戻って来たお手伝いさん

051122_07

おばあちゃんに聞いた、ささやかな話。

母と二時間ドラマを見ていて、「お手伝いさんの名前って大抵○○やねえ」と言ったら、

母が「そういやママが子供のころにいたお手伝いさんの一人も○○ちゃんやったわあ」と言う。

「お手伝いさんなんていたの!?」

つい今の時代と照らし合わせて驚いてしまった。

大金持ちという訳では無いけど、戦前から田舎町の名士という感じの祖父母の家は大きく、お手伝いさんがいても不思議ではないことなのかもしれません。

後日、祖母の家に行った時にその事を聞いてみました。

「昔はこの家に○○さんって、お手伝いさんおったんやってねえ」

「ああ、○○ちゃんって子がおってなあ…」

その○○ちゃんというお手伝いさんは、田舎村から奉公に来ていた、まだ17歳の少女だったらしい。

曾祖父母、祖父母も○○ちゃんを可愛がり、母や弟二人も懐いていて、特によく買い物に行く商店のおばさんが彼女を可愛がっていたそうです。

彼女は祖母がお誕生日にプレゼントしてあげたコートが大好きで、どこに行くにも着て行き、商店のおばさんに褒めてもらったら、「奥様に買ってもらったの」と嬉しそうに言っていたそうです。

しかし数年後、○○ちゃんは結核にかかってしまい、田舎に帰らざるを得なくなりました。

「帰りたくない」と泣いていたそうですが、そういう訳にもいかず、祖母も「実家でゆっくり静養して、治ったらまた雇ってあげるから戻っておいで」と言い、迎えに来ていたご両親に預けました。

数ヵ月後、商店のおばちゃんが祖母に言いました。

「○○ちゃん、帰ってきたんやねえ!でも先日声かけたら無視されてん。どうしたんやろ?」

でも、○○ちゃんは帰って来ていません。

「よく似た子やないかしら?」

「でも、あんたに買ってもらったていうコート着てたよ?」

「それなら間違いないわねえ? じゃあ近くに来てたんかしら?」

数週間後、○○ちゃんの母親から、○○ちゃんが死亡した旨の手紙が届いたそうです。

商店街のおばさんが○○ちゃんを見た日に亡くなっていたようです。

祖母は「この町に戻ってきたかったんやねえ…」と呟いていました。

関連記事

老夫婦(フリー写真)

祖父母の夢

盆に母屋の死んだじいちゃんの夢を見た。 母に言ったら、 「じいちゃん帰って来たんだね」 と言われた。 ※ それから10年。 10年も経ってから、 「実…

すたか駅

消えた駅『すたか』と提灯の山

それは、ある晩のことだった。 京都駅からJR線に乗り、長岡京へ向かっていた私は、仕事疲れもあってか、ついウトウトと居眠りしてしまった。 気づいたときには、電車はすでに見知…

松葉杖

九十九神

皆さんは、九十九神というものをご存知でしょうか? 長い間使用されている物に宿るとされる妖怪のような存在です。 私は詳しいことは知りませんが、特注の松葉杖には、この九十九神…

竹藪(フリー写真)

佐々間のおばちゃん

子供の頃は両親が共働きだったので、うちには幼い俺の世話をする『佐々間のおばちゃん』という人が居た。 おばちゃんはちょっと頭が良くなかったせいか仕事は持たず、自分ちの畑とうちのお手…

海の朝日

バイクの若者

母の同僚のおじさんが釣りに行った時のこと。 朝早く車で出掛けて行き、朝日が昇るまで車の中で焼酎を飲んで暖まっていた。 いつもは待機用の小屋のような所で過ごすのだけど、その…

世にも珍しいポジティブな神隠し

日本のみならず世界の各所で起きる「神隠し」。 超自然的なものから人為的なものまで様々なものがあるが、基本的にネガティブなものである。 しかし、とある地方では世にも珍しいポジ…

駅のホーム(フリー写真)

同い年の父

今まで誰に言っても信じてもらえなかった話だけど、俺は同い年(当時27歳)の親父と話をしたことがある。 親父は俺が4歳の時に死んだのだが…。 俺が東京から実家に帰る途中の田…

自転車置き場(フリー写真)

幽霊を持って帰る

私の叔母が、大型ショッピングモールで清掃のパートをしていた時の話。 オープン当時から一年ほど経ってはいたものの、建物も設備もまだまだ綺麗で、田舎の割に繁盛していた。 しかし…

狐さん(フリー写真)

小さなかぎ裂き

戦後暫く経った頃、地方のある農村での話。 村で一番の旧家の跡取り息子が失踪した。 山狩りをしても、池を浚っても見つからない。 お金か女性がらみのトラブルかと思い、人…

お婆さんの手(フリー写真)

差し出された手

これはある寝苦しい晩に体験した出来事です。 その日、猛暑と仕事で疲れていた私は、いつもより早目の21時頃に、子供と一緒に就寝することにしました。 疲れていたのですぐ寝入るこ…