合いの手

公開日: ほんのり怖い話

材木(フリー写真)

俺の親父が若い時分に、山から材木を切り出す仕事をしていた頃の話。

飯場と呼ばれる山の中の宿舎で、他の作業員と寝起きを共にする仕事だったそうだ。

その中に民謡のとても上手い人が居て、寝言でも民謡を歌い出す事が度々あったらしい。

それが寝言とは思えない立派な歌声なもので、周りで寝ている連中も目が醒めても怒るどころか聴き入ってしまう程だったらしい。

いつもは一番の歌詞を歌い切ると、彼は何事も無かったように深い眠りに就くのだそうだが、ある夜、傍で聞いていた誰かが一番の歌詞を歌い終えた直後に『合いの手』を入れてみたそうな。

すると寝言民謡の男は二番を歌い始めた。

そこで面白がった周りの連中は次々と合いの手を入れ、結局民謡を最後まで歌わせてしまったそうな。

次の日、民謡の男は酷く体調が悪いらしく、仕事もままならない様子。

心配した俺の父親が「大丈夫か? 何かあったのか?」と尋ねると、

民謡の男が「夕べ誰か俺の寝言の歌に合いの手入れなかったか?」と、周りで作業していた仲間に言ったそうだ。

後で詳しい話を聞いたところ、彼は他の現場でも同じ事が何度もあり、現場や仲間が入れ替わる度に、寝言で歌っても無視してくれるように頼むのが習慣だったらしい。

しかし、たまたま俺の父親と一緒になった現場は忙しくて話す時間が無かったのだそうだ。

『寝言と話をしてはいけない』という言い伝えを思い出す。

関連記事

金色の金魚(フリー写真)

浮遊する金魚

小学2年生くらいまで、空中を漂う金色の金魚みたいなものが見えていた。 基本的には姉ちゃんの周りをふわふわしているのだけど、飼っていた犬の頭でくつろいだり、俺のお菓子を横取りしたり…

見覚えのある手

10年前の話だが、俺が尊敬している先輩の話をしようと思う。 当時、クライミングを始めて夢中になっていた俺に、先輩が最初に教えてくれた言葉だ。 「ペアで登頂中にひとりが転落し…

抽象画(フリー素材)

同じ夢を見る

小学校3年生の頃、夢の中でこれは夢だと気が付いた。 何度か経験していたので、自分の場合は首に力を入れるイメージをすると夢から覚められると知っていた。 しかしその時は何となく…

少年と祖母

今年33歳になるが、もう30年近く前の俺が幼稚園に通っていた頃の話です。 昔はお寺さんが幼稚園を経営しているケースが多くて、俺が通ってた所もそうだった。今にして思うと園の横は納骨…

名も知らぬ息子

「僕のお母さんですか?」 登校中信号待ちでボーっとしていると、突然隣の男が言った。 当時私は20歳の大学生で、妊娠・出産経験はない。それに相手は、明らかに30歳を超えていた…

森(フリー写真)

色彩の失われた世界

俺がまだ子供の頃、家の近所には深い森があった。 森の入り口付近は畑と墓場が点在する場所で、畦道の脇にはクヌギやクリの木に混ざって、卒塔婆や苔むした無縁仏が乱雑に並んでいた。 …

異なった世界のスイッチ

アサガオが咲いていたから、夏の事だったと思う。 私は5歳で、庭の砂場で一人で遊んでいた。 ふと顔を上げると、生け垣の向こうに着物姿の見知らぬお婆さんがニコニコして立っている…

優しい抽象模様(フリー素材)

ともだち

最近、何故か思い出した。子供の頃の妙な「ともだち」。 当時の自分は両親共働きで鍵っ子だった。とは言っても託児所のような所で遊んで帰るので、家に一人で居るのは一時間程度。 そ…

カップル(フリー素材)

恋人との思い出

怖いと言うより、私にとっては切ない話になります…。 私が高校生の時、友達のKとゲーセンでレースゲームの対戦をして遊んでいました(4人対戦の筐体)。 その時、隣に二人の女の子…

公園(フリー素材)

視える子

7歳の長男の話です。 長男は所謂『視える子』らしいのですが、彼から聞き出す話のことごとくが、一般的な霊感体験談からズレていて興味深いのです。 長い髪の女や不思議な子どもな…