夏の記憶
私が小学生の頃のことである。
夏のある日、田舎にある母の実家に家族で訪れた。
夕食時に、弟と両親は近くの有名なお寺を見学すると言って外出し、私はおばあちゃんと実家に残った。
おばあちゃんは店番をこなしつつ、私には見慣れない地方のテレビ番組を流していた。
飽きた私は、習得したてのこの町の地理を試すべく、ひとり散策に出かけた。
歩き始めてしばらくすると、盆踊りの準備をしている人々の集まりを遠くに見つけ、興味を引かれてそちらに向かった。だが、なぜかその場所に辿り着くことができない。
夕暮れの空が次第に薄暗くなり、不安が募る中、突如として明かりが私の周りを照らした。
目を凝らすと、私は小高い丘の上に立っていた。
周りには賑やかな夜店が並び、楽しそうに遊ぶ子供たちが駆け回っている。
しかし、彼らの言葉が理解できず、その不思議な雰囲気に圧倒された。
そして、その中に一匹の犬と背の高い男が私の方をじっと見つめていた。
何故かその姿に見覚えがある気がした。
心の中で「帰りたい」と叫ぶと、その犬と男は私に近づき、「大事にしなよ」とだけ言って、強風とともに消え去った。
気がつくと、私は両親と一緒にお寺の境内にいた。
驚いた両親によると、私は突然お寺に駆け寄ってきたのだという。
私が放置されていたわけではなく、一時的なものと思われた。
実家に戻り、その夜、おばあちゃんにその出来事を語った。
すると彼女は真顔になり、お寺に私を連れて行った。
そして語り始めた。
「お前が幼い頃、このお寺の近くで首を縄で絞められ、片足を切断された犬の死体を見つけていた。その場にたまたま居合わせた中学生がお前をからかい、泣かせていたんだ。そして、驚いたことに、その犬が生き返ったかのように、中学生に襲いかかった。」
その中学生は犬を殺した犯人だったらしい。
しかし、私の心の中にはその出来事の記憶はない。
あの夜店での出会いと、幼少期の出来事との関連性を、私はまだ掴めていない。