次女の願い

公開日: 洒落にならない怖い話

家(フリー写真)

私は神社の家系に生まれ、霊能力者を生業としている者です。

三年前に訪れたお客様の話ですが、今でもどうしても考えてしまい胸が苦しくなるお話があります。

もう時効かと思いますので吐き出させて下さい。

私の開く鑑定事務所に、ある日、顔色の悪い男性の方が訪ねて来られました。

聞くと男性の方は会社の経営をしており、地元の名士として名高かったそうですが、急激に業績が悪くなり経営が傾き、借金が膨れ上がり危険な状態になったとのお話です。

更に娘さんの事についても気がかりだ、と。

話を聞く前から既に嫌な予感がしており、おかしいなあと思いながらもご家族のお名前を聞き、霊視を始めました。

会社には何故か何も異常は見えなかったので、ご家族を霊視する事にしました。

その家には奥さんと、あとお子さんが三人居て、上から長男…長女…次女が居られました。

長男と次女が障害を持ち、そのうち次女が重度の障害で3年も寝たきりであり、自宅で介護士を雇ってお世話をしているのだそうです。

私はまず本人と家族を霊視しました。

私の霊視とは映像や声からキーワードやヒントを感じ取るものであり、今まで大変な人数を霊視しましたが、その全員に霊視が通用しており、伝えて鑑定をしてきました。

ですが、この家族はかつてないほど非常に霊視がし辛く、ノイズだらけで私は口ごもりながら原因を探っていました。

本人、奥様、長男、長女、次女…と順々に霊視しますと、はたと気付きました。

寝たきりの次女が全く霊視できないのです。

私は生きてさえいれば絶対に霊視ができる自信があるので、おかしい、おかしい、と混乱しまして、取り敢えず次女の部屋に何があるのかを書き出してもらいました。

私の様子もおかしい、ただならぬと察したそのお客様は、慎重に慎重に思い出しながら書いて行きます。

ベッド、洋服棚、家族が座る椅子、折り畳んだ車椅子…神棚。

あった、これだ。

「ここに何が祀ってありますか!?」

と、私は大きな声で尋ねました。

「え!?…ええ、ああ、うちは○○教(新興宗教団体)ですからね。

私の部屋にも置いて世話をするからと、熱心な次女が置き出したんですよ」

「何年前からですか」

「ああ…そうですね。この部屋にあるのは3年前からですね」

(新興宗教団体にしても、あの大規模な神道系邪教とは…)

やっと私の脳裏に、いつものように霊聴の声が走ります。

『あ…と…が……み…』

ゾワっと、怖気が走りました。

『あらひ…と…が…』

あらひとがみ、現人神。

「なるほど、次女さんが寝たきりになったのは、神棚を置いてからどれぐらい後ですか?」

「え? ええ、あー、どれぐらいでしょうね、まあ近いことは確かです」

「会社の業績が悪化したのは?」

「ああ、それは3年前ですよ」

「次女さんが健康であった時、あなたに何かして欲しいと言っていた事は?」

「ああ…お恥ずかしいですが、次女が寝たきりになってから妻から聞いたのですが、私と遊んで欲しかったといつも愚痴をこぼしていたそうで、私の仕事を憎んですらいたそうですね…」

曖昧模糊とした情報が、一本の線で繋がります。

つまり、次女の部屋に置いてある神棚が原因で次女を寝たきりにした。

あの邪教は特徴的で、信者から金銭を吸い上げ、神棚から生命力を吸い上げる性質がある。

神棚の祀り方なのか、それともたまたまなのか、神棚の中の邪教の札が次女自体を『御神体』として祀る事を選んだ…

つまり、現人神。かつての村や町の中で信仰を集めた、人の身でありながら神として崇められた者。

本人へ栄養を供給し介護士が世話をする事は、イコール『神様のお世話』。

大き過ぎる神棚や大き過ぎる御神体は、大きな願いの力を生む。

要するに、複数の条件が重なることにより『天然の現人神』が生まれ、それに対して誰も願わずに、けれども神様のお世話はされていた。

何か大きな人の願いがないのならば、優先されるのは神そのものの願い。

つまり『父親の仕事が無くなり、遊んでくれるようになる事』。

だからと言って、神棚を無くせなどと言えるはずがない。

それによってどのような災厄が私や目の前の客に起こるかが未知数だ。

人工神の祭壇を壊せ、などと大それた事を私は言えない。言えば祟りが起こる。

と言うか、自分のところの宗教の人間に頼れよ、と。

それにこの客も某邪教の信者であれば、

「某邪教の神棚のせいで娘さんもあなたのお仕事もおかしくなってるんですよ」

と言ったら怒り狂い、信者を引き連れて暴力的な意味の御礼参りに来られたら堪ったものではない。

それに、あの邪教ならやりかねない。

私は立ち上がって、キッパリとお話しました。

「お帰り下さい。今すぐに。お代は結構です」

「え? どういう意味ですか?」

「すみませんが、未熟者の私には対処しかねます。大変申し訳ありません」

そんなやり取りの中、ブツブツと文句を言われていましたが、そのお客様はお帰りになりました。

その後、全ての鑑定をキャンセルし、日本酒をあおり忘れようと努力しました。

その次女は、今も生きながらに現人神として祀られているのかもしれません。

自らの願いをひたすらに叶えながらも。

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