異次元の駅 – 時空のおっさんシリーズ

地下鉄

今日、現実離れした体験をした。就職活動で疲れ果てていた僕は、横浜地下鉄でうたた寝をしてしまい、目的地の仲町台ではなく、終点で目を覚ました。しかし、そこは夕方のはずが、まるで真昼のように明るかった。

目の前に広がっていたのは、真っ白なドーム型のホームで、天窓からは強い光が差し込んでいた。駅の名前は、理解不能な中国語のような文字で書かれており、「譬娜譌爬…」といった感じだった。

周囲には灰色の影のような人々がぼんやりと存在しており、どこか非現実的な雰囲気が漂っていた。全く知らない、見覚えのない世界にいるようで、不安がこみ上げてきた。

取りあえずは、何とかこの場から脱出する方法を考え、逆方向の地下鉄に乗ることを試みた。しかし、逆方向のホームも同じく見知らぬ漢字の駅名ばかりが並んでいた。外に出ることも考えたが、怖くて一歩が踏み出せず、代わりにエスカレーターで降りて駅事務室を探すことにした。

しかし、エスカレーターを降りた途端、まるで駅の外に出てしまったかのように見えた。外は真冬にもかかわらず、太陽が燦々と輝き、空はミカン色に染まっていた。パニックに陥り、リクルートスーツのまま走り出した。

走りながら、自宅に電話をかけてみるも、「この番号は間違っています」とのアナウンスが返ってきた。その後、近くのバス停で座り込み、カバンから取り出したメープル味のカロリーメイトを食べながら、涙が止まらなかった。

一時間ほど経った頃、見知らぬおばさんが声をかけてくれた。「大丈夫?」との問いに、「家に帰れないんです……」と泣き崩れると、おばさんは「角を曲がって地下鉄にまた乗って!走って!」と励ましてくれた。その際、何故か雑誌を手渡された。

おばさんの言葉に従い、闇雲に走って地下鉄に飛び乗った。地下鉄は長いトンネルをひたすら走り続け、僕は祈るような気持ちで立ち続けた。時折、ラジオのようなノイズに混じって聞こえる見知らぬ言語のアナウンスに、再び泣き出した。

突然、「次は仲町台ー」というアナウンスが聞こえたときは、信じられなかった。降り立ったのは、いつもの仲町台駅で、普通に日が暮れていた。

そのおばさんにもらった雑誌は、20年前に普通に売られていた「オリーブ」という雑誌で、これが異空間の証拠にはならなかったが、僕の経験したことが現実だったのか、それとも夢だったのか、今も確かめようがない。

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