記憶の村の変貌

廃墟

ある日、男性は突然、過去に訪れた村を思い出した。

それは数年前、一人旅をしていたときに偶然立ち寄った、小さな宿がある村だった。

その村では心温まるおもてなしを受け、強く印象に残っていた。

無性にもう一度訪れたくなり、男性は連休を利用して車を走らせた。

彼は自身の記憶力に確信を持っていたため、道順はすっかり覚えている。

しかし、村の入り口を示す看板が見えた時、彼は首を傾げた。

以前は「この先Xkm」と書かれていたはずの看板が、「巨頭オ」と奇妙な文字に書き換えられていた。

その文字は、外国人が急いで書いたかのようだった。

不吉な予感を覚えつつも、男性は引き返すことをせず、車を村の中へ進めた。

村に着くと、そこはもはや人の住まない廃村と化していた。

建物には草が絡みつき、男性は車から降りることを躊躇った。

その瞬間、彼は約20メートル先の廃屋の影から、異様に大きな頭を持つ人影が現れるのを目撃した。

驚愕してハンドルを握り締めると、その奇怪な人影は手を足にぴったりとつけ、巨大な頭を左右に振りながら、彼の車に向かって歩き出した。

しかもそれは一人ではなかった。

幸いにも、男性は車から降りずに済んだ。

彼は恐怖に駆られて車を急バックさせ、国道に向かって全速力で車を走らせた。

家に帰って地図を確認しても、何年も前に訪れた村と、その日に訪れた場所が間違っていないことを確認した。

だが、男性は決してその村を再訪することはなかった。

そして、その村の真実は、彼の記憶の中だけに留まった。

関連記事

海(フリー写真)

海ボウズ

俺の爺ちゃんの話。 爺ちゃんは物心が付く頃には船に乗っていたという、生粋の漁師だった。 長年海で暮らしてきた爺ちゃんは、海の素晴らしさ、それと同じくらいの怖さを、よく寝物語…

千寿江(長編)

もう色々済んだから、書かせてくれ。かなり長い。 父親には妹がいたらしい。俺にとっては叔母に当たるが、叔母は生まれて数ヶ月で突然死んだ。原因は不明。 待望の娘が死んでしまい、…

結婚指輪(フリー写真)

ムサカリ

俺は今は大きなデザイン事務所に勤めているのだけど、専門学校を出て暫くは、学校から勧められた冠婚葬祭会社で写真加工のバイトをしていた。 葬式の場合は遺影用としてスナップから顔をスキ…

天国と地獄(フリー写真)

連れて行く

2年前、とある特別養護老人ホームで、介護職として働いていた時の話です。 そこの施設は、はっきり言って最悪でした。 何が最悪かと言うと、老人を人として扱わず、物のように扱う…

ガソリンスタンド

ある若い男がガソリンスタンドに行った。 車の窓拭きをしてくれている店員が、凄い顔で車の中を睨んでくる。 クレジットカードで会計をしたら、このカードは不正だから降りろといわれ…

田んぼ

蛇田

自分の住んでいる所は田舎の中核都市。 田んぼは無くなっていくけど家はあまり建たず、人口は増えも減りもせず、郊外に大型店は出来るものの駅前の小売店は軒並みシャッターを閉めているよう…

古民家

不吉な予兆

熊本県に根を持つ我が母の実家について語ります。この家は、長年母の姉が住む家でしたが、彼女が先日訪れた際の出来事があります。 我々が家族で集まり、映画『ターミネーター2』の壮絶な…

釘

恨みクギ

俺が若かった頃、当時の彼女と同棲していた時の話。 同棲に至った成り行きは、彼女が父親と大喧嘩して家出。彼女の父親は大工の親方をしている昔気質。あまり面識は無かったが、俺も内心びび…

紫の抽象的模様(フリー画像)

塊紫水晶奥

私には年の離れた兄が居る。普段何をしているか判らない飄々とした自由人。 偶に家に遊びに来ては、変な物を置き土産として置いて行く。 半年ほど前、玄関に磨かれていない紫色をした…

遺言ビデオ

会社の同僚が亡くなった。 フリークライミングが趣味のKという奴で、俺とすごく仲がよくて、家族ぐるみ(俺の方は独身だが)での付き合いがあった。 Kのフリークライミングへの入れ…