あき様

和室(フリー写真)

私の家は代々旅館を営んでおり、大きな旅館のため私が幼少の頃も両親共に忙しく、会話をした記憶も殆どありませんでした。

店の者が毎日学園まで迎えに来るので、学友と遊びに行く事も出来ず、何時も母屋かお店で二人で遊んで過ごしていました。

ここで問題となるのは、『二人』で過ごした事です。

私は一人っ子で外出も禁止されていたので、近所にはお友達も居ませんでした。

ですが、綾取りやおままごと、お花摘み。鞠遊びも全て二人で遊んでいました。

時折、祖母も交えて三人で遊んでいましたが、私が疲れて休んでいる時も、祖母と彼女はお話をしたりお菓子を食べたりしていました。

一緒に遊んでいたお友達を、私は『あき様』と呼んでいました。

年月は過ぎ、私の息子も小学一年生になりました。

彼は一人でキャッチボールをして遊んでいます。

学校から帰ると、グローブを二つ持って庭に向かって駆け出し、

「あき様~」

と大きな声で呼びながら姿を消します。

息子が心配なのもありますが、私もあき様に会いたいので探しても会えません。

息子に付いて行っても、あの子は少し油断すると何時の間にか消えてしまいます。

ですが、お夕飯時にはひょっこりと現れて、

「あき様と○○して遊んだ」

と、楽しそうに話してくれます。

大人になると、会えなくなるのでしょうか?

今は『お婆ちゃんになったら会えるのかな?』と思い始めています。

今日でお別れかな

もう10年以上前の話だが、とある県の24時間サウナで意気投合した男の話。 結婚を考えていた女性がいた。 ある日の晩、一緒に繁華街で遅い晩飯を済ませ軽く呑んだ後、彼女をタクシ…

郵便受け

『Y』

ある日、私の一人暮らしのアパートの郵便受けに『Y』という名前が汚く鉛筆で書かれていた。 私の苗字のイニシャルは『Y』ではない。 不思議に思ったが、いちいち私の部屋の3階か…

夜の峠(フリー写真)

標識

9年前の12月23日に、東京から沼津までバイクで出掛けた。 夜の帰り道、1号から熱海方面に適当に下りようとする。 夜中の2時頃に前のブルーバードが曲がった南方向に行く細い…

トタンのアパート(フリー写真)

訳あり物件のおっちゃん

半年ほど前に体験した話。 今のアパートは所謂『出る』という噂のある訳あり物件。 だが私は自他共に認める0感体質、恐怖より破格の家賃に惹かれ、一年前に入居した。 ※ この…

蛇神様の奥宮(宮大工3)

お稲荷さま騒動から3年ほど経った晩秋の話。 宮大工の修行は厳しく、なかなか一人前まで続く者は居ない。 また、最近は元より、今から十年以上前の当時でも志願してくる若者は少なか…

雪に覆われた山(フリー写真)

雪を踏む足音

初雪の山は登ってはいけない。 そういう話を仲間内でよく聞いていたが、単に滑りやすくなるからだろうと軽く捉えていた知り合いは、命の危険に晒された。 彼は登山歴3年くらいの経験…

蛍(フリー写真)

お面

大学生時代のバイト先だったバーのお客さんの話です。 Kさんはその店に割とよく来るお客さんで、当時20代後半の会社員。僕と同じ茨城出身の人でした。 ちょうど今頃の季節で『蛍…

イタチの仕業

祖母の葬式の晩の事。 田舎の古い屋敷で壁3面ガラス張りの小さな和室に1人だった。長い廊下の突き当たりの座敷には祖母が安置されていた。 裏の山には江戸時代からの一族の墓が並び、近くの公園…

夕日(フリー写真)

歳を取らない巫女様

昔住んでいた村に、十代の巫女さんが居た。 若者の何人かはその人のお世話をしなければならず、俺もその一人だった。 その巫女さんは死者の魂が見えたり、来世が見えたりするらしかっ…

封じ(長編)

アパートに帰り着くと郵便受けに手紙が入っていた。色気のない茶封筒に墨字。間違いない泰俊(やすとし)からだ。 奴からの手紙もこれで30通になる。今回少し間が空いたので心配したが元気…