親父の予言

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

抽象的(フリー素材)

数年前、親父が死んだ。食道静脈瘤破裂で血を吐いて。

最後の数日は血を止めるため、チューブ付きのゴム風船を鼻から食道まで通して膨らませていた。

親父は意識が朦朧としていたが、その風船が酷く苦しそうだった。

その親父が掠れた声で「鼻を入れ替えろ、鼻の名前を入れ替えろ」と言った。

名前…? 俺や家族は、「チューブを通す鼻の穴を入れ替えろ」という意味だと思ったのだが、『名前』というフレーズの意味が解らない。

結局「意識も混濁しているようだから、言い間違えくらいあるだろう」という結論になった。

親父はその次の日に亡くなった。慌しく葬式の用意を始めた。

お袋が用意中に献花の配置がおかしい事に気付いた。

遠縁の親戚からの花が真ん中にあって、親父の勤めていた会社の社長からの花が端っこに追いやられていたのよ。そして葬儀屋に言った訳だ。

「すみません、あの二つの花を入れ替えてください。大変でしたら、花に付いている名前を入れ替えてください」

その時、俺と祖母が同時に気付いた。「お袋…今、何て言った?」

「『鼻』の名前を入れ替えろ」

ではなく、

「『花』の名前を入れ替えろ」

親父はこの事を言いたかったのだろうか?

お世話になった会社の社長に失礼を働くのが嫌で、こんな予言を残したのだろうか? もう真実は判らない。

その社長はとても良い人で、母子家庭になった我が家を助けてくれた訳だが、それはまた別の話。

関連記事

京都(フリー写真)

かわらけのお狐さん

小学生の頃に学校の畑を掘ったら、土の中から陶器の狐が出てきた。 真っ白のかわらけで出来た狐のお面みたいなもので、他にも沢山出て来た。 七福神や打出の小槌などの縁起物もあっ…

林

山の女の子

昔、私が小学3年生のとき、毎年夏になると両親は私を祖母の家に連れて行っていました。その町は都心から離れたベッドタウンで、まだ発展途上の田舎でした。周囲は広い田んぼや畑、雑木林が広がっ…

見えない壁

数年前の話。 当時中学生だった俺は雑誌の懸賞ハガキを出すために駅近くの郵便局に行く最中だった。 俺の住んでる地域は神奈川のほぼ辺境。最寄り駅からまっすぐ出ているような大通り…

わたしはここにいるよ

俺が小学生の頃の話。 俺が住んでいた町に廃墟があった。 2階建てのアパートみたいな建物で、壁がコンクリートでできていた。 ガラスがほとんど割れていて、壁も汚れてボロボ…

山道

お遍路さんの道標

俺は九州出身なのだが、大学は四国へ進学した。以下はゼミの先輩から聞いた話だ。 四国と言えば八十八ヶ所霊場巡りが有名だが、昔は大変だったお遍路も今では道が整備され、道標も各所にあり…

姪っ子に憑依したものは

高校生の夏休み、22時くらいにすぐ近所の友達の家に出かけようとした。 毎日のように夜遅くにそこへ出かけ、朝方帰って来てダラダラしていた。 ある日、結婚している8歳上の姉が2…

竹藪(フリー写真)

佐々間のおばちゃん

子供の頃は両親が共働きだったので、うちには幼い俺の世話をする『佐々間のおばちゃん』という人が居た。 おばちゃんはちょっと頭が良くなかったせいか仕事は持たず、自分ちの畑とうちのお手…

ダム

迷い込んだ農家

以前付き合っていた霊感の強い女性から聞いた話。 「これまで色んな霊体験してきて、洒落にならんくらい怖い目にあったことってないの?」と尋ねたら教えてくれた。 俺が聞き伝えでこ…

地底世界

小学校2年生の頃の話。 山に囲まれた田舎に住んでいたんだけど、学校の帰り道で知らないおじさんとおばさんが俺に話しかけてきた。 知らない人には付いて行ってはいけないと言われて…

山道(フリー写真)

出られなくなる山道

車好きの友人(Aとします)から聞いた話です。 G県のある山中に、夜間は通行禁止にされている山道があるそうです。 夜間通行禁止の理由として、 『明かりが全く無い上に見通…