白い顔の女

公開日: 怖い話

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大学時代の友人、藤本の話をします。藤本は入学当初から賑やかで遊び好きな男でした。

その藤本が2年の春から大学の近くにアパートを借りて、一人暮しを始める事になったのです。

晴れて一人暮しを始めて半月程は、うるさく意見する保護者がいなくなったことからか、藤本は連日コンパだなんだと遊び回っていました。

ところがです。

一人暮しを始めて、1ヶ月程過ぎたころから、急に藤本は付き合いが悪くなったのです。

大学に来ても、授業が終わると友人達の誘いを断り、そそくさと帰ってしまうのです。

性格までも変わってしまい、以前は賑やかに騒ぎまくっていたあの藤本が、妙にぼんやりとして、人に話し掛けられても上の空といった様子なのです。

藤本のあまりの変化が気になった僕は、何かあったのか訊いてみました。

すると、藤本は初めのうちは言い渋っていたのですが、やがて照れくさそうな笑みを浮かべて「実は彼女ができて、今一緒に暮らしているんだ」と打ち明けました。

それを聞いた僕は、驚き半分、やっかみ半分で、彼女の事を色々聞き出そうとしましたが、藤本はなかなか答えようとしません。

結局、僕が聞き出す事ができたのは、「彼女が凄い寂しがり屋なので、一人で部屋に置いておけない。だから滅多に出掛けなくなったのだ」という事ぐらいでした。

僕が「だったら彼女と一緒に出かければいいじゃないか」と言うと、藤本は「彼女は身体が弱いから、外に出るのは大変なんだ」と答えるのです。

僕はどこか納得いかないものを感じました。

そんな身体の弱い女と、あの遊び好きで活発だった藤本が一体何処で知り合ったのか…?

そして、彼女は部屋から一歩も出ずに、どうやって生活しているのか…?

確かに気になりましたが、そんな事を軽々しく聞く訳にもいかず、取り敢えず藤本自身が満足しているのなら、僕に口出しする筋合いはありません。

それ以上は何も聞かずに、その日は藤本と別れました。

その翌日から藤本はぷつりと大学に来なくなってしまいました。

藤本が顔を見せなくなって十日程過ぎた頃、さすがにおかしいと思った僕は、藤本の部屋に電話をかけてみましたが、料金を滞納して回線を切られているらしいのです。

心配になった僕は藤本のアパートに行ってみることにしました。途中、僕以外に藤本と親しかった友人にも声をかけましたが、都合が合わず結局僕1人で行く事になりました。

藤本の住んでいるアパートは何処にでもあるような平凡な建物でした。僕は藤本の部屋を見つけるとチャイムを押しましたが、何の反応もありません。

留守かと思い引き返そうとすると、中から物音が聞こえたような気がしたので、念の為ドアに耳をあてて様子を窺うと、中からぼそぼそと話し声が聞こえてきます。

僕はもう一度チャイムを押し、何度も押し続けた末、ドアが開き、そのほんの僅かな隙間から藤本が顔を覗かせました。

「藤本!おまえどうしたんだよ!?」

「…なんだ、中山か」

そう言って藤本はドアを大きく開きました。

その顔を見て僕はギョっとしました。藤本は酷く顔色が悪くどんよりとした目は充血し、無精髭だらけの頬はこけて、げっそりとしており、まるで別人のようになっていたのです。

僕が驚きに言葉を失っていると、藤本は

「…まあ、入れよ。せっかくだから彼女にも会っていってくれよ」

と言い、ドアを開けたまま、僕にはお構いなしに中へ入ってしまいました。

僕は慌てて靴を脱ぎ、後を追いかけました。

狭い玄関を入ると、すぐにキッチン兼用の短い廊下になっていて、その向こうには部屋に通じるらしいドアが見えました。

藤本はそのドアを開けると、部屋の方へ向かって「友達が来たんだよ」と声をかけて中へ行きます。僕もその後に続きました。

「突然ですいません。お邪魔します」

と部屋にいるはずの彼女にそう挨拶しながら部屋に足を踏み入れた僕は、部屋の中を見て呆気に取られてしまいました。

そこには女の姿など影も形もなく、六畳程の部屋には家具と呼べるようなものは殆ど無く、代わりにコンビニやファーストフードの袋やカップ麺の開き容器などが散乱しています。

そして奇妙なことに、部屋の真ん中に縦横の幅が1メートルはあろうかという大きな水槽が一つ、頑丈そうなスチール台に置かれていました。

水槽にはなみなみと水が湛えられ、その中にはバレーボール程の大きさの黒い藻の塊のようなものがゆらゆらと浮いていました。

「こついが俺の友達の中山だよ。ほら、前に話した事あっただろ」

僕の横に立っていた藤本は、誰もいない空間に向かってそう言いました。

「…お、おい、しっかりしろよ! 誰もいないじゃないか!」

「…誰もいないって…? 馬鹿な事言うなよ。彼女に失礼だろ」

藤本のその言葉に答えるように水槽の中の黒い藻がユラっとうごめきました。

そして藻の塊はゆるゆると程けるように水中に広がってゆき、その中央に何か白いものが見えました。

じっと目を凝らした僕はそれが何かを理解した途端、悲鳴を上げました。

それは目を閉じた白い顔の女だったのです。

巨大の水槽の中に水に揺らめく黒髪に縁取られた女の生首が浮いていたのです。

僕が黒い藻だと思っていたものは女の髪でした。

水中に浮かんだ首だけの女は、僕の目の前で閉じていた瞼をぱっちりと開きました。

そして女は僕を見ると、色の無い唇をゆがめてニタリと笑ったのです。

次の瞬間、僕は一目散に部屋を飛び出していました。

それっきり藤本には会っていません。

あの後、藤本は失踪してしまい、実家の家族が捜索願いを出したという事で、大学に警察が来て色々と調べていたようでしたが、結局藤本の消息は掴めなかったとの事です。

失踪後、藤本の部屋には、巨大な空の水槽が残されていたと聞きました。

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