夫の墓守
公開日: 死ぬ程洒落にならない怖い話
俺が大学生の頃の話。
熊本大学に通っていたのだが、大学の周りには竜田山があり、その山道には霊園があった。
当時、俺は学園祭の実行委員会だった。
それで授業が終わる夕方から夜の23時くらいまで、大学周辺の食堂などからカンパを貰いに先輩と出回りをしていた。
※
学園祭まであと3日となった日の晩のことだった。
この日は先輩と別行動で、俺は竜田山の麓にあるR食堂(現在でも営業中)にカンパを貰いに行っていた。
その帰り、霊園を通り掛かると、霊園の中に人影が見えた。
俺は人一倍怖がりなので、『あれは見間違いだ』と頭の中で繰り返し、足早に山を下って行った。
※
翌日、先輩にそのことを話すと、先輩自身もその人影を見たというのだ。
しかも先輩は「それは老婆だ」とまで言い切った。
そんな会話を二人でしていると、他の連中が興味津々に話に加わって来た。
元々実行委員会をやるようなお祭り騒ぎが大好きな連中だから、その日の夜に肝試しをすることになった。
※
午後23時、俺たちは6人でその霊園までライトを持ってハイクをした。
案の定、そこには人影があり、それまでは饒舌だった他のメンバーも言葉を失った。
確かにそこに居るのは一人の老婆だ。しかし、何故墓場に?
俺たちは不自然でないように、あくまでも山を登りに来ただけであるかのように、霊園にはそれ以上目をやらずに別の会話を始めた。
※
するとその老婆が近寄って来た。
「あんたら、わしんこと見にきたっちゃな? 霊て思てから」
みんな絶句した。俺は何が何だか解らなくなっていた。
ようやく仲間の一人が、「すいません!」と上ずり声で謝っていた。
老婆は暫く俺たちに説教をした後、最後に
「わしはな、去年、夫ば殺されたっちゃげな。
あんたらみたいな大学生が学園祭前に浮かれて、酒ば飲んじから車ば運転してからの。夫ば轢いたった!」
老婆は涙声で俺らに向かって怒鳴った。俺らは何も言えなかった。
老婆は続けて、
「ちょうど今ぐらいの時間じゃ、夫が殺されたんは。
んでな、夫がよう夢に出てきて、
『あの山ば通る糞ガキどもば呪い殺してやる』
って言うもんじゃけんが、わしは夫が墓から出ていかんように、こうやって学園祭前は墓ば見とるげな」
俺たちは墓に手を合わせて、その日は解散した。