いつもの男性

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

Love-hate-art-print

オカルトではないかもしれませんが実体験話を一つ。

数年前に大学を卒業して某証券会社に就職しまして、福岡に赴任していた時の話です。

会社の借り上げのマンションが市の中心部にあって、そこを寮扱いで借りて、毎日会社まで歩いて通勤していました。

殆ど新築に近い15階建ての10階に住んでいました。

仕事は毎日忙しく、帰宅は夜の21時頃になってました。

各フロアに8部屋あって、私が住んでいたのはその10階の108号。

一番奥の部屋で、エレベーターを降りたら薄暗い照明を頼りに暗い渡り廊下を渡って帰る毎日でした。

福岡の地元の方と言うのはなかなか地元意識が強く結束も固く、言い換えればよそ者には馴染みにくい土地だったように思います。

だから友達は福岡の方よりも同じ東京からや、別の地方から来てる方が多かったことを覚えてます。

ある日、同郷である東京出身の友達から、矢張り東京から転勤で来ている友達Aさんを紹介されました。

彼女は当時32歳だったでしょうか。某有名化粧品店の新規店舗立上げの責任者として短期赴任されていた、儚い感じのロングヘアーで長身の美人でした。

私は彼女に気に入って貰えたのか、2人でよく飲み歩いていました。

そんなAさんとの飲み会で帰りが遅くなったある日、彼女と別れマンションへ。

夜中の0時頃エレベーターで10階に着くと、薄暗い通路の先、丁度真ん中の104号室のドアの前で、ドアを背にし手すりに肘を付いてタバコを吸ってる中年男性がいらっしゃいました。

ほろ酔いの私は怪しむこともせず、「こんばんわ~」と言って会釈しました。

ベランダには洗濯物を干す方も多いため、通路でタバコを吸う人は珍しくなく、その方もそんな一人だと思ったからでしょう。

いきなり酔っ払い娘に挨拶された男性は面食らったようで、それでも薄くなってそうな頭を丁寧に下げ、「こんばんは」と挨拶を返されました。

その日からその男性を何度も見るようになりました。

と言っても矢張り夜間に通路でタバコを吸っている男性と挨拶をするだけの仲でしたが。

次第に打ち解け、「こんばんわ~」と挨拶すると「こんばんは。今日も遅かったね」などと言い合う軽い交流が始まりました。

余所者であり、多忙で家に居ないことも多いせいか、近所付合いも殆どない私は挨拶出来るご近所さんが出来たことを少なからず喜んだことを憶えています。

それから暫くして、やはりAさんと飲みに行ったとある土曜日、Aさんが家に遊びに来ることになりました。

「Nちゃん(私です)ちって近いのね。私これからちょくちょく遊びに来るわ。酒持って」なんて話しながらエレベーターを降りると、やはりいつもの男性がタバコを吸ってました。

酔っ払っていた私はいつもの調子で「こんばんわ~。吸いすぎは体に毒ですよ~」と挨拶。

男性も「何言いようとって。飲みすぎだってよくないよ」なんて軽口を言い合い部屋へ戻りました。

その間Aさんは終始無言でした。

部屋へ入るとAさんは、「Nちゃん、1週間くらいうちを空ける準備出来る? 今すぐ。私んちに少しの間引越ししよう!」と言い出しました。

理由を聞いても教えてくれませんし、突然の理不尽な要求に「???」状態の私でしたが、彼女の気迫に根負け…。

1週間分の下着と化粧品、その他身の回りの物とスーツ2着とパソコンを掴んでバッグに詰め込み、Aさんのお宅へやっかいになることにしました。

バッグはAさんの持ち物であるかのようにAさんが持ち、私はちょっとタクシー捕まるまで送るよ的な体で彼女の後に続きました。

ドアを開けると男性はおらず、Aさんと二人でタクシーに乗り込み、Aさんちへ向かいました。

翌日曜日の昼に追加で仕事着を取りに戻り、それからAさんちの家で共同生活が始まりました。

それから暫くAさん家の広い1LDKへ行き帰り。

そしてその週の水曜日、会社へ行くと課長が青い顔で「N君!君大丈夫だったか!!!今不動産屋から連絡があったんだけど!!!」と凄い剣幕で詰め寄られました。

鷲づかみにされていた新聞を見せられると、私のマンションで起こったストーカー殺人がトップ記事になっていました。

後から聞いた事も含めますと、とある離婚された夫婦がおりまして、別れた旦那が捨てた奥さんをストーキングしていたと。

そして水商売の元奥さんを毎晩待ちわびて、とある日に遭遇。口論の末に持っていた包丁で数十箇所メッタ刺しにして殺したのだと。

新聞に犯人として乗っていた顔写真は、私が毎日暗い通路で挨拶するあの男性のものでした。

その男性は毎晩奥さんを待っていたそうです。最終的には殺す目的で包丁まで準備して。

私はそんな男性に近所のよしみを抱き、毎晩のように挨拶していたことに気付きました。

私はそこで腰が抜け、へたり込んでAさんに電話。

Aさんは電話越しに優しい口調で「もう大丈夫だから。これで大丈夫だから」と言われました。

男性は元奥さんをメッタ刺しにした後、通報を受けて追ってきた警官隊を前に、私の家の108号室の前まで逃げ、ドアをガチャガチャやっていたそうです。

その日のうちに総務のケチ親父に掛け合いマンションを変えてもらうように頼みました。

警察での事情聴取を受け、Aさんの家に帰宅。

Aさんと缶ビールを傾けながら色々な話を聞きました。

曰く、所謂見える体質ではないそうですが、直感に近い感じで人の運命や未来がたまに見えたりするそうです。

そしてAさんは無事新規店舗も軌道に乗り、Aさんの帰京が決まったことも聞きました。

「えーん寂しー」ってなってると、Aさんは私の肩を抱き寄せ口吻しました。

「忘れられなくなりそうだからプラトニックのままの方がいいよね」と一言。

そう、Aさんはビアンだったのです…。

そんなAさんが1週間も私を凄い勢いで説得して監禁して、ナニするつもりだったの!と考えると今でもほんのり怖いお話でした…。

関連記事

田所君

小学生のころ同級生だった田所君(仮名)の話。 田所君とは、小学5年から6年の夏休み明けまで同じクラスだった。田所君は、かなり勉強の出来るやつだった。 学校の図書館を「根城」…

ビー玉(フリー写真)

A子ちゃんの夢

ちょっと辻褄の合わない不思議な経験で、自分でも偶然なのか思い込みなのか、本当にそうだったのか自信がないのですが。 子供の頃、大人になっても憶えているような印象的な夢を見た事があり…

鳥居(フリー素材)

お狐様

これは私が、いや正確には母が半年前から9月の終わり頃までに経験した話です。 今年の7月某日、諸々の事情で私は結婚を前に実家へ一度帰省するため、アパートから引越しすることになりまし…

夜の山(フリー写真)

山でしてはいけないこと

学生時代に京都の愛宕山方面でキャンプをした時の話をします。 夏の終わり頃に仲の良い友人二人と、二泊三日のキャンプへ行きました。 人里離れた山奥、地主の許可なしでは入れない…

林

山の女の子

昔、私が小学3年生のとき、毎年夏になると両親は私を祖母の家に連れて行っていました。その町は都心から離れたベッドタウンで、まだ発展途上の田舎でした。周囲は広い田んぼや畑、雑木林が広がっ…

丹沢湖の女

去年の夏に職場の仲間4人と丹沢湖へ行った。 車で行き、貸しキャンプ場をベースにして釣りとハイク程度の山歩きが目的。 奇妙な体験をしたのは3泊4日の3日目だったはず。 …

食卓(フリー写真)

一つ足りない

何年か前に両親が仕事の関係で出張に行っていて、叔父さんの家に預けられた事がある。 叔母さんと中学3年生の従兄弟も歓迎してくれたし、家も広くて一緒にゲームしたりと楽しく過ごしてい…

高速      

真実と幻

数年前の夏、高速道路交通警察隊に勤める友人が体験した不可解な事件についての話です。 ある日、友人は別部署の課長から突然の呼び出しを受けました。理由は、一週間前に起きた東北自動車…

枕(フリー写真)

ひとりおしゃべり

「ひとりおしゃべり」というものをご存知でしょうか。 降霊術の一つだそうで、椅子を二つ用意して片方に座り、もう一つの空いた椅子に向かっておしゃべりを続けると霊が出るというものです…

雪(フリー写真)

片道の足跡

北海道は札幌に有名な心霊スポットの滝がある。 夏場などは、夜中なのに必ずと言って良いほど駐車場に車が数台停めてあって、若い声がきゃーきゃー言っているような有名な場所。 ※ 当…