喋る絵皿
小さい頃、祖父が友人宅から鷹の絵の描かれた大きな絵皿を貰ってきた。
それは今でも和室に飾ってあって、特に怪奇現象を起こしたりはしていない。
祖父の友人は骨董商だった。
その皿も店の品物でかなりの逸品らしいが、売れてもじきに返品される謎の皿だったらしい。
しかし当の骨董商が亡くなったとかで、親友である祖父が形見分けとして引き取ったそうだ。
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皿が家に来た当時、幼かった私はその絵皿がえらく気に入っていた。
触ると祖父に怒られるので、祖父の外出中を狙って、皿を床に伏せて爪で弾いていた。
そうすると皿から若い男の人の声がした。
「痛い、叩くな」
「やめなさい」
「物なんだから大切に扱え」
こういう内容が殆どだったけど、反応があるのが面白くて弾きまくった。
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皿は偶に「ここだけの話だからな」と言って他人の秘密を教えてくれた。
若い頃の祖父が美女に交際を申し込むために馬鹿みたいなパフォーマンスをしたこと。
その馬鹿男を祖母が殴って叱ったのが二人の馴れ初めであること。
隣の奥さんが不倫亭主を見限るまでの経緯。
他にも、普通なら知り得ない他家の事情を色々聞かされた。
惚れた腫れたが多かったが、偶に私が沈んでいると励まされたりもした。
皿から聞いた話を祖父母に言うとやけに焦った反応が返ってきたから、あながち嘘ではなかったのだと思う。
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小学校に上がって友達と遊ぶようになり、私は皿のことを忘れていった。
ついこの前までは皿が喋るなんて子供の妄想かと思っていたが、先日和室を掃除しに行ったら、うちの娘がかつての私と同じように皿で遊んでいた。
「パパがね、わたしが生まれたときから×田●子さんていう女の子とフテーを働いてるんだって!
お婿のくせに生意気だってお皿が言ってたよ。ママがいるのに許せないんだって。
ねえ、フテーって何?」
不貞というのはつまり浮気のことだ、なんてまさか教えたりはしなかったが、後日夫が「職場の飲み会」に出かけた後、忘れて行った仕事用の携帯に「専務」からの着信が。
「●子だよぉ☆今いつものホテルで待ってるから早く来てね」
あの皿は今も変わらずゴシップが好きらしい。
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取り敢えず昔と同じように床に伏せて、娘に昼ドラまがいの話を吹き込むなと釘を差しておいたが、もう昔のように皿の声は聞こえなかった。
娘が私の若い頃のことについてやけに詳しいのは、やはり皿の仕業なんだろうか。
部屋でヒゲダンスするのが趣味だったなんて、恥ずかしくて誰にも言っていないのに何で知ってるんだ。
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後日談
夫の身にあらゆる事故が降りかかりまくっているようです。
浮気について問い質した時に逆上した夫に殴られたら、私が子供の頃から使っていたご飯茶碗が棚から飛んできて夫にメガンテ。
これにびびって全部吐いてくれました。『この程度のことで?』と思ったけど、本人曰く浮気相手と会う度に、夫の使う食器が手の中で突然割れて怖いんですと(笑)。
懲りもせずすぐにまた浮気しやがって。しかも今度は不倫相手と婚約までしていたけど、相手の実家に婚約の挨拶に行ったら、先方の家宝の壷が凄い勢いで背中にヒット→ムチウチ。
ビールジョッキが頭に落ちてきて病院搬送されたこともあったけど、それも不倫相手と密会中の事故。
どんどん規模が大きくなっているので、今では食器が怖くて不倫できない模様です。