サカブ

公開日: 不思議な体験

神秘的な山(フリー写真)

秋田のマタギたちの間に伝わる話に『サカブ』というのがある。

サカブとは要するに『叫ぶ』の方言であるが、マタギたちが言う『サカブ』とは、山の神の呼び声を指すという。

山の神は時たま、その神力を持ってマタギたちに『サカブ』ことがあるという。

秋田県は北秋田市に住む山田岩蔵という老マタギの表現によると、山の神の声は「細く堅い声で、遠い遠い処で響く鉦の音に」似るという。

岩蔵マタギは人生で二回、この山の神の声を聞いたそうで、頭を強打して気が遠くなった時のような、耳鳴りのような、どちらかと言えば振動、あるいはテレパシーのようなものであったそうである。

山の神の『サカブ』はだいたい吉祥であり、しかも集団で狩りをしていても全員には聞こえず、その狩猟組の頭領(スカリ)か、もしくは一、二を争って腕の立つ者にしか聞こえない。

東方より聞こえる『サカブ』が最も良く、その方向に進むと必ず獲物を授かったという。

ある時、大平山奥地のイグス森という場所で、あるマタギがこの『サカブ』を聞いたという。

それから『サカブ』の示した方角に二里余り進むと、果たしてそこには今までに見たことがないような巨熊が居り、捕らえてみると七尺五寸を超える、ツキノワグマとしては規格外の大物であったという。

また不思議なことに、この『サカブ』はマタギだけでなく、留守を待つ村の者たちにも時折聞こえる。

そんな時は必ず猟の成果があった報せであるので、いち早くマタギ衆を迎える準備をするという。

山峡の人々に聞こえる不思議な神の声の話。

関連記事

赤い橋

赤い橋

俺が高校生だった頃の話。 両親が旅行に出かけて、俺は一人でお婆ちゃんの所に行ったんだ。 婆ちゃんはよく近所の孤児院でボランティアをしていて、俺もよく介護のボランティアをして…

夕焼け

前世の記憶を持つ少年

不思議な話が伝えられています。それは前世についての知識もないはずの幼い子供が、突如として自らの前世の話を始め、親を驚かせたというものです。 現在、アメリカ合衆国オハイオ州で、一…

癒しの手

不思議なおっさん

自分が小学生の頃、近所で割と有名なおっさんがいた。 いつもぶつぶつ何か呟きながら町を徘徊していた人だった。 両親も含めて、奇妙な人だから近寄らない方が良いと誰もが言っていた…

蝋燭

キャッシャ

俺の実家の小さな村では、女が死んだ時、お葬式の晩に村の男を10人集め、酒盛りをしながらろうそくや線香を絶やさず燃やし続けるという風習がある。 ろうそくには決まった形があり、仏像を…

部屋

歪む空間

はじめにお断りします。 この話には、「幽霊」やいわゆる「恐ろしい人間」は登場しません。 しかし、私自身、いまだにこの出来事が何だったのか理解できないのです。 もし、…

鏡の中のナナちゃん

私は幼い頃、一人でいる事の多い子供でした。 実家は田舎の古い家で、周りには歳の近い子供は誰もいませんでした。 弟が一人いたのですが、まだ小さくかったので一緒に遊ぶという感じ…

迷い道

昔、某電機機器メーカーの工場で派遣社員として働いていた時の話。 三交代で働いていて、後一ヶ月で契約が切れる予定で、その週は準夜勤(17:00~0:30)でした。 当時は運転…

砂場(フリー写真)

サヨちゃん

俺は小学校に入るまで広島の田舎の方に住んでいた。 その時に知り合った『サヨちゃん』の話をしよう。 ※ 俺の母方の実家は見渡す限り畑ばかりのド田舎で、幼稚園も保育園も無い。 …

イタチの仕業

祖母の葬式の晩の事。 田舎の古い屋敷で壁3面ガラス張りの小さな和室に1人だった。長い廊下の突き当たりの座敷には祖母が安置されていた。 裏の山には江戸時代からの一族の墓が並び、近くの公園…

病気がちの少女(宮大工5)

年号が変わる前年の晩秋。 とある街中の神社の建て替えの仕事が入った。 そこは、幼稚園を経営している神社で、立替中には園児に充分注意する必要がある。 また、公園も併設し…