。

しかし、足元を見れば、確かに何かを細かく切り刻んだものが散らばっていた。紙のような物もあれば、薄いプラスチックのような物もあった。

比較的大きな破片もあったので、適当に拾い、御遺体から離れて並べてみると、何かの絵…? 女の子みたいな…。

その間、友人は近くの公衆電話へ一目散。当然110番通報。戻ってきて言うなり、

「(警察が)着くまでここにいてくれってさ」

「…マジかよ」

この時は本当に鬱になった。

ふと、白い紙切れが近くにある事に気が付いた。私達から向かって右数メートル先の所に。

「現状維持なんじゃねーのか?」と言う友人の声を無視し、私は紙切れを拾った。

その紙切れにはこう書いてあった。

『ノロウ。ノロウ。コノヨノスベテヲノロウ。ワガウラミ、トワニハツルコトナシ』

私は寒毛立った。これ、遺書じゃねーの?

恐る恐る御遺体の方へ目を向けてみると、何と顔がこっちの方に向いてるじゃあ~りませんか…(泣)。

頭髪は燃え尽き全身黒焦げ。口の一部は腐ったのかハエに食われたのか、一部骨が露出している様にも見えた。

ここまで酷く焼けてるとなると、ガソリン被ったみたいだな…(実は当時、私は科学を専攻していた院生でした)。

元々生物の肉体は、そう簡単には燃えない。総体重の半分は水分なのだから、全身黒焦げとなると、相当量の可燃性物質を浴びてから、自らに火を放ったとしか考え付かなかった。

そうこうしている内に警察が到着。初めて事情徴収を受けましたです。はい。

担当のお巡りさんが「とんだもの見つけちゃったねぇ」と苦笑いしながら私に言った。私は「はぁ…」としか返答のしようがなかった。

お巡りさんが「手に持っている紙切れは何?」と聞いてきたので「近くで拾いました。遺書みたいです」と答え、私は紙切れを渡した。

この時、私は妙に冷静だった事を憶えている。ちなみに友人はガクガクブルブルで、事情を聞ける状態ではなかったそうな。そりゃ普通はそうだ。

「その細かい物は何かな?」と別のお巡りさんに聞かれたので「御遺体の周囲に散らばってます。適当に集めてみたら、何かの絵みたいなんですよねぇ…」

何故か私はこの絵に何か見覚えがあった。実はこの絵が更なる戦慄を私にもたらす事になるとは、その時は夢にも思っていなかった。

友人は車を運転できる状況ではなかったので、私が運転して帰途についた。家に戻り両親に事情を話した所、見事に沈黙された。

食欲など全く湧かなかったので早々に寝ることにしたのだが、その時に私は思い出した。

「あの絵…確か、ミンキーモモっていうアニメーションじゃなかったか?」

正直言って私はアニメには興味がない。ただ、予備校時代の知り合いに変わった奴がいて、そいつがミンキーモモ好きで、当時いろいろなグッズを予備校内で持ち歩いていたので、思い出したのだ。

真性ロリコンで医学部志望。

「ちっちゃい子が大好きだから、小児科医になりたい」などとほざく、私が人の親ならば絶対医者にはさせたくない奴であった。

と言っても、成績は理学部志望の私より悪かったので「まず、医者は無理だろうなぁ…」とは思っていた。

「そういやあいつ、どうしているんだろう…まさかなぁ…」

しばらく経って、同じ大学の予備校以来の友人が、私の所属する研究室にやって来た。

「時間ある?」

「ああ、いいけど…珍しいなぁ。何?」

「○○○が横須賀で、焼身自殺したらしいんだよ。一週間程行方が判らなくなっていて、親御さん、捜索願出してたらしいよ。それもさぁ…自分の周りにミンキーモモグッズ切り刻んで、ばら撒いたらしくてさぁ」

私は自分の血がみるみる引いていくのを覚えた。

「どうしたんだよ? おい!」

「それ…見つけたの。俺だ…」

絶句する友人。

これ以上、会話の必要はなかった…。

四浪の末、受験したすべての大学の入学試験にPASS出来ず…という事だった。覚悟の上の自殺だったのだろう。

奴は私に見つけて欲しかったのだろうか?

とにかく、未だにミンキーモモの絵を時たま目にしてしまうと、当時の『ハエの羽音』と『焼け焦げた顔』がフラッシュバックする事がある。

私の数少ない恐怖体験であり、トラウマでもある。

関連記事

登山(フリー写真)

伸びた手

8年前の夏、北陸方面の岩峰に登った時の話。 本格登山ではなくロープウエーを使った軟弱登山だった。 本当は麓から登りたかったのだが、休みの関係でどうしようも無かった。 …

いざない

その頃、私は海岸近くの住宅工事を請け負ってました。 季節は7月初旬で、昼休みには海岸で弁当を食うのが日課でした。 初めは一人で食べに行ってましたが、途中から仲良くなった同年…

黒ピグモン

深夜にひとりで残業をしていた時の話。 数年前の12月の週末、翌週までに納品しなければいけない仕事をこなす為に、ひとり事務所に残って残業していた。 気付けば深夜0時近く。連日…

アケミくるな

僕は運送大手の○川でドライバーをしていました。 ある夜、○○工場内(九州内にあります)で作業中、どうにも同僚Sの様子がおかしいことに気が付きました。 Sは仕事中だというのに…

自衛隊駐屯地の恐怖体験

私が新隊員教育でとある駐屯地にいた時の話です。ありがちな話かもしれませんが、どうかご容赦下さい。 自衛隊には営内点検と言うものがあります。部屋の使用状況(物品の有無、整理整頓、清…

笑う女

旅先で知り合ったアニキに聞かせてもらった話。 このアニキが昔、長野と岐阜の県境辺りを旅していた頃、山間の小さな集落を通りかかった。 陽も暮れ掛けて夕焼け空に照らされた小さい…

キャンプ(フリー写真)

もし、旅かな?

学生だった頃、週末に一人キャンプに興じていた時期があった。 金曜日から日曜日にかけてどこかの野山に寝泊りする、というだけの面白味も何もないキャンプ。 友達のいない俺は、寂…

神様に取り合いをされている

自分は神様に取り合いをされているそうだ。 親がインドだかチベットだかに行った時に、現地の神様に気に入られたとかで、加護を与える代わりに贄として子を取ると言う事にされていたらしい。…

競売物件

競売物件

自動車免許を取りに免許センターへ通っていた時に仲良くなった人から聞いた話。 筆記試験が終わり、知り合いも来ていないし一人でぼーっとしていると、20代後半くらいのサラリーマン風の人…

台風の街

盗まれたユンボ

ちょうど1ヶ月くらい前の出来事。 俺は京都に住んでいるんだが、今までオカルトなんぞに関わった事のない26歳。 そんな話はさておき、俺の住んでいるアパートの横では、新しく家を…