親父の予言

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

抽象的(フリー素材)

数年前、親父が死んだ。食道静脈瘤破裂で血を吐いて。

最後の数日は血を止めるため、チューブ付きのゴム風船を鼻から食道まで通して膨らませていた。

親父は意識が朦朧としていたが、その風船が酷く苦しそうだった。

その親父が掠れた声で「鼻を入れ替えろ、鼻の名前を入れ替えろ」と言った。

名前…? 俺や家族は、「チューブを通す鼻の穴を入れ替えろ」という意味だと思ったのだが、『名前』というフレーズの意味が解らない。

結局「意識も混濁しているようだから、言い間違えくらいあるだろう」という結論になった。

親父はその次の日に亡くなった。慌しく葬式の用意を始めた。

お袋が用意中に献花の配置がおかしい事に気付いた。

遠縁の親戚からの花が真ん中にあって、親父の勤めていた会社の社長からの花が端っこに追いやられていたのよ。そして葬儀屋に言った訳だ。

「すみません、あの二つの花を入れ替えてください。大変でしたら、花に付いている名前を入れ替えてください」

その時、俺と祖母が同時に気付いた。「お袋…今、何て言った?」

「『鼻』の名前を入れ替えろ」

ではなく、

「『花』の名前を入れ替えろ」

親父はこの事を言いたかったのだろうか?

お世話になった会社の社長に失礼を働くのが嫌で、こんな予言を残したのだろうか? もう真実は判らない。

その社長はとても良い人で、母子家庭になった我が家を助けてくれた訳だが、それはまた別の話。

関連記事

すたかという駅

京都駅からJR線に乗っていて、長岡京で降りようと思ってたのに寝過ごして、起きたらちょうどドアが閉まって長岡京を出発するところだった。 仕方がないので折り返そうと次の駅で他の数人と…

雑居ビルの怪

今からもう14年くらい前の、中学2年の時の話です。 日曜日に仲の良い友人達と3人で映画を観に行こうという話になりました。友人達を仮にAとBとします。 私の住んでいる町は小さ…

アンテナ鉄塔の異変

私はドコモ関連の設備管理の仕事をしている者ですが、昨年の年末にちょっと信じられない体験をしました。 これまで幽霊とか妖怪とか、そういうものは信じていませんでしたし、そういった現象…

谷川岳(フリー写真)

谷川岳の救難無線

大学のワンゲル時代の話。 部室で無線機をチェック中に、 「どうしても『SOS』としか聞こえない電波がFMに入るんだけど、どう?」 と部員が聞いて来た。 その場に…

恋人(フリー写真)

本当の霊視

とある心霊系のオフ会に参加した時の話です。 私は霊感がある(手品も上手い)Tさんの車に乗せてもらい、スポットを幾つか回りました。 不思議なのはその人の会話です。 話題…

赤い橋

赤い橋

俺が高校生だった頃の話。 両親が旅行に出かけて、俺は一人でお婆ちゃんの所に行ったんだ。 婆ちゃんはよく近所の孤児院でボランティアをしていて、俺もよく介護のボランティアをして…

無人駅

高九奈駅

今でも忘れられない、とても怖くて不思議な体験をしたのは、私がまだOLをしていた1年半前のことです。 毎日、会社でのデスクワークに疲れて、帰りの電車で眠るのが日課でした。混んでい…

知らない女の子

東日本大震災での被害はほとんどなかったものの、津波で水をかぶった地域。 地震発生後、町内で一番高いところにある神社に避難していく途中、見慣れない女の子が猫を数匹抱えて走る姿を数多…

山祭り

久しぶりに休みが取れた。たった2日だけど、携帯で探される事も多分ないだろう。 ボーナスも出た事だし、母に何か美味いものでも食わせてやろう。 そう思って、京都・貴船の旅館へ電…

雨(フリー写真)

黒い傘

あまり怖くないかもしれないけど、今日のような雨の日に思い出すことがあるんだ。 高校2年生の夏休みの時の話。 友人二人(AとBとする)と買い物に行っていると、突然雨が降って来…