更衣室のドアノブ

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私は初等教育学科で勉強していて、この科は文字通り小学校教諭を目指す人たちが専攻しています。

授業の中には『学校給食』やら『体育』やらといったものもあって、私は体育が苦手でした。

中でも鉄棒の授業はお手上げ状態で、毎日放課後になると、同様に鉄棒を苦手とする友達と連れ立って、鉄棒の練習に励んでいたのです。

練習していた場所は地下にある体育室で、練習する時間といえば夜の19時過ぎから20時過ぎの一時間ほど。

いつものように鉄棒の設置をして練習…。この日もあまり成果の得られぬまま練習を終え、更衣室に入って着替え始めたのですが…。

おしゃべりしながら着替えをしていると「がちゃがちゃ…」という音と共にドアノブが動き始めたのです。

少し驚いて私達は小さな悲鳴をあげましたが、誰かのイタズラなんじゃないかと思い直し、ドアの外側に向かって声をかけてみました。

「誰かいるの? どうしたの?」

ドアノブの音は収まったものの、反応はありませんでした。

元来、気の強い私が、もう一度声をかけてみました。

「誰っ!私達をからかってるんでしょ!?」

やはり反応はありません。

私達3人はかなり怖くなってきました。すでに着替えは終わっていたので、早々に立ち去ろうとカバンを肩にかけてドアに近寄ろうとすると「がちゃがちゃがちゃ…」。

しかも、最初は音も小さく回転もゆっくりだったのが、段々と音も回転も激しさを増してきて、ドアノブが壊れるんじゃないか!?という勢いでした。あまりの怖さに悲鳴も出ません。

どのくらいの間その状態が続いたのかは覚えてないのですが、ドアノブの音と回転が収まった時に友達の一人が、

「きっと幽霊だ!怖いよ怖いよっっ!!」と言って泣き出したので「大丈夫!大丈夫!」と背中を叩きながら、よせばいいのに、私がバカな事を言ってしまったのです。

「原因が判らないから怖いんだよ!原因を確かめよう!」

私がドアノブの外側。残りは更衣室の中に残って、様子を見てみよう…と。

怖かったのですが、恐怖感が原因追及することで収まるような、妙な感覚が私に沸いてしまったんでしょうか?

とにかくそういう事にして、私はドアの外側に立ちました。

わずかな時間ですが、何故がちゃがちゃと動くのか確かめてやろうと、私はドアノブを凝視していました。

ふいに更衣室から「いやぁぁぁっっ!!!!」と友達の叫び声が。

びっくりして更衣室の中に入ると、2人の友達は半泣き状態でした。

私が見ていた外側のドアノブに異変はありませんでした。しかし更衣室側のドアノブは、再びあの現象を起こしていたのだというのです。

「がちゃがちゃがちゃがちゃ……」

もう原因追求どころの話ではありません。3人固まるようにして更衣室を飛び出ると、体育教官室まで走って逃げていきました。

助手の先生に訳を話しましたが、笑い話にされてしまって終わり。それ以降、放課後の鉄棒の練習は怖くて出来ませんでした。

未だに原因は判らず終い。もうあんな体験はうんざりです。

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