入れ替わった友人

friend_donald-baliwatercolour

怖くないけど、不思議な小ネタ。若しくは俺が病気なだけ。

俺は今仕事の都合で台湾に住んでる。宿代もかからず日本からも近いから、たまに友達が台湾に遊びに来る。そういう時の話。

今年の2月の初めの週に渡部(仮名)が遊びに来た。その前の週からメールで連絡を取り合い、日本を出る前日に確認で電話もした。

奴は金曜日の午後7時に台北に着くフライトで来た。退社後迎えに行き、その日は食事してクラブで飲んで、まあ所謂海外赴任者の週末の典型を一緒に過ごしたわけだ。

初めての海外ということもあり、奴は大人のくせにはしゃいじゃってすごく楽しかった。奴は高校からの付き合いで、たった一人の親友だから久々に会えてホントに楽しかった。

初日は時間の関係で夜の遊びしかいなかったので二日目は市内の観光をした。俺はこっちに彼女がいて、その日は3人で観光した。一日中台北やその近郊を周った。

不思議な話が起こるのは3日目、奴が日本に帰る日曜日に起こった。

俺と彼女は奴を飛行場まで送った。チェック・インも済まし飛行場のレストランで3人で話してた時だった。

ふと俺は渡部の手の甲にタトゥーがあるのに気付いた。

俺は去年の7月から台湾に赴任になったのだが、その前はそんなタトゥーはなかった。

奴は今でも新宿新都心の某ホテルのレストランで働いているので、そんなところにタトゥーを入れるとは考えられない。

ところで、俺は学生の頃にアジア旅行にハマってて、その頃にインドで知り合った友達で全身にタトゥーを入れてる奴がいた。

藤木(仮名)と言うのだけど、そいつは世界を何周もしてるような奴で、話題も多く楽しい奴だから日本に帰ってきたりすると飲んでた。

俺は渡部の手の甲のタトゥーに見覚えがあった。藤木のタトゥーと同じだった。酒飲む時って相手の手の動きをよく見る癖があるから憶えていた。

それで、顔を上げて渡部も顔を見たら、何故か藤木が目の前に座ってるんだよね。全く状況を理解できなかった。ほんの何秒か前までは渡部が座ってた。

俺はその場で、そこに座ってる藤木に訊いたよ。

「藤木、何でお前ここにいるんだ?」

彼女にも「あれ? 渡部は?」って。

藤木も彼女も一瞬アレッって感じで俺も見て「何言ってんの?」って雰囲気。

彼女は間違いなく土曜日も藤木と遊んだと言い張るし、藤木はまともに取り合ってくれない。

俺は気が狂いそうだった。

金曜日から俺は渡部と遊んでたんだ。

金曜日の夜にクラブで酒飲む時だって、土曜日に観光してる時だって俺は渡部と話してた。彼女に渡部と二人で遊んでた高校時代の話をしたのも憶えてるし。

俺は取り敢えず藤木を送った。その後彼女に何度か訊いたが、彼女が知っている限り、藤木と俺にしか会ってないと言う。

気になり初日に行ったクラブに顔を出し、そこで働いてるお姉ちゃん達にも訊いたが、返ってくる答えは藤木だったと。

みんな手の甲のタトゥーを憶えていた。それでも納得がいかなかったから、フィルムは残ってたが土曜日に撮ったフィルムを仕事で忙しいので彼女に頼んだ。

その三日間で、と言っても写真を撮ったのは土曜日に観光した日だけだったが、写っていたのは渡部だった。

物理的な証拠で考えるとやはり俺が遊んでたのは渡部なのだ。

ただ周りの話だと全て藤木。もっと不思議なのは渡部から写真が送られてきたこと。渡部とは今でもメールで台北での話をしている。

更に藤木が去年の暮れからインドに滞在していることを絵葉書で知ったこと。

因みに藤木は今回の俺の経験を全く知らない。俺は今でも何が何だか分からないでいる。

関連記事

ビー玉(フリー写真)

A子ちゃんの夢

ちょっと辻褄の合わない不思議な経験で、自分でも偶然なのか思い込みなのか、本当にそうだったのか自信がないのですが。 子供の頃、大人になっても憶えているような印象的な夢を見た事があり…

繰り返し見る夢

夢に関する不思議な話を。 同じ家や場所を繰り返し夢に見ることはあるだろうか。 別に続きものという訳ではなく、ホラーであったり日常的であったりと、関連性は無いけど舞台がいつも…

鳥居(フリー素材)

カキタ様

俺が田舎に転校していた頃の話。 俺の家庭は当時ごたごたしていてさ。それが理由で学校とか行きづらくなっちゃって。 友達は「気にすんなよ、一緒に遊ぼうぜ」と言ってくれるんだけど…

手形

友達の先輩Aとその彼女B、それから先輩の友達Cとその彼女Dは、流れ星を見に行こうということで、とある山へ車を走らせていました。 山へ向こうの最後のガソリンスタンドで給油を済まし、…

死臭

人間って、死が近づくと死臭がするよね。 介護の仕事をしていた時、亡くなるお年寄りは3、4日前から死臭を漂わせてた。 それも、その人の部屋の外まで臭うような、かなりハッキリした臭い…

音のない世界

時間が消えた坂道

確か、小学2年生の頃の出来事です。 クラスで仲の良い友人が、ある日こう言いました。 「すごい場所があるんだよ! 今日行こうぜ!」 彼は以前から「宇宙人を見た」などと…

金縛り中の他者的視点

以前、一度だけどうにも奇妙な体験をしたことがある。 金縛りというものは多くの人が経験してると思うが、あれは脳の錯覚だ。 本当は寝ているだけなのに、起きていると脳が勘違いをし…

車のテールランプ(フリー写真)

父親の謎の行動

俺と弟は心霊スポットが好きで、夜中に曰く付きの廃墟などに侵入していた悪ガキだった。 残念ながら二人とも霊感はないから、殆ど廃墟探険なのだけど、何もない田舎ではそれだけでも楽しかっ…

遊具

記憶の中の転校生

幼稚園の頃、同級生が交通事故で亡くなった記憶がある。しかし、月日が流れたある日、そのはずの同級生が転校生として私の小学4年生のクラスに姿を現した。 当時、幼稚園の同級だった数人…

顔半分の笑顔

僕がまだ子供だったとき、ある晩早くに眠りに就いたことがあった。 リビングルームにいる家族の声を聞きながら、僕はベッドの中から廊下の灯りをボンヤリ見つめていたんだ。 すると突…