石屋のバイト
私は二十歳の頃、石屋でバイトをしていました。
ある日、お墓へ工事に行くと、隣の墓地に自分の母親くらいのおばさんが居ました。
なぜかその人は、私の働く姿を見守るような目で見ているのです。
その人のお墓は最近の仏さんだな、というのは雰囲気で解っていました。
少し話を聞くと、最近バイク事故で息子さんを亡くされたとか…。
「同じくらいの年頃の子を見るとどうしても…」
そのおばさんの心情は、馬鹿な私にも痛いほど解ります。
おばさんは帰りに、
「これ息子に供えたのだけど、良かったらおやつに…。
親よか先に死んだら駄目だよ」
「はい、気ぃ落とさず元気で…」
帰って行くそのおばさんの後ろ姿を、今でも憶えています。
※
三時の休憩にそのおやつを食べようとすると、離れた所で働いていた隣県の同業の親方が近付いて来ました。
「今、そこに地蔵さんが手を繋いで降りて来てるから…。
墓所の向こうに六地蔵があるから、それをそこへ…」
と言い残し、戻って行きました。
私はそんなことないだろうと自分の親方に言うと、
「いや、あの人は大病の死に際から生還して以来、視えるらしいから。言われた通りにしろ」
と言いました。
私はその頂いたおやつを、お地蔵さんの所へ供えました。
※
石屋のバイト時代の話をもう一つ…。
その日の現場(墓地)工事を終え、翌日の段取りに会社に帰ると、
「明日はここへ行ってくれ」
と、図面と製品の墓石を案内されました。
石の裏に刻まれた名前は、二年前に事故で亡くなった友達です。
この仕事をしていれば、こんなこともあって不思議はありませんが、この時はそう思いたくはありませんでした。
すかさず私は社長に言いました。
「これ、俺の友達だから最後まで担当させて下さい」
「そうか、良い仕事しろよ!」
工程上、最低日を除き三回は行くので、担当が代わる可能性があったのです。
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当日はあいつの好きだった銘柄の煙草とコーラを買いました。
あいつを思い出し、コーラを飲み、煙草を吸いながら心の中で、
「おう、待ってろよ、立派なの作ってやるからよ」
などと言いながら仕事をしました。
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数日後、完成。
納骨が終えた頃を見計らい訪れると、花が飾られています。
更に数日後、あいつの夢を見ました。
前歯の無い顔で笑いながらエ○本をくれる夢…そんな奴でした(笑)。私の思念が見させた夢かもしれません。
大きな事故だったので今でも色々な噂はあるようですが、私はあの夢であいつの成仏を信じたいです。