隣の女子大生

公開日: ほんのり怖い話 | 心霊体験

563d1498acaa3bff519912df440cce06

貧相なアパートに暮らす彼の唯一の楽しみは、隣に住む美女と語らうひとときだった。

ただ、一つだけ腑に落ちない点が…。

当時、彼の住むアパートは、築30年の6畳一間で、おんぼろアパートという言葉がぴったりの建物であった。

コンビニからも遠く、駅から自転車で30分もかかる物件だったが、そのぶん家賃は随分と安かった。

それでも彼は、そのアパートになにか温かいものを感じ、とても気に入っていた。

そして、それ以上に嬉しかったのは、隣の部屋に住む女子大生が美人で、とても親切だったことである。

顔を合わせるといつも挨拶してくれるし、付近のコインランドリーや美味しい定食屋など色々教えてくれたのだ。

そうする内に彼は、いつしかその女子大生に恋心を抱くようになっていた。

そして、彼女のことを考えると胸が締め付けられて苦しくなるのである。

彼はいつの日か彼女に告白しようと心に誓うのだが、その女子大生にも嫌なところがたった一つだけあった。

それは、彼女が幽霊の話をよくするところであった。

「このアパートには霊がいる」

「一階で霊の祟りで死んだ人がいる」

「昨日、金縛りに遭った」

など、廊下や階段での立ち話でも、必ずこういう話をするのだ。

「なんで、彼女はこんな話ばかりするのかな…」

元来臆病な彼は、そういう話を聞くのも駄目で、そのときばかりは閉口してしまうのだった。

ある夜のこと、彼が寝ていると何者かが布団の上に覆いかぶさってきた。

そして、彼の全身に重みをかけて、首を締めつけてくる。

「彼女が言っていた霊現象って、このことか…」

恐怖の中で、彼はそいつの手をなんとか引き離し、体をはねのけ電気を点けたのだ。

すると、部屋の中には誰もいない。自分が寝ていた乱れた布団があるのみである。

「これは、一体何なんだ。俺の幻覚なのか? 彼女が霊の話をするので、ついに本物の霊が出たのか…」

不審に思った彼は大家さんのところへ行き、この体験を話したところ、大家さんはこう言った。

「あのアパートには、あなたしか住んでませんよ」


いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

ミステリー | note
https://note.com/mystery_stories

関連記事

自動ドアが認識しない人間

大学二年の夏休みに入る少し前からだったかな…。 コンビニやらスーパーやらの入り口、とにかく全ての自動ドアが俺に反応しなくなった事があった。 それまでは普通に入ることの出来て…

深夜のコンビニ

この話は、ある男がコンビニで深夜のアルバイトをしていた頃に起きた体験談である。 そのコンビニは、深夜になるとほとんど客が来なくなる。 俺は共にバイトをしていた大学の先輩と、…

疑問符

ラッキーコール

私は工務店に勤めておりまして、3年程前にある幼稚園までバスの車庫を修理に行った時の事です。 その幼稚園はお寺が経営していまして、車庫は園舎を横に抜けた本堂裏の広場にありました。 …

ビル

ゲーム雑誌会社での恐怖体験

昔、私はゲーム雑誌会社で働いていました。会社が潰れてからは振り返ることもなかったのですが、今はもう話しても大丈夫でしょう。ゲームにまつわる不可解な話を一つ、記してみます。 私た…

タクシー(フリー写真)

契約書の拇印

俺の親父の話を書きます。 親父はタクシーの運転手をしています。 夜中2時を過ぎた頃だったそうです。40代くらいの一人の男性が病院から乗って来ました。 行き先は違う近…

小学校の廊下(フリー写真)

パソコン室の幽霊

これは俺が当時通っていた小学校の話だ。 俺はその日、パソコン室に筆箱を忘れた。それに気付いたのは六時間目が始まってから(その時間は隣の女子に鉛筆を貸してもらっていた)。 仕…

富士川(フリー写真)

お下がり

俺の家は昔とても貧乏で、欲しい物なんか何一つ買ってもらえなかった。 着ている服は近所の子供のお下がりだったし、おやつは氷砂糖だけだった。 そんな俺でも、義務教育だけはちゃん…

抽象的模様(フリー画像)

黒い影

私はずっと母親と二人で暮らしてきた。 父親は自分が生まれてすぐに居なくなったと母親から聞いた。 祖父や祖母、親戚などに会ったことは無い。そんなものだと思っていた。 そ…

狐さん(フリー写真)

小さなかぎ裂き

戦後暫く経った頃、地方のある農村での話。 村で一番の旧家の跡取り息子が失踪した。 山狩りをしても、池を浚っても見つからない。 お金か女性がらみのトラブルかと思い、人…

魂(フリー素材)

守護霊の助け

若い頃、友人のBさんと久々に会い、飲みの席で「本格的な占いをお互いしたことが無い」という話で盛り上がったことがありました。 酔った勢いで帰り道、幾つか閉まっていた占い場の中から適…