屁で退散、エレベーターの霊

公開日: 心霊体験 | 笑える怪談

elevator

俺はエレベータに乗る時、誰もいない場合でも軽く会釈してから乗るようにしている。

それには訳がある。

仕事でしょっちゅう行く取引先でのことだ。

その日、俺は難しい打ち合わせを夜遅くまでしていた。

何とか目処がついて取引先を出たのは夜の9時くらい。ビルのフロアは人気もなく、無機質な空気が漂っていた。

そしてエレベータに乗ったのだが、誰もいない空間と一仕事終えたという開放感で一気に緊張感が解け、決してわざとというわけではないが、スゥ~と放屁をしてしまった。

(……ん、わりとくさいかも……)

我ながら結構キツい空間だった。

会社は4Fだが、2Fと3F で乗り降りする人に会ったことはほとんどなく、まあ、このまま1Fに着くだろうと思っていた。

そのとおりスルスルとエレベータは降りていったが、エレベータの真ん中に立っていた俺の左横で「うっ……」という声が。

(えっ!まさか、人がいた?!)

すぐさま右によけ、左側をちらっと見ると、俺と同じようなサラリーマンが顔をしかめていた。

(やば、やばすぎる……。でも、確かに乗った時はいなかったはずだが……)

不思議に思ったが、それ以上にばつの悪い思いが上まわり、

「す、す、すいません……」

と消え入るような声で謝った。

すると、そのサラリーマンは顔をしかめたまま、ゆっくりこちらに顔を向けようとしたが、臭いがまだ漂っているのか、「うっ」という表情をして途中で止めてまた正面に向き直った。

(…………)

気まずさに早く着けと念じつつ、ちら見していると、エレベーターが1Fに着く手前で何とサラリーマンは、すぅ~と消えてしまったのだ。

「えっ!」

今度ははっきり声をあげて、エレベータの箱全体をきょろきょろ見回したが、やっぱり何の形跡もなかった。

とりあえず外に出て、シルバーのドアをしばらく眺めたが、たぶんそういうことなんだろうと結論付けた。

幽霊とはいえ本当に失礼した。申し訳ない。俺は頭を下げてビルを後にした。

ということで、乗るとき見えなくても先客がいるかもしれないので会釈をするようになったのだ。

ちなみに取引先のビルの幽霊は有名だったそうだが、なぜか近頃出ないそうだ。

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