見えない壁
数年前の話。
当時中学生だった俺は雑誌の懸賞ハガキを出すために駅近くの郵便局に行く最中だった。
俺の住んでる地域は神奈川のほぼ辺境。最寄り駅からまっすぐ出ているような大通りでもあんまり人気や車がこない。
そのときは確か当時出たばっかの iPodを購入したばっかりで、それをいじって歩いてた。
ろくに前なんか見てなかったんだけど、郵便局まであと数十メートルってとこの路上で、いきなり頭から何かにゴツンッ!と突っ込んで思いっきり尻餅をついてしまった。
てっきり人にぶつかってしまったんだと思った。
慌てて「すみません!」って謝りながら立ち上がろうとしたんだけど、周りを見ても誰もいない。
障害物があるわけでもなく、いつも通りの景色が見えるばかりだった。
困惑しながら、誰も見てなかったかなぁと再び歩こうとしたら、最初の一歩を出した瞬間、ゴツッと石にぶつかるような音で空を蹴り飛ばした。
「はぁ?」って思わず声に出してしまったと思う。目の前には何もないはずなのに、これ以上進めない。
RPGとかアクションゲームでよくあるじゃん、町の中を歩いてて、イベントとかで行けない場所があると見えない壁に阻害されるの。
その壁っぽいのは完全に透明で光に反射とかもしてなくて、手で触ってみたら大理石みたいな感触だった。
で、前記の通り田舎だから、そんときも壁の向こう側に人が何人か歩いてる感じで、こっちが手をふったりしても向こうの人は全然気付いてないみたいだし、仕方ないから別の道を探すかーってぐらいの軽い感じで来た道を引き返したんだよ。
そんで、壁に背を向けて歩き始めて1分もしないうちに、前の方から赤いスポーツカーが結構な勢いで走ってくるのが見えた。
割とスピード違反な感じで、そのときは急いでるのかなぁとしか思ってなかったんだけど、その車が俺とすれ違ったときに、あの見えない壁とぶつかったらどうなるんだろうって一瞬で青ざめた。
あんなスピードじゃもう間に合わないだろうって直感で脳が回転して、握ってた iPodを急いでポケットにしまって駆け出した2〜3秒後に
「ガッシャアアアアアアアンッッ!!」
ってもの凄い轟音と、壁の向こう側からその轟音に負けず劣らずでかい悲鳴が聞こえた。
思わず一瞬だけ振り向いてしまったけど、赤い車が道路の前で停止していたのがチラッ見えただけで、殆ど何も覚えてない。
すぐ前方を向いて無我夢中で家に逃げ帰った。
翌日、地元の新聞に小さく「駅前の道路で事故、1人死亡」とだけ載っていて背筋が寒くなった。
それ以上のことは何も書いてなくて、両親や学校の友人に教師も事故について喋ってる人はいなくて、 それっきり見えない壁も現れなくなった。