壁の向こう側

トンネル(フリー写真)

トンネルで不思議な現象に出遭った。

そんな話をよく聞くのだが、実は私にもそんな経験がある。

この時期になると思い出すのだ。

※

ちょうど冬休みに入った日のこと。小学6年生だった。

そのトンネルは高速道路の下を真っ直ぐ横切る、細くて短いトンネルだった。

左右一車線ずつ、片側にしか歩行者用の区切りがない、そんな所だった。

今はアスファルト舗装されているが、当時はまだ舗装もされていなかった。

場所は伏せた方が良いと思うので書かないが、ある県の農村部とだけ申し上げておく。

とにかく田舎のトンネルだ。

※

その日、私は友人宅に行くためにそのトンネルを通った。まだ午後の一時過ぎだった。

子供の足でも数十秒で通り抜けられるくらいの短いトンネル。

向こう側の出口がトンネルの外からだって見える、そんなトンネルに入った途端の出来事だった。

目の前が急に真っ暗になった。見えるはずの向こう側が見えない。

何が起きたのか解らなかったが、とにかくおかしいぞと思った。

それで、とにかく一度外に出ようと振り向いたら、そこにはあるはずのない壁が。

ちょうどトンネルの横壁と同じようなコンクリートの壁があった。

入ったばかりの入り口が壁で全部塞がっていた。

怖くなり、外に出ようとトンネルの反対側出口に向かって走ったが、いくら走っても外に出られなかった。

先にも書いたが、そもそも出口が見えない。いつもならあっという間に出られるはずなのに。

そこでもう一度反対に戻ると、やはり壁に突き当たって出られなかった。

ちょうど長い袋小路に押し込められたような感じだった。

当然パニックを起こして「うわー」とか「おおー」などと叫んでいたと思う。壁も叩いたり蹴ったりした。

しかし、壁に変化などあろうはずもなかった。

仕方なく、もう一度向こうに出ようと歩き始めた。

※

依然として出口は見えないままだったが、暫くして妙な音がしているのに気付いた。

横壁の向こうから車の走る音がしていた。

普通に道路を歩いている時にしている車の音。舗装していない道を走るジャリジャリという音。

その時に解った。『壁の向こう側に本当のトンネルがあるんだ』と。

『じゃあ、今いるここは?』と考えても答えは出なかったが、とにかくここはあのトンネルではない。それだけは確かのようだった。

そこで、横壁を触りながら前に進んで行った。横壁のどこかからトンネルに帰るのではないかと思ったのだ。

聞こえるからには繋がっている所がある。そう思うしかなかった。

ちょうどパントマイムでよくやっている『壁』の動きをしながら壁を触りながら進んで行くと、突然、本当に突然明るいところに出た。

辺りを見ると、20メートルくらい後ろにトンネルの入り口が見えた。道端に立っていた。いつもの見慣れた場所。

『こちら』に戻って来たらしかった。

戻ることのできた理由は判らない。

※

この後、急いで友人宅へ行き、これこれこうだと説明したのだが、当然信じてもらえなかった。

無理やりトンネルまで連れて来たが、変わった所はなく、

「嘘ばっかり言ってるんじゃない」

と言いながらトンネルに入っていった友人も、何のこともなくトンネルを通り抜けて普通に戻って来た。

※

話はこれだけですが、一つだけ、今でもどうなっただろうと思うことがある。

あの時私は、一つしかない歩行者用の区切りに沿って中に入り、その後もこの区切りの中で、奥に行ったり戻ったり、壁を触ったりしていた。

もしあそこで区切りの向こう側、つまり奥に向かってではなく、車道に向かって横にずっと歩いていたら、向こうはどうなっていたのか、それが判らないのだ。

壁があったのか、空間が続いていたのか。

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