売り切れの自動販売機
ある夏の深夜、友人と二人でドライブをした。
いつもの海沿いの国道を流していると、新しく出来たバイパスを発見。
それは山道で、新しく建設される造成地へと続くらしかった。
ちょっと行ってみるかということになり、30分ほど運転したが、どうやら迷ったらしい。
引き返そうにも、途中から林道に入り込んでしまい、どこで分岐したのか分からない。
また深夜ということもあり、周囲は真っ暗。
それでも何とか舗装道路に出られた。
幸い照明灯もあり、カーブになった場所に車を停め、地図を見ることにした。
友人が地図を見ている間、俺は缶コーヒーを買おうと思った。
※
後から考えると、非常に不思議なことだった。
車も通らず人家も無いような場所に、その自動販売機はぽつんとあったのだ。
道路灯があるくらいだから、電気は来ているのだろう。
その時はそれぐらいにしか考えなかった。
※
自動販売機は使用されているものだったが、殆どが売り切れだった。
コーヒーのボタンを押すと、赤いランプが点灯する。
喉が渇いていたので、とにかく販売中のボタンを押して行った。
押す度に売り切れの表示。その間、2、3分くらいだろうか。
最後のボタンを押した後、車に居る友人に声をかけた。
車まで 20メートル程の距離なのだが、姿が見えなかった。
急いで車に戻ると、車内はもぬけの殻だった。
辺りを見回して大声で叫ぶが、自分の声だけが響き渡った。
見当もつかず、車で待つことにした。
不安だったのでカーラジオを点けたのだが、電波状態が悪く受信しない。
カーステレオのカセットはスイッチが入らない。
そのうちラジオのノイズが急に大きくなった。
あっという間に耳が痛くなり、手で塞いでも音が頭に響いて来る。
もう限界だ。脳がノイズをシャットダウンするかのように、俺は気を失った。
※
明け方、友人の声で目が覚めた。
何が起こったのか解らなかったが、友人もかなり混乱していた。
少し落ち着いて、お互いに何が起こったのか話した。
友人は、俺が自動販売機の前で苛つくのを見ていたそうだ。
そして俺が最後のボタンを押した時、信じられない光景を目撃したらしい。
俺の姿がパッと消えたそうだ。
驚いて車から出ようとしたらドアロックが掛かり、やがてラジオが鳴り出した。
あの耳をつんざくような不快な音にやられ、あっという間に失神したらしい。
※
「それより、ここ、どこだよ」
俺たちは山の中の空き地らしき場所に居た。
もう道路は無かった。幅一車線もない獣道を辿って、ようやく車道に出た。
二人とも殆ど喋らなかった。
「どうやら、俺達は 50キロも離れた場所に居たみたいだな」
友人は道路標識を見ながらそう言った。
「この峠は心霊スポットらしいな。タクシーの運転手から聞いたことがある」
俺は呆然とした。
友人は今だにあの自動販売機を探しています。