あき様
私の家は代々旅館を営んでおり、大きな旅館のため私が幼少の頃も両親共に忙しく、会話をした記憶も殆どありませんでした。
店の者が毎日学園まで迎えに来るので、学友と遊びに行く事も出来ず、何時も母屋かお店で二人で遊んで過ごしていました。
ここで問題となるのは、『二人』で過ごした事です。
私は一人っ子で外出も禁止されていたので、近所にはお友達も居ませんでした。
ですが、綾取りやおままごと、お花摘み。鞠遊びも全て二人で遊んでいました。
時折、祖母も交えて三人で遊んでいましたが、私が疲れて休んでいる時も、祖母と彼女はお話をしたりお菓子を食べたりしていました。
一緒に遊んでいたお友達を、私は『あき様』と呼んでいました。
※
年月は過ぎ、私の息子も小学一年生になりました。
彼は一人でキャッチボールをして遊んでいます。
学校から帰ると、グローブを二つ持って庭に向かって駆け出し、
「あき様~」
と大きな声で呼びながら姿を消します。
息子が心配なのもありますが、私もあき様に会いたいので探しても会えません。
息子に付いて行っても、あの子は少し油断すると何時の間にか消えてしまいます。
ですが、お夕飯時にはひょっこりと現れて、
「あき様と○○して遊んだ」
と、楽しそうに話してくれます。
※
大人になると、会えなくなるのでしょうか?
今は『お婆ちゃんになったら会えるのかな?』と思い始めています。