ヤクルトをくれるお婆さん
公開日: ほんのり怖い話
あれは俺が小学4年生の時でした。
当時、俺は朝刊の新聞配達をしていました。
その中の一軒に、毎朝玄関先を掃除しているお婆さんが居ました。
そのお婆さんは毎朝、俺が
「お早よう御座居ます」と言うと、
「ご苦労さん」と言って、ヤクルトを二本あるうちの一本くれました。
俺はいつしかそれが楽しみになっていました。
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そんなある日、いつものようにお婆さんに挨拶すると、返事がありません。
いつもは笑顔で挨拶してくれるのに、振り向きもせずに黙って玄関先を掃除しているのです。
何か変やなあと思いながら、その日は残りの配達を済ませ帰りました。
※
そして次の日、お婆さんの所に到着して挨拶をすると、またしても返事もなく掃除をしています。
それにポストには昨日の朝刊と夕刊が入ったままです。その横のケースの上にはヤクルトが三本あります。
俺は黙って飲む訳にもいかず、その日も帰りました。
※
翌日、お婆さんの姿はありませんでした。
そして、その次の日も…。更に2~3日経っても、相変わらずお婆さんの姿はありません。
ポストは新聞で一杯になったので、玄関の扉の間から新聞を投函しました。ヤクルトも数が増えていました。
旅行でも行ったんかなあと、大して気にも留めずに、その日も帰りました。
※
店に帰り、新聞屋の親父にその話をすると、
「ああ、あの婆ちゃんヤクルトくれるやろ」と言い、
「そう言えば、あの婆ちゃん一人暮らしやったはずやで。何か心配やなあ」と言いました。
そして、
「取り敢えず一回警察に連絡してみるわ」と言っていたので、俺は家に帰り学校へ行きました。
※
その次の日、新聞屋に行き配達に出ようとすると、上司から
「○○君!あのお婆さんの所はもう入れんでもいいよ」と言われました。
何でやろと思いながら配達を終え、店に戻ると上司が、
「あのなぁ~、あのお婆さん死んだんや。
今、警察の方で調べてるけど、死後一週間から十日は経っとるみたいやなあ」と言いました。
そして、
「配達に行く前に言うたら恐がるやろから、戻って来たら言うたろと思てたんや。
まあ、お前が姿を見た最後の二日間のお婆さんは、お前に自分が死んでる事を教えたかったんやと思うでぇ」
と言われ、その瞬間は俺は意味が解りませんでした。
でもその意味が解った時、新聞配達のバイトを辞めたのは言うまでもありません。
あれから31年経った現在でも、あのお婆さんの姿は忘れられません。