二人だけの水族館

ae25fc77

俺はじいちゃんが大好きだった。

初孫だったこともあって、じいちゃんも凄く俺を大事にしてくれた。

俺はあまりおねだりが得意な方じゃなかったけど、色々な物を買ってくれた。

また、虫採りや泳ぎを教えてくれたり、デパート、遊園地…本当に色々な場所に連れて行ってくれた。

近くに大きな運動公園が出来るという時、俺と来るのが楽しみで仕方がないのか、まだ建設中のサラ地に連れて行ってくれるほど可愛がってくれた。

でも、その運動公園が完成しても、じいちゃんが連れて行ってくれることはなかった。

俺が小学4年生のある夏、突然死んでしまった。

完璧主義で我慢しいだったから、身体が良くないことをみんなに隠していたみたい。

遂に倒れてしまった時は、もう手遅れだった。

格好良くて何でも出来て、世界一のじいちゃんが死ぬ訳ないと思っていたから、葬式の時も実感がなく、寺までの道を一人で迷ったりしてへらへら笑っていた。

でも、家に帰って一人になってから、突然糸が切れた様に大泣きしちゃったんだけどね。

そんなこんなで、じいちゃんのいない日々をぼんやりと過ごしていた俺。

色々やることがあって自分だけでいっぱいいっぱい…だけど急に思い出すんだよね…じいちゃんのこと。

ある日、お盆だからじいちゃんの話を家族とした時かな。

じいちゃんを思い出して、葬式の日以来の大泣きをした。

剣道を始めたこと、絵のコンクールで入賞したこと、中学、高校無事に進学したこと…全部全部、じいちゃんに報告したかった。じいちゃんに喜んで欲しかった。

それが悔しくて悲しくて、泣いた。

そしたらさ…泣き疲れて眠って見た夢。

俺は夢を見る時って、大体行ったことのある景色が中心なんだけど、何か覚えのない、美術館のような白い空間にいた。

ぼーっと突っ立っている俺。すると遠くから人が歩いて来た。

…逢いに来てくれたんだ、じいちゃんが、俺に。

思い出の夢とか、じいちゃんが生きていたら…という夢ならよく見ていた。

みんなもそんな経験多いだろうけど。まあ、それが夢だもんな。

でもさ、違うんだ、その時は。

確かに夢なんだけど、俺はじいちゃんが死んでしまったと解っている。そのことで大泣きして寝たことも覚えている。

じいちゃんも自分が死んでいることを自覚している。

本当に夢の中にじいちゃんが逢いに来てくれてんだよ。

…まあ、そのことについて確信を持ったのは、もっともっと後のことなんだけどさ。

「○○(俺の名前)!」

厳格なじいちゃんが俺の前でだけ見せてくれる笑顔で俺を呼んだ。

涙が出そうだったけど、ぐっと我慢して駆け寄ったよ。

「元気か?」

「うん」

とか、本当他愛も無い会話を交わしてさ、その空間を二人で歩いていた。手を繋いでいたような覚えがあるな。

そしたら、いつの間にか水族館のような場所に着いたんだ。

よくあるだろ? ガラスのトンネルになっているやつ。あれ。そこに二人で入って行ったんだ。

俺は嬉しくて、きょろきょろ辺りを見回していた。それをじいちゃんも嬉しそうに見ていてくれていた。

それからも本当に夢中になって、何かを見つけたのか、ふとじいちゃんの方を振り返った。

そしたらじいちゃん、もういなかった。

必死で探した。もう大泣きだよ。だけど時間切れ。

覚める…と言うより、別の空間から戻されたような感覚がして目を開けた。

もちろん、涙がぽろぽろ溢れてきた。

その時は、不思議な夢だったな程度に思っていた。

さっきも言ったけど、逢いに来たんだと確信したのはもっと後。

というのは、次の年の盆、またあの空間に俺は居たんだ。

そこで初めて俺は、「ああ、これはじいちゃんが夢を使って俺に逢いに来てくれてるんだな」と実感したんだ。

今度は、二人でその白い空間をずっと歩いているだけだった。

離れないようにぎゅっと手を握って、視線もじいちゃんから外さなかった。

またいつの間にかいなくなっちゃったら嫌だからね。

でもな、やはり時間切れは来た。戻される感覚が近くなってくる。

俺はじいちゃんと固く握手して、「また逢いに来てね」と精一杯笑った。

じいちゃんが何を言ったか分からなかったけど、頷いてくれていたと思う。

記憶が曖昧なのは、刹那、眩しくて目を閉じてしまったから。

目を開けると、じいちゃんはいなかった。

俺は自分から現実の世界に戻った。

それからもじいちゃんは、盆になったら俺に逢いに来てくれる。

いや、結局思い込みじゃないかと言われるかもしれないが…本当に違うんだよ、あれは。

じいちゃんは母方の祖父なんだけど、母方の親戚には霊感があるという人が多いんだ。

そんなばあちゃんとおじちゃん(長男)も、盆に必ずじいちゃんに逢っているんだと。

夜に目を開けたらじいちゃんが立っていて、毎回何か一言言って消えるらしい。

とまあ、こういう話もあって、我が家ではみんな信じているんだな。

ちなみに、なぜ最初に水族館へ行ったのか、後から謎が解けた。

じいちゃんが死んでからだけど、親戚が住んでいる大阪に大きな水族館が出来てさ。

じいちゃんと行きたかったなと思っていたんだよね。

それをじいちゃんが叶えてくれようとしたんじゃないかな。

俺は実際そこへ行ったのに、夢では全然違う水族館だったから、多分じいちゃんが俺のために用意してくれた、俺達だけの水族館だったんだろう。

もっとよく見ておけば良かったなんて思っている。

背無し

会社からの帰路の途中、ある大学の前を通る。そこは見晴らしの良いただの直線だが、何故か事故が多いことで有名だった。その道をあまり使わない人には分からないだろうが、毎日車で…

疑問符

ラッキーコール

私は工務店に勤めておりまして、3年程前にある幼稚園までバスの車庫を修理に行った時の事です。その幼稚園はお寺が経営していまして、車庫は園舎を横に抜けた本堂裏の広場にありました。 …

北アルプス(フリー写真)

呼ぶ声

先日、私と登山仲間の先輩とが、北アルプス穂高連峰での山行中に経験した話です。その日は、穂高連峰の北に位置する槍ヶ岳から稜線を伝って奥穂高岳へ抜ける縦走ルートを計画していました。…

手を握る(フリー写真)

沢山の手

私がまだ看護短大に通っていた頃の話です。看護学生って、看護助手として夜勤のアルバイトをする場合があるのね。私は家庭の事情から親に仕送りをしてもらえる状況ではなく、学費は…

スマートフォンを持つ手(フリー素材)

亡くなった人からの電話

亡くなった人からの電話というのは本当にあるのかな。 ※ 自分の中学生になる息子が、夏休みに自転車で四国一周をすると言い出した。それで携帯を持たせて毎日連絡するように伝え、行…

文房具(フリー写真)

クラス替えアンケート

子供の頃に奇妙な体験をした方は多いと思う。俺にもずっと気になっていることがある。毎年3月が近くなると『クラス替えアンケート』のことを思い出すのだけど、俺以外にもこれと似たような…

デジタル(フリー素材)

Aの理論

何年か前、友人二人と夜中にドライブをした時の話。友人Aはガチガチの理系で、「物を見ると言うことは、つまりそこに光を反射する何らかの物体が存在する訳で、人の目の構造上、特…

田畑(フリー写真)

尻切れ馬

これは大学生の頃、年末に帰省した時の体験談です。私の地元はそこそこの田舎で、駅付近こそビルが多く立ち並んでおりますが、少し離れると田畑が多く広がっています。私の実家も田…

材木(フリー写真)

合いの手

俺の親父が若い時分に、山から材木を切り出す仕事をしていた頃の話。飯場と呼ばれる山の中の宿舎で、他の作業員と寝起きを共にする仕事だったそうだ。その中に民謡のとても上手い…

田舎の風景(フリー写真)

指切り地蔵様

俺の実家の近所に『指切り地蔵様』と呼ばれている地蔵がある。指の部分がちょうど指切りできるように変に曲がっているから『指切り地蔵様』。小さな頃、その地蔵様と指切りをした…